第17話 なかなか進まない

 そして翌朝。


 俺はいつも通りに起きた。ちょっとした妄想というのか期待は吉野が朝食も――とかいうのがあったのだが。俺が起きた時は静かだった。いつも通り俺以外誰もいないんじゃないかってくらい室内は静かだった。


 なんか本で読んだことのある料理出来る子が朝からご飯を作っている。という現状は――なかった。


 俺はとりあえず着替えてから吉野が寝ている部屋に移動して。


 コンコン。


「……吉野?」

「……」


 コンコン。


 一応確認。居るかの確認だな。で、今日も吉野が使っている部屋に声をかけたが……今日も静かだった。


「開けるぞ?」


 ゆっくりとドアを開けてみる。


 ガチャ……。


「……同じだな。朝は弱いんかね」


 今日も気持ちよさそうに吉野は布団に丸まり寝ていた。今日も表情が見えているので。あれはいい夢でも見ているのか。なんかにやけている感じの吉野だった。って、このまま寝顔を見ているのもなので、ってことで俺は学校へ行く準備。まず朝ご飯だな。何があったかなー。とキッチンへと向かった。


 それからしばらくして、なんか廊下の方でドタバタ音がするなと思っていたら……吉野バタバタと起きてきた。


「先輩、起こしてくれてもいいんじゃないですかー。もう」


 いきなり朝から怒られた。なんでだよ。


「今日も一応起こしたんだが?」

「ふぇ?」


 なんか……かわいい声を聞いた気がする。おまえそんな声も出せたのか。


「……ちなみにそんなに寝心地よかったか?昨日もだが。今日も熟睡していただろ?他人の家の割には」

「待って、待って。まさか先輩……寝ている間に――」

「なにもないからな?ただ、あー、気持ちよさそうに寝てるなー。って、寝顔見ただけ」

「部屋入ってきてるじゃないですか!」


 また怒られた。なんで朝からこんなに俺は起こられているのだろうか……。


「……朝から元気だなってここ俺の家」

「もう……」


 なんか言いたいことがあるらしいが。吉野はバタバタと「洗面所借ります」やらやら言ってから動き回っていた。って、こいつ、なんやかんやで俺の家の配置というか。なんか慣れてきてるな。うん。


 ちなみに吉野は学校には行かず。とりあえずじいちゃんばあちゃんのところに行くらしい。まあだよな。ずっとこのまま俺の家は……だめだからな。うん。俺がそんなことを思っていると。私服姿の吉野が準備を終えてテーブルにやってきた。そうか。荷物を持ってきたから着替えは普通にあるから昨日もなんかパジャマ?が普通に風呂行く時に出てきていたのか。とちょっと納得した俺。


「悪いな。パンしかないがいいか?」

「いえいえ、ありがとうございます。助かります」


 俺は食パンを吉野に渡す。そういえば顔を洗ったりしたからか。今日の吉野は髪を後ろで結んでいるのでちゃんと顔が見えている。うん。前髪でバリアよりはるかにこっちの方がいいな。とか思いながらパンをかじる。


「そういえばさ」

「はい?」

「昨日結局授業出たわけ?」

「あー、ずっと指導室に監禁されてました」

「……なんか物騒だな」

「って、先輩が昨日朝起きたらいない。とかいうことがなかったら学校行かなくてよかったんですけど……あと親に捕まってガミガミ言われることも。午前中家に行った時は誰も居なくてセーフだったのに……」

