43.
パリンッ!
「グワァァァァァァァ!」
「オノレ、ココマデキタカ……! コウセイジャー!」
怪人の悲鳴、そしてコウセイジャーという単語。私は思わず立ち上がった。
もしかしたら私を助けに来てくれたのかもしれない。でもここに来たら結陽が殺されるかもしれない。
焦燥感に苛まれながらゆっくりと扉を開き、外の様子を窺った。
「イソゲ! テキハゴニンダ!」
「コロセ!」
「”2番”サマニモキテモラエ!」
遠くから話し声が聞こえる。このままじゃ、まずい。結陽が戦わされる。結陽は強いけど五人がかりだと倒されてしまうかもしれない。そしたらきっと結陽は殺される。
「結陽。寝てるところなのに、ごめん」
「う……あたま、いたい…………」
頭を押さえ、よろけながら結陽は立ち上がる。ふらふらとその足取りは頼りない。
「逃げよう。ここにいたら危ない」
「逃げる……? なんで私が」
「コウセイジャーが来てる。このままじゃ結陽がやられちゃうよ。それに怪人たちも結陽を前線に置いて戦わせようとしてる。この体調じゃ無理——」
「無理じゃない。戦う」
言うや否や、結陽は禍々しい闇の渦を顕現させる。どす黒いその渦に躊躇なく左手を突っ込む。
「……!」
「それは……?」
墨で塗りつぶしたかのような真っ黒な剣。刃も持ち手も全て黒に塗りつぶされた剣だった。
「私の武器は毒だけじゃないから。心配いらない、戦えるよ」
「待って、止めて。戦わないで……!」
「大丈夫。死なないよ、私は」
「まっ——」
ガシャンッ!。
扉の向こうへと歩いていく結陽を止めようとした。でもその声はコンクリートの壁が砕け散る音に遮られてしまった。
パラパラと粉塵が舞う中、それは現れた。
「コウセイジャーレッド、参上」
「へぇ……?」
結陽は振り返り、レッドに向かってゆっくりと剣を構えた。
「待って、止めて! 話を、私の話を聞いて!」
「殺す!」
「やれるものなら!」
両者の耳に声は届かず、非情にも戦闘が始まった。
激しくぶつかる剣と籠手。あまりの速度と威力に、剣先から火花が散る。
「あ……ああ……」
レッドの中身が誰だか知らないけど使っている武器には見覚えがあった。禍々しい、呪われているかのような見た目。間違いない、あれは私の武器だ……!
呪われていることが分かっているのか、いないのか。傍から見ているだけの私にはそれは分からない。
「……ッ!」
二人は互角、というわけではない。やや、結陽が押しているように見える。だが決定的な一撃は出ていない。辛うじて上回っているに過ぎない。
一方レッドも若干押されていると言えど、やはりさすがコウセイジャーだ。結陽が毒を使うことは周知の事実らしく、的確な間合いを保っている。
だが時折、見ているこちらがヒヤヒヤするくらい捨て身の攻撃を行っている。もう少し結陽の剣筋が逸れていたのなら、致命傷を負っていただろう。
「……春ちゃん」
「えっ……
いつの間に現れたのか。凛華さん……コウセイジャーピンクは背後から私を抱きしめた。
「良かった……。無事で良かった」
「助けに来てくれたの……?」
「当たり前じゃん。遅くなってごめんね……。ここを見つけるのに手間取っちゃって。ブルー達が表で怪人たちを引き付けてくれてる。今のうちに逃げよう。私が抱えて走るから」
「待って、まだ……」
未だレッドと激しい戦いを続ける結陽に目を向ける。不敵に笑っているが頭痛がひどいことは一目瞭然だった。このまま戦えば負けてしまうかもしれない。そしたら結陽は……。
「……どうして春ちゃんはあの敵のことを気にするの?」
マスクで顔は見えないがきっと怪訝な表情を浮かべている。そんな声だった。
「違う! あれは敵じゃないよ、私がずっと探していた結月なんだよ……お願いだから話を聞いて……。あの二人の戦いを止めて……」
「……それは私にも無理だよ。止まらないよ、あれは」
火花舞い散る二人の衝突を見て、凛華さんは諦めたように呟いた。
「このままじゃ死んじゃうよ! どっちかが——」
言いかけて、口を噤む。
そもそも結陽と戦っているあのレッドは誰なんだ……?
「……凛華さん。あの人、だれ? 私の代わり?」
それはどれだけ冷ややかな声だっただろう。自分の口からこんなに低い声が出るなんて思わなかった。
怯むことなく凛華さんは言い返す。
「……違うよ。代わりなんかじゃない。あの人は————」
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