特別養護老人ホームについて少し②




 前回は何故か利用料金のことを長々と書いてしまいました。


 ところで、前回書いた利用料金の一覧に要介護1、2の方の利用料金も載せていましたが、現在の特別養護老人ホームは要介護3以上の方が入居の対象となっており、基本的に要介護1,2の方は申し込みができません。

 何故利用料金に要介護1,2の方が設定されているのかというと、要介護3以上という入所基準が明確に打ち出されたのが2015年、平成27年からだからです。

 平成27年以前に特養に入所していた要介護1、2の方で現在も状態が然程変わっていない方がおられるので、その方たちのためと言う理由と、要介護3以上という基準が定められた現在でも、緊急性が高いと判断される方の場合は要介護1、2でも入所が認められる場合があります。

 

 緊急性が高い場合については

①認知症であることにより、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、居宅において日常生活を営むことが困難なことについてやむを得ない事由がある。

②知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、居宅において日常生活を営むことが困難なことについてやむを得ない事由がある。

③家族等による深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態であり、居宅において日常生活を営むことが困難なことについてやむを得ない事由がある。

④単身世帯である、同居家族が高齢又は病弱である等により、家族等による支援が期待できず、かつ、地域での介護サービスや生活支援の供給が不十分であることにより、居宅において日常生活を営むことが困難なことについてやむを得ない事由がある。

 これらのいずれか、或いは複数に該当する場合に考慮されることがありますが、基本的には既に要介護認定を受けていることが前提で、特に①や②の場合は要介護1、2という段階ではないと思われるので、区分変更申請をして要介護度の見直しもしているでしょうから通常の申し込みと変わらないかと思われます。

 ③については、利用者に対する虐待事由で緊急避難として短期入所での対応が殆どだと思われます。

 ④については同居家族以外の身元引受人となる親族は必要です。完全に天涯孤独と言う方はすぐには難しいです。

 これらの事由に該当する場合は、ケアマネジャーから地域包括支援センターに相談した上で、市町村行政職員の協力も得ながら進めていくことになるでしょう。

 そうした上で、要介護1、2でも特別養護老人ホームへの入所が認められることもごく稀にある、ということですね。



 さて、特別養護老人ホームへの入所申し込みについてです。

 ちなみにこれから書くことは私の経験に基づくものですから、他の地域では少し実情が違ったりするかも知れませんのでご承知おき下さい。


 申し込みはどこにするのかと言うと、各特別養護老人ホームです。入所担当の相談員がいますので、その方と面談して必要な書類を提出してください。

 広域連合や大きな社会福祉法人が複数運営している特別養護老人ホームに申し込む場合でも、最寄りのその団体が運営している特別養護老人ホームの入所担当相談員に提出するようになっています。

 必要な書類については各特別養護老人ホームのHPに載せているところが多くなっているので、ファイルをダウンロードして印刷していただくか、在宅で担当しているケアマネジャーに伝えれば取り寄せてもらえます。

 

 ほとんどの特別養護老人ホームで提出が必須なのは

・入所申込書

・情報提供書

・介護保険被保険者証の写し

・過去数カ月分の介護サービス利用実績が確認できる書類

 です。


 これらに必要な内容を記入し(情報提供書は、在宅で担当しているケアマネジャーが書くことになっている場合が殆どなので書いてもらって下さい)、特別養護老人ホームの入所担当相談員に提出すると、特別養護老人ホームで月に1回程度の頻度で開催される入所判定会議に掛けられます。

 申し込んだ時期によっては当月の入所判定会議が終わっていて次の月に回されることもあります。月初、でも前月の介護実績の入力が終わっている10日過ぎ~15日くらいに申し込みをするのが良いかと思います。


 入所判定会議では、新たに入所申込をした方を受け入れ可能かどうかが検討され、受け入れ可能となれば、入所待機順位がどの程度になるのかが決まります。


 受け入れ可能かどうか、と言う部分については、特別養護老人ホームというのは生活の場であって継続的な医療措置を行えるところではありませんから、例えば中心静脈栄養を行っている方であったり、ガンの末期で常時鎮痛剤を使用する方などは看護師が夜間不在だったりすることもある職員体制の特養だと、受け入れが難しいと判断されることがままあります。

 胃瘻や経鼻胃管栄養の方も医療ニーズが高いと判断されることが多いです。

 基本的に医療のニーズが高い方の場合は、特養は受け入れしないと考えていただいて間違いありません。そういった方は老人保健施設か、療養型病床、ガンの末期の方はホスピスに申し込むことが多いです。