「なぜ俺朝から何度も怒られているのか。そして学校には行けよ」


 そんな感じに朝の時間はバタバタ過ぎていき。いつも見ているお天気お姉さんがテレビに出てくると同時くらいにテレビを消して学校へ向かう。


「吉野も出るか?」

「あ、はい。お世話にになりました」

「ああ、まあ気をつけてな」

「はい」


 キャリーケースを引っ張りながら吉野も外に出た。そしてマンションの前で吉野とは別れて俺は学校へ向かった。


 それからしばらくは1人でのんびり歩く。すると……。


「よっ、久遠」


 学校に近づいたときに後ろから声をかけられた。


「あー、讃大か。おはよう」

「おう。って今日も放課後頼むな」

「まさかの朝から捕まえにきたか」

「いや予定よりかなり遅れてるからな」

「まあ……昨日のあれじゃあなぁー。どっかの誰かさんですら作業してなかったし」

「って、ことで頼んだ。そういえばあれからどうなったんだ?」


 讃大が昨日のことを聞いてきた時。また1人増えた。


「あっ、讃大先輩ー。葛先輩もおはようございます」


 古市合流ってやつだな。


「おー、楓華おはよう。あー、楓華も今日放課後頼むな」

「大丈夫です。遅れてますからね。今日こそ真面目にしないとですね」

「古市もおはよう」

「はーい。って、葛先輩」

「うん?」

「夜空ちゃんはどうしたんですか?」

「今からじいちゃんばあちゃんとこ行くってよ」

「えー。また休みですか?」

「まあ、まずは家の確保なんだろ?どうなるかわからないみたいだが……」

「先輩の部屋貸してあげたらどうですか?」

「意味わからんことを言い出すな」

「うん?なんか俺の知らないところで楽しそうなこと起きてたか?」

「実はですねー」


 それからペラペラと学校に着くまでに古市が楽しそうに昨日のことを讃大に話したため……俺の許可は必要ないらしい。勝手にどんどん昨日の事が讃大へと漏れていた。


「久遠。部屋ないならうち来ていいぞ?久遠なら歓迎するぞ?」

「さらに意味わからんことにしないでくれるかな!?」

「えー、葛先輩、讃大先輩の家ですよ?めっちゃいいじゃないですかー。私は行きたいですよ?で、讃大先輩私もそのうち行っても良いですか?」

「っか久遠って俺の家来たことあったっけ?」

「スルーされました!葛先輩のばかー」


 バンバン。


「……古市。何故俺に怒りの矛先を……って古市は立派な家あるよな?」

「なんとなくです。もう」

「楓華と久遠も仲良くなってるなー」

「なんか余計なことを讃大がしている気がするが……ちなみに讃大の家は行ったことないな」

「そうだったか。まあうちも今は居ないが兄ちゃんが居るからな。部屋は開いてるぞ?」

「誰も部屋を貸してくれとか言ってないからな?」

「讃大先輩。お兄ちゃん居るんですね」

「うん?ああ年は離れてるがな」

「へー、讃大先輩のお兄ちゃんなら……かっこよさそう。うん。讃大先輩がだもんね、うんうん」


 古市は讃大の家行きたそうだな。めっちゃなんか伝わってきたわ。って背中が痛い。めっちゃ普通に叩かれた。

 っかさらっと楓華の家行きたいを交わした讃大だった。


 そんなこんなで学校到着。古市とは別れて讃大と話していると讃大は次から次へといろんなところから声をかけられ。気がついたら俺1人で教室にやってきた。


それからいつも通り授業があって、それは昼休みだった。


「久遠、久遠。ちょっと」

「うん?」

「ちょちょ」


 昼休みに入ってすぐ讃大が俺の机にやってきて俺は強制連行された。


「今日は昼ごはんも抜きになるのか?ブラックがさらにブラックじゃないか。ってどこ向かってるんだ?」

「いや、なんか生徒指導の先生が久遠連れてこいだったからな」

「えっ……めっちゃ行きたくないんだが」

「まあなんか急用らしいぞ?」

「讃大代わりに頼む」

「いや、俺もだ」

「はい?」

「俺も呼び出しだ」


 俺なんかやらかしたか?って、讃大も呼ばれているとかいう謎。讃大が呼び出しとか。今までになかっただろ。って俺も呼び出しされたことはなかった気がするのだが。とか思いながら讃大と生徒指導に行くと。


「……吉野?」

「あ、讃大先輩、葛先輩」

「楓華もか」


 生徒指導室に入ると室内には生徒指導の先生やその他数人の先生と……。

古市が居てさらには私服姿の吉野も居た。うん。俺が朝見た姿のままだな。


 全くわからない状況だ。


「これどういう状況なんだ?」


 俺は生徒指導室に入ってそんな言葉を言った。


 結論というか。結果から言うと俺は昼ごはんを食べ損ねた。

 生徒指導室から出れなかったからな。ずっと話し合い?というか。まあ話していたな。


 なにがあったかというと、数分時を戻す。


 ◆  


「駅に行こうとしたら……先生に」

「……なんとまあ」


 吉野は今日俺と別れた後。駅に向かっていた。駅前?から出るバスに乗るとか言っていたからな。そしたらたまたま担任の先生に見つかり。


「連行されてきて、先程まで黙秘していたと。問題児だな」

「……」


 俺の前では前髪ダラーバージョンの吉野が小さくなっていた。って。先生も連れてくることない気もするんだが。吉野は吉野で生活がだったから。と思ったが。見つかったのが担任の先生だったのがね。ここ数日。連日の問題児だし。


