第三十三話 ギョリュウ
二月十四日バレンタインデー。この日をわくわくソワソワ……なんて過ごすはずもなく。
昼休みに事務の女性社員が数人で買ったチョコを男性社員で分けて食べた。男性社員は一緒に買いに行ったりしないからお返しが高く付くのが苛つく。
モテない、彼女いない歴=年齢の俺にはバレンタインデーなんてイベントでもなんでもない。
だが、その日の帰り道に事務の春田さんがニコニコと紙袋を差し出した。
まさかと思う。
「お疲れ様です。これ、どうぞ」
「えっ……何ですか?」
「何ってバレンタインデーですよ」
俺は春田さんを二度見した挙げ句に瞬きをバシバシとしてしまった。
「じゃあ」
取り残された俺は周りをキョロキョロ見てしまった。
(やったー! これで、俺明日から電車での痴漢は卒業だー!)
ストレスがたまるとやってしまう痴漢。今の所捕まったことはない。興奮と快楽を得られるので欲望のはけ口にしていた。
帰宅すると早速小箱のラッピングを開けた。
途端、俺は青ざめた。
写真が入っている。それも、俺が痴漢している写真だ。
それからチョコではなく花が入っている。
柳のように垂れた枝に薄紫色の花がたくさん付いている。
「気持ち悪」
俺はまとめてゴミ箱に投げ捨てた。それから考える。何でバレて……写真を取られてるんだ?もしかして、花まで贈って……誘ってるのか? 俺はゲヘヘと笑いが漏れた。写真を拾い上げてよくよく見た。この時の興奮を思い出す。
翌朝、いつも通りホームで電車を待っていると春田さんがいる。
(朝になんて会ったことないから……やっぱり俺を誘ってるんだ!)
俺は春田さんにニタニタと笑いながら近付いた。自分でも気持ち悪い顔をしているのを自覚してしまうほどに。
春田さんの隣にいる警察官に気付いた俺はヒッと声を上げた。
『ギョリュウ 花言葉 犯罪』
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