44.
「二人とも!
なりふり構わず走った。
私を止める
「ちょ、あぶなっ——」
「だめ!」
レッドと結陽の間に立ち、大きく両手を広げる。
目先ギリギリ。紙一重で結陽の剣は止まった。
「……どいて。そこにいたらそいつ、殺せないでしょ」
「いやだ」
「もう一回言うよ。そこをどいて」
「だめ!」
どれだけ結陽に剣を向けられても退かない。この手は下ろさない……!
「私の話を聞いて。お願いだから戦わないで、二人とも」
「正気? こいつらは君を裏切ったのに。それでもコウセイジャーの肩を持つの? 私より……私よりあいつらを優先すると言うの?」
「違う……裏切ってなんかなかった」
「違わないよ! だったら目の前にいるこいつは何? レッドは君だったはず。一週間も経たずして代わりを立てるなんて裏切りだと思わないの? 全然助けに来なかったくせに!」
「違う、違うの……!」
結陽に背を向け、レッドに向き合う。
「コウセイジャーは裏切ってなんか無かった。私の代わりなんていない。そうでしょう? ……
「……」
ゆっくりと手を伸ばす。全てを覆う、そのマスクに。
「透子、戦わないで。その武器を使えば透子の寿命が縮んじゃう。例え、呪いを解放しなかったとしてもかなりの負担がかかっているはず。だから変身を解いて。お願い」
左頬に手を添える。温度は感じない。当たり前だ、私が触っているのは無機質なマスク。決して人肌ではない。
「……」
「お願い。結陽も透子も戦わないで。私の話を聞いて……!」
ひゅう。
一陣の風がレッドを包み込む。
「……これで良い?」
「ありがとう……透子」
風が止み、透子が現る。やはり、かなり身体に負担をかけていたようで顔色は良くない。
会えなかった時間を埋めるように、強く……強く抱きしめた。
透子の両腕が私の背へと伸びる。もう二度と離すまいと、力強く抱き留める。
名残惜しいが今は話をしたい。透子と結陽、二人の間に立つ。
透子は変身を解いているが結陽の剣は未だ握られたままだった。これでは公平と言えない。
「結陽も剣を収めて」
「…………何の話をするつもり?」
「これからのことだよ。結陽にとって悪い話じゃない」
「……」
一応納得してくれたのか、黒剣は再び闇の渦へと仕舞われた。
「まずは私の話を聞いてほしい。あのね————」
あの日、結陽に
私の考察、これからどうしたいか、全てを話した。
「——だから、結陽を連れて帰ることを許してほしい。もちろん私的な感情が含んで利ことは認めるよ。でも、それでも! 私は結月と結陽を助けたい。どうすれば良いかはまだ分からない。分からないけど、それはここで殺す理由にはならないはずだよ!」
「……春、本気で言ってるの?」
冷たく、ドスの利いた声が私を咎める。今まで一度も見たことがない、怖い顔。透子が……あの透子が私を睨んでいる。
「……本気だよ」
「そいつは人間じゃないし、罪のない人を殺している。そんな危険なやつを野放しにするの? そんなの許可できると思う?」
「……罪を犯した人は死ななきゃいけないの? 確かに結陽は悪いことをしたかもしれない。でも、結月は何もしていない。それでも死ななきゃいけないの?」
「……確かに結月に罪は無いのかもしれない。でも! もう一人のそいつは違うでしょう! 人をたくさん殺している! 」
「じゃあ結陽は罪を償うことすら許されないの⁉」
「……ッ!」
私の大きな声に飲み込まれ、透子は押し黙った。でもその瞳は結陽のことを信用していない、敵だと睨んでいる。
「結陽。今までしてきたことを償ってほしい」
「私は……」
「今までそういう環境にいたことは分かってる。それでも人を殺すのは悪いことだから……私と一緒に償ってほしい」
「一緒に……?」
「私は自分の怒り、復讐のために怪人を殺してきたよ。時に残酷に、執拗に。怪人が完全な悪だと思っていたから。でも、そうじゃないんだよね? 結社で生み出された怪人が元は人間だったとしたら、私は……悪いことをしたと思う。顔を踏み潰す必要も、わざと苦しめて殺す必要もなかった。私はただ、安らかに逝けるように怪人を倒すべきだった」
「春ちゃん……」
「……」
今まで私の戦いぶりを近くで見てきた二人は、はっとして私を見つめる。
そうだよ、今まで私がやってきたことは復讐でもなんでもなかった。怪人だって被害者だったんだ……!
「だから二人で——」
「……私はッ!」
一緒に償おう。そう言おうとしたのに、突如として結陽は大きな声で叫んだ。
「私は……償うなんて、出来ない。それが仕事だから。そうしろって言われたから、たくさん殺してきた。数えきれないくらいの人間を殺してきた。だから私は一緒に償うなんて無理だよ……。この身体の……結月には申し訳ないけど私は——」
「そんなことない!」
「だって、方法が分からない……! 結社の命令だとしても大勢を殺した! そんな私に償いなんて……償っても許されると思えない!」
「じゃあ結陽はこのまま人を殺すの? 結社に言われるがままに殺し続けるの?」
「それは……」
ばつが悪そうに結陽は俯く。
……私には分かる。結陽は好きで人を殺しているわけじゃない。
確かに戦っている最中は笑っているし、殺してやるって言うけど。でも相手を倒した時、結陽は悲しそうな顔をした。
私が結陽に急襲されて、倒れた時だって悲しそうな顔をして抱き留めてくれた。
それに昨日、隣で眠る結陽はうなされていた。ごめんなさい、ごめんなさいって何度も何度も。
他の怪人と違って結陽は自我がある。ちゃんと自分の気持ちが分かっているはずだ。
だからまだ間に合う。結社に染まりきっていない結陽を救う事が出来る……!
「今はどうしていいか分からなくても大丈夫だよ。私と一緒に考えよう?だから 一緒に…………これからを生きよう?」
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