 ちなみに古市は担任の先生から吉野が居ることを聞いてここにやってきたらしい。

 そして古市が俺を呼んでほしいと先生に頼んだらしい。ちなみに讃大はおまけというか。この状況をわかっているからでついでで呼ばれたらしい。


「だって夜空ちゃんのこと一番知っているの葛先輩ですよね?あと讃大先輩も昨日の事知ってますし」


 とか、さっき古市にも言われた。で、まあ、生徒会副会長様のいうことだから……うん、先生らも悩まずすぐに俺たちを呼んだと。


 っか、俺を呼んでもなにも解決しないだろう。とか思っていたのだが……なんか吉野は俺とは普通に話し。先生が口を挟むと黙る。という感じだった。だからか讃大と古市からも変な感じに見られてるぞ。吉野。わかってるか?現状を。どうするんだよこれ。


 結局昼休み終了間際に俺が今の吉野の状況いうのか。今日はサボりではなく……やらやらを話すことになった。って、なんで俺が吉野の保護者みたいになっているだ?わからん。


 でも俺の説明でなんとかなったのか。とりあえずその場は解散。吉野は……まあうん。私服だし理由があるので……帰ることになった。って、キャリーケースに制服入れているのは俺は知っていたが言わなかった。なんか言ったら言ったでややこしいことになりそうだったからな。


 解散後吉野と古市がなにか話していたが。俺は昼昼と退散……としたかったが。


「久遠。次は担任の先生が呼んでたぞ」

「……」


 どうやら今日はよく先生に呼ばれる日だった。なので俺は昼を食いそびれたということだ。


 それからいろいろあり。


 ◆


 その日の放課後。今日は明日が学校休みということもあり。ギリギリまで資料作りをしようやら讃大がはじめは言っていたのだが。


「なんでこうなった?」

「……ごめんなさい」


 小さな声で吉野が頭を下げながら言う。


「いや、まあ吉野が原因では」

「そうそう夜空ちゃんはなにも悪くないですよ。夜空ちゃんの親が……厳しすぎるんです……ホント怖かった……」


 そしてさらに俺の横には若干涙目?の副会長様。何故かこやつも俺の隣に立っている。頭でも撫でてやったらいいのだろうか?ってそんなことしたら捕まるな。うん。


「古市。頼むからここで泣くなよ?俺が泣かせたみたいになる」

「な、泣いてません!怖かっただけです、、、」


 昼休み後。俺はてっきり吉野はじいちゃんばあちゃんとこにやっと行けた。だろう思っていたのだが。まさかの吉野の親がまた学校に乗り込んできたらしく。

どうやら担任の先生が親にまた連絡してしまったらしい。


 ちょうど古市が一緒に居たというか。ほんとあの後すぐだったらしく。なんか巻き込まれて、古市曰く『体育出なくて良くなったからラッキーでした』とかは言っていたが。やはり怖かったというか。なんか自分も怒られた……ではないが。応接室から声が聞こえてきていたらしく。ちょっと今も泣きそうになっている。決して俺が泣かせたじゃないからな?ここ重要。


 ちなみに讃大はというとそんな古市や吉野を放課後になりすぐ見てなのか……うん。生徒会長として話に行ったらしく。今は留守。再度だが。古市曰く『さすが讃大先輩。ピンチにさっと来てくれてかっこよかったです』だと。