 また、親族関係が弱い方というのも特養側が受け入れに難色を示すことが多いです。

 主に傷病時の治療方針や病院での対応、いよいよターミナルといった時期にどうするか判断し決定するのは施設側ではできません(助言はしますが)。

 判断や決定をしてくれる家族や親族が不在、あるいは連絡を取ろうとしても連絡を無視するような家族、親族の場合は極端な話、入居者がお亡くなりになってもその後の手続きを行ってくれないという懸念があるため、どうしても受け入れに二の足を踏まれます。明確に親族かそれに準ずる人を2人保証人に付けないと申し込み受付さえしてもらえない施設もあります。

 

 受け入れが可能であると判断されると、次にどの程度の順番になるかが検討されます。

 そう、実は特養の入所待ちの順番というのは申し込み順ではないのですね。

 どれだけ入所の優先度が高いかが検討され、優先度が高いとなると後から申し込みをしても待機順が上位に来ることはけっこうあります。


 こうして待機順が決定し、いよいよ順番が近づいて来たとなったら特養から健康診断書を主治医に書いてもらって提出して欲しいという連絡があります。

 健康診断書を主治医に書いてもらい提出したら、後は特養とのやり取りで入所日を決定し、入所日に利用者を特養にお連れして晴れて入所となります。


 特養の場合は一度入所すると、病院や老人保健施設のように衣類の入れ替えのために家族が週1回程度施設に行くという必要はなくなります。季節ごとの衣類の入れ替えで半年に一度足を運ぶ程度でも大丈夫です。

 逆に言えば、ご家族が会いに行きたいと思えばいつ面会に行っても良いのです。ただ、コロナウィルスの流行度合によって面会が制限されることも多いですが。

 早くコロナウィルスの流行も落ち着いてくれるといいんですけどね。


 さて、ここまで書いてきましたが、肝心のことを書いてないじゃないか、と感じた方もいるでしょう。


 肝心のこと。


 待機順の優先度がどのように決まるか、です。


 これに関しては、特養ごとに独自の判断基準があったりするので、必ずこうだ! と言う事はできませんが、目安となる部分について書きます。


 けっこう私の住んでいる地域の場合はわかりやすいのですが、各項目に点数をつけて、合計点が多い方から順位を決めています。

 これらの項目は入所申込書と、ケアマネの記入する情報提供書の中に記載した内容に配点していきます。

 高い、低いは配点が高い低いという意味で、配点の合計得点で順位が決まってきます。

【要介護度】 5が高く1は低い

【日常生活自立度】介護保険の介護度を決定する際の資料である主治医意見書に記載された「認知症高齢者日常生活自立度」と「障害高齢者の日常生活自立度」の基準。

「認知症高齢者日常生活自立度」はⅠ~Mまで9段階あり、Mが高くⅠが低い。 

「障害高齢者の日常生活自立度」はJ1~C2まで8段階あり、C2が高くJ1が低い。

【世帯構成】家族同居、高齢者世帯、独居世帯とあり、独居世帯が最も高く家族同居が低い。

【主たる介護者の状況】入所を申し込んでいる方の介護を主に行っている方の年齢についての項目。60歳以下~75歳以上まで4段階。75歳以上が高く60歳以下が低い。

【障害または疾病のある介護者の介護】主に介護を担っている介護者の心身の状況についての項目。介護困難~該当者なしまで4段階。介護困難が高く該当者なしが低い。

【介護者の就労】主に介護を担っている介護者の就労状況。8時間以上または就労不可能~就労していないまで4段階。8時間以上または就労不可能が高く就労していないが低い。

【他の要介護者】同じ世帯に他の要介護者がいる状況の確認。要介護2以上~該当者なしまで4段階。要介護2以上が高く該当者なしが低い。

【介護者の介護へのかかわり方】主に介護を担っている介護者のかかわり方の状況。介護拒否~普通まで4段階。介護拒否が高く普通が低い。

【同居介護補助者の介護】同じ世帯内の、主介護者以外に介護に携わる人の状況。該当者なし~常時ありまで3段階。該当者なしが高く常時ありが低い。

【別居介護補助者の介護】別の世帯の親族などの介護への関りの状況。該当者なし~常時ありまで3段階。該当者なしが高く常時ありが低い。

【経済的負担】経済的な状況。非常に重い~軽いまで4段階。特別養護老人ホームについて①で触れた所得に応じた負担段階に対応しており、非常に重いが第一段階、軽いが第四段階。非常に重いが高く軽いが低い。 

【居住環境】住んでいる家の環境について。住居なし~問題なしまで4段階。住居なしが高く問題なしが低い。というか住居なしなんて殆どいない。非常に問題あり~問題なしの3段階と考えて差し支えない。

