第9話……エピソード14……一転してアレッポ攻め
1373年2月上旬の日曜日午前10時……王の広場
まず全員で王の広場に行った。広場の北側に、大バザールへの入口の門がある。
王の広場は東西180メートル、南北550メートルの巨大な空間の四周を二層のアーチ式回廊が取り囲み、その表面は青、黄、赤などの
東のシャイフ・ロトファッラーのモスク、王宮への入口となる西のアリ・カプ門「(トルコ語で至高の門)の意」、北の大バザールへの入口の大門、そして、南の「王のモスク」である。
「王の広場」は、国家の公式行事が行われる政治的な場であり、宗教・文化などの機能をも併せ持った複合的な空間であった。
現在イランの王はスサンナの祖母であり、以前にはアドルフの側室の一人でもあったスネジャーナが努めている。スネジャーナも同行しているが我々への饗応がすなわち国家の公式行事の一つであった。
もちろん、普段は市民のための一大商業空間としての役割も果たしている。
広場を取り囲む回廊はそのまま工房やバザールとなり、職人が仕事をし、出来た品物をその場で売りさばいていた。文房具店、長持ち職人、馬具商、綱職人、
アドルフたちはコーヒーを飲みながら次の段取りを付けていた。女たちは大バザールの中に入り、思い思いの買い物に興じていた。この間にアドリアンと取り交わした密約の段取りを練っていたのである。
99個の部隊をあちこちに散らばらせたのは事実であるが行き先はバスラであった。バスラからユーフラテス川を川船で上り、アレッポを目指すのだ。
ラッカで合流し、シリア、エジプトを一気に攻めるのだ。
会議中にコーヒーハウスの中を見渡すと。男たちが高い吹き抜けの天井の下のクッションにもたれて、ゆっくりとコーヒーをすすり、様々な話に打ち興じていた。詩人たちが集まって詩会も開かれていた。
1373年2月上旬の日曜日午前11時……王の広場
打ち合わせを終えたアドルフたちは王の広場を見物することにした。公式の行事が特にないので広場それ自体が露天で埋め尽くされていた。金物商、古着商、各種の家畜商、家禽商、指物・大工用品売り、干し果物売り、綿糸売り、綱売り、帽子売り、フェルト売り、馬具商、毛皮商、綿打ち職人、鍋釜屋、両替商、薬種商、果物屋、八百屋、肉屋、料理屋、など多くの品物を取り扱っており、まさにこの広場は「市場の中の市場」である。
広場はまた、娯楽、気晴らしの場でもあるようだ。見ていると軽業師が宙を舞い、動物使いや手品師が巧みな芸を見せた。講談師の朗々たる声や
横をふと見ると女たちが買い物を終えてアドルフの傍で嬉しそうに見物していた。
昼時になったので近くにある料理屋に全員で入った。豪華ではないが味・質量共に十分だ。アドルフは王の広場を満喫して満足した。
1373年2月上旬の日曜日午後1時……イスファハーン宮殿
スサンナを預けていこうとしたが「私も一緒に行く」と言い張って聞かない。
スネジャーナまでも一緒に行くという。仕方がないので女たちも全員連れて行くことにした。
バスラまでは馬車で2週間、バスラからラッカまでも川船で2週間ほどだ。川や海を使うほうが遥かに早い。今後インド征服のときにはバスラ→ホームズと進み、そこを拠点にしてインドを攻めよう。
1373年3月中旬の日曜日午後1時……ラッカ
アレッポ近郊のダービク平原にマムルーク朝のスルタンであるアシュラフ・シャバーンの部隊が集結するという知らせがあった。その時点で散らばっている全部隊にダービク平原を目指すように指令を出した。
テムジンとムカリの全部隊と合流してアドルフもダービク平原に向かった。こちらは10万人、相手は20万人とかなり不利な戦いであった。しかし、援軍があと10万人くるのは分かっていたので全部隊に触れをだし、敵の騎兵隊の突撃をできるだけ緩和するため「銃器部隊は騎馬で後退しながら銃撃せよ。騎馬弓兵は銃器部隊を守れ」と命令した。
敵の騎馬部隊は訓練も十分にされており、あっという間に我が方は不利になった。万事休すと覚悟したときに敵の後方が乱れ始めた。
調略を仕掛けておいたアイナバク、タシュタムル、バルクークの3重臣がわが方に寝返ったのだ。戦況は逆転した。
アシュラフ・シャバーンを捕らえ、処刑した。
アレッポを占領した。戦後処理を行ないアドリアンに報告した。
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