第15話・あなた一人で事足りたからよ
その翌日も森の中に潜みながら冒険者達を観察していた。今日は表向きひょっとこ苺を探している体を装う。
そこで昨日の大熊の魔獣と戦っていた冒険者達に出会った。彼らは「Aランク」の冒険者パーティーだったらしい。彼らは難度の高い魔獣狩りを請け負っているらしく、昨日は倒したと思っていた大熊の魔獣に隙を突かれて反撃を受けていたらしい。後で教えて貰っていた。
「よお、今日も精が出るな。何を探しているんだ?」
「ひょっとこ苺です」
「食べたら笑わずにはいられない苺か。どうしてそんな仕事を請け負っているんだ? おまえなら難度の高い仕事も難なくこなせるだろう? あのデカブツを倒したぐらいなんだから」
「いやあ、あれはたまたまですよ」
「たまたまねぇ」
苦笑いを浮かべれば、この冒険者パーティーでリーダーをしているイガンが胡散臭そうに見てくる。彼らには魔獣を倒した所や、癒やしの力でバードの傷を綺麗さっぱり跡形も無く直したのを知られているので、難度の低い仕事よりも難しい仕事をこなしてはどうかと勧められる。
ランクを上げた方が報酬もあがり有利なのにと言いたいらしい。でも、自分はシーメルに頼まれて冒険者の審査をしていてそれなりの報酬も受けている。
その審査だけに専念していても良かったが、それだと勘の良い冒険者にはバレそうな気がして、隠れ蓑として別の依頼を受けているのだ。その為、なるべく簡単な仕事を受けて誤魔化す気でいた。
でも偶然とはいえ、あんな派手な行動を取ってしまったことで彼らに注目される羽目になってしまった。シーメルには審査をしていることは他言無用で内密にと言われている手前、彼らにはこの事は内緒でと言い含めた。イガンらには納得いかない顔はされたが一身上の都合でと苦し紛れに言ったら渋々口外はしないと約束してくれた。
「まあ、気が向いたら声かけてくれよ。俺らはいつでも歓迎だ。じゃあな」
要するにイガンは自分のパーティーに入らないかと誘いに来てくれたようだった。お誘いはありがたいが、そうなるとマダレナの秘密も明かさなくてはならなくなる。非常に難しい。
彼らと離れると胸元に隠れていたマダレナがひょこっと顔を出した。
「いい人ね。あっくんの良さが分かるなんて見る目あるじゃない?」
「そうですね。でも、あれは全てレナの力ですから」
自分の実力でも無いのにああも褒められると抵抗を感じると言えば、マダレナがジャンプして抗議してきた。
「違うわよ。あれはあっくんの元々持っていた力。それをわたしが増幅しただけ」
「へ?」
「知らなかったの? 大神官さまから言われなかった? 最近、あなたの力について悩まれていたこと」
「そんな話聞いてないですよ」
「巡礼に出る前の話よ。あなたに話をしてみるって言っていたからてっきりもう話をしたのかと思っていたわ」
「そう言えば大神官さまは巡礼に出る前に帰ってきてからあなたに話がありますと言っていたような?」
「きっとその話よ。あなたは幼い頃からずっと剣聖に剣術を習っていたでしょう?」
「あれはマダレナさまの身をお守りする為に極めていたほうが良いかと」
「それがね、剣聖があなたは剣の筋が良いし、実力もあるからこのまま聖女のお世話係で終わらせるのは勿体ないと言い出して、聖騎士として育ててはどうかと言われたらしいの。そしてゆくゆくは筆頭聖騎士にと。でも、それを聞きつけた筆頭神官や他の神官達から猛抗議があって、あっくんは大きな聖魔法が使えるし、自分達の後継者として育てているから聖騎士になんてとんでもない。と、神官達と剣聖の間で揉めたのよ。それで結局は本人の意志に任せようと言うことで収まったの」
そのような話は初耳だった。自分としては聖女のマダレナのお世話係として、聖女が危険に晒された時に対応出来るように腕を磨いてきただけだ。剣聖や神官達は自分の実力を過大評価しすぎな気がする。
「皆大袈裟ですよ。俺は普通ですよ」
あなたって過小評価しすぎ。と、パペットが呆れるように両掌を上に上げた。
「おかしいと思わない? どうしてあなたがたった一人だけ聖女であるわたしに宛がわれていたのか? それはあなた一人で事足りたからよ」
「そんなはずは……」
「あの三馬鹿トリオは気がついてなかったみたいだけど、他の聖騎士や神官達はあなたに一目置いていたんだから」
パペットが片手をずいっと突きつける。三馬鹿トリオとはキリルとカール、フィリップのことだろう。自分を貶めた聖騎士らだ。
「それをあの三馬鹿がやらかしたから今頃は皆から総スカン食らっているかもね」
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