第84話 星暦551年 桃の月 19日〜25日 相談と交渉、そして次へと

乾燥機は出来あがった。

限られた日数の中では出来る限りのことをした。これで手助けするに値しないと魔具職人の方が思うのだったらそれはそれでしょうがない。


さて。

今度俺たちが悩んでいたのは、ガルバ村とノルデ村のどちらの職人に先に見せるか。


急いで造ったとは言え、この乾燥機だって俺たちの商品として特許登録してどこかに売りたい。だから情報の漏えいのリスクも考えて、『この人ならやっていける』と思える魔具職人が最初に見つかったらもう一人には見せない方が好ましい。


とは言え、最初のが『許容範囲内』で見せなかった方が実は理想的だなんてことになるかもしれない。

だから俺たちとしては最初に見せる方に理想的であって欲しいんだが・・・。


シャルロが両方の村に行ってさりげなくスタルノの教えてくれた魔具職人の話を近所の人に聞いてきてくれた。

アレクはシェフィート商会のコネを使ってビジネス界の方での評判を集めてきた。


だけどねぇ。

評判って言うのは人の評価だ。

それだけで判断をするのはそれなりに難しい。

別にどちらも明らかに『不可』ではないし。


「ガルバ村のアスコトさんは、家族思いの凄くいい人らしいよ。仕事にも誠実で、よく困っている人のことも助けてくれる優しい人なんだって。

ノルデ村のダビーさんは頑固おやじタイプ?あまり近所づきあいはないし、奥さんは何年か前に死んじゃって、子供も成人してずっと前に西に行って帰ってこないらしいし。腕は凄くいいけど、時々人のことを怒鳴りつける怖い人らしい」

シャルロの報告にアレクが頷いた。


「私の方に聞こえてきた話も同じようなモノだな。アストコ氏の方が人当たりが柔らかく、他の職人や商人ともやりとりがあるから色んな噂や新しい技術のことにも詳しいらしい。

ダビー