【過去3カ月間の在宅サービス利用率】在宅での介護サービス利用率。利用率が高いとより介護の手が必要と判断される。80%以上~20%未満まで5段階。80%以上が高く20%未満が低い。

【本人の状態】そのまま本人の状態。移動、食事、排泄、入浴等にどの程度の介助が必要か、認知面の低下はどの程度で、問題となる周辺症状があるか、対応方法があればそれも記入。これは特に点数化はしていない様子だが、特養によっては点数化しているところもある。


 これらの項目に、その家の状況を特記として記入していきます。

 単純な段階評価で割り切れない困難さを特記としてしっかり記入し伝えられるかが、ケアマネとしての腕の見せどころです。

 特記の内容が段階評価を覆すなんてことはありませんが、少なくとも同じ段階の中では重要度が高いことが伝わるように書きます。


 そして、冒頭に書きました要介護1、2の方が特養に申し込む緊急性の高い理由①~④ですね。

 要介護3以上の方でも当然該当する項目があれば、その状況を記入します。

 特に③虐待に繋がりかねない兆候は必ず記入しています。

 利用者本人に対する虐待だけでなく、他の家族の主介護者への虐待に近い状況などがあれば、お門違いではありますがここに記入しています。主介護者が潰れてしまえば在宅での生活は成り立ちませんし、介護で一人の人の人生を暗く塗りつぶしてしまうような状況は悲劇以外の何物でもありませんから。

 意外にこうしたケースはそこそこあるのです。


 こうして優先度が決まり待機順が決定しますが、特養入所を焦るあまり「介護サービス利用率」を上げずに申し込もうとする家族の方が時々います。

 これは止めて下さい。

 介護サービス利用率は私の場合必ず過去3カ月で80%を超える見込みが立ってからでないと特養申し込みは勧めません。

 金銭的に厳しいから、という理由で在宅での介護サービス利用を渋る家族もおられますから難しいところですが、この部分はほぼ他の入居申し込み者も80%以上にして申し込んでいます。

 つまりここが低いと、それだけで他の方よりも優先順位が低くなってしまいます。

 大学入試と一緒で、同じ点数に数十人が並んでいる状況ですから、1点の違いでも待機順は数十番下がってしまうのです。

 焦って申し込みだけするよりは、ある程度順位が上に来る状況を作ってから申し込みはした方が良いと思います。


 そして、ここからは本当に私の個人的経験からになりますが、短期入所で利用している特別養護老人ホームがあるのであれば、そこには申し込みましょう。

 認知症のお年寄りは環境が変わることに対応しきれず、落ち着かなくなったりします。特養の現場の職員施設は初めて対応する方よりも、何度か短期入所を利用して様子が判っている利用者さんの方が落ち着いて対応できますし、利用者本人も多少でも様子がわかっている所の方が落ち着きます。待機順が同じ程度の方であれば、何度か利用して様子が判っている利用者さんに入って貰った方がお互いに様子が判りより早く特養での生活に馴染めるという現場職員の判断は僅かながら有利に働くこともあります。


 また、申し込み書類はケアマネジャーが特養に提出することもできますが、私は入所申込書の記載欄はなるべくご家族に書いてもらって、ご家族に提出に行って貰う様にしています。

 例え他県に住んでいるお子さんが申し込みの主体者であっても、余程のことが無い限り時間を作って来てもらって申し込みに行って貰っています。

 多少手を煩わせることにはなりますけど、なるべくご家族の気持ちをそのまま、拙くても良いので記入していただき、特養の入所担当の方に、早く解放されたい辛い気持ち、育んでくれた感謝の気持ち、慈しんでくれた愛おしい気持ち、世話を他人に委ねざるを得ない切なく申し訳ない気持ち、多分整理は付かないと思うのですが、とにかく抱えている気持ちを赤裸々に正直な気持ちで話してもらいたいと思うからです。

 入所担当の相談員は、入所判定会議に大抵出席します。その意見が会議で大きな発言力を持つ訳ではないでしょうし、仕事ですから一人の入所希望者家族に肩入れして貰えるはずもないとは思いますが、それでもケアマネジャーとの事務的なやり取りだけで書類受付が終わるよりは、多少でもご家族本人から正直に心情を話してもらった方が、もしかしたら心情を汲んだ意見を伝えて貰えるのではないかと思っているのです。

 甘いかもしれませんが。


 でも、人と人との関係ですから、こうした小さいながらも知ってもらう努力と言うのは大事になると思います。

 




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