 まあそのおかげで生徒会の仕事は全く進まず……『はぁ……』って感じである。


「にしても、讃大先輩戻ってきませんね」

「バトルしてないといいが」

「……私のせいで……」

「だから夜空ちゃんは悪くないから、ね?」

「……」

「っか、吉野」

「はい?」

「今からもしじいちゃんばあちゃんとこって、行けるのか?」

「あ……うーん。厳しいかと。面会時間も終わっちゃいそうですし……バスがわかりません」

「だよな。もう夕方だからな。で、今日はどうするんだ?」

「へっ?」

「いや、また寝床探すんだろ?」

「もしかして……先輩私の心配してくれてます?」


 何を今更と俺が思いつつ言うと。


「ずっとしてたぞ!?」

「えっ?」

「えー!?」

「……なんで古市まで驚いた?」

「いえ、葛先輩が珍しいなー……と」

「俺……評価低かったんだな……」

「い、いえ、ここ最近で葛先輩の事は爆上げですよ?」

「爆上げって……反動で爆下げが起こらないこと祈るか。急激だと反動がありそうだからな」

「葛先輩がドン引きするようなことしなければ大丈夫ですよ」

「……気をつけます」


 危ない危ない。さっき古市の頭でも触っていようもんなら俺の評価どん底になっていたのか……危ない危ない。


「あ、あの、先輩」

「うん?」

「今日も……その……言いにくいですが……甘えてもいいですか?」

「あ、うん。俺は問題ないってか。あんな環境に吉野が居るって知るとな」

「助かります」


 とりあえず今夜も吉野はうちに避難と。って明日休みかちょっとゆっくり出来るなとか思っていると。


「あの……葛先輩?」

「どした?古市。ってか、なんで若干引いてるんだ?」

「甘えるって……まさか2人で――」


 この副会長なに顔をちょっと赤くしているのだろうか……まさか――。


「古市多分なんか勘違いしてる」

「古市さん私今日も泊めてほしいって意味で……」

「あ――。なるほどなるほど」

「副会長頼むよ」

「いやー、いきなり甘えるとか夜空ちゃんがいうから。大泣きする夜空ちゃんを葛先輩がよしよしでもしてるのかと思いました」

「……」

「な、そ、そんなことしてないから!」


 うちの副会長想像豊からしいですわ。ほら、今度は吉野が――多分照れた。


「いやー、疲れた」

「あ、讃大先輩お疲れ様です」


 すると讃大がちょうど戻ってきた。さてさて成果は――と思っていたのだが。


「全くだめだ。あれは……やばいな」


 まじか。讃大でも無理とか……お手上げじゃん。っな吉野の親ある意味すごいのか。しばらく讃大にそんな感じで話を聞いた後。


「……今からやってもだな」


 時計を見た讃大が言う。


「ですね。準備してすぐに片付けになりますよね」

「ってことは……明日するか。休みだし」

「あっ、なら先生に許可取ってきましょうか?」

「じゃ楓華頼む。俺もう職員室今日は行きたくないわ」


 讃大が嫌がるとか。どんな修羅場?だったんだよ、とか俺が思っていると。


「はい!ちょっと行ってきます」


 そういうと古市は生徒会室を出て行った。生徒会は大変だな。とか俺は思いつつ帰るために荷物を持つと……。


「で、久遠も明日暇だよな」

「は?」

「暇だろ?」

「明日休みじゃなかったか?」

「休日登校みたいな?たまには休日登校もいいだろ?」

「いやいや、休みは大切だろ」

「とりあえず……朝9時集合だな」

「待てよ。待て待て待て」


 するとそこに古市が戻ってきて――。


「讃大先輩。1日まるっと大丈夫みたいですよー。資料できないとこ困る!みたいなので」

「じゃ久遠も捕まったから。遅れを取り戻すか」

「りょーかいです。葛先輩もありがとうございます」

「……聞いちゃいない」


 なんか明日学校来ることになったようです。なら……早く帰るかって。忘れてた。


「吉野、先帰っててくれるか?」

「えっ?」


 急に話を振られたからかちょっと驚いていた吉野。


「いや、買い物しないとさすがに何もなくてな」

「あっ……って、一緒に行きますよ?」

「吉野荷物あるだろ?キャリーケース持ってるし。鍵渡すから先に」

「大丈夫です。それに鍵をまた預かる方が……ですから」


 そんなことを吉野と話しつつ生徒会室を出ると。


「じゃ久遠明日来いよ」

「……はいはい」


 讃大は用事でもあるのかちょっと急ぎ気味に帰って行った。まあ明日来るようにの念押しはしっかりしていったが。

 って、今気がついた。吉野って……服装は私服で何故かキャリーケース持っているという。謎な生徒になってるな。めっちゃ校内だと目立っているという。


「あれ?」


 ふと、古市がいつものように讃大を追いかけていかないな。と思い後ろを見ると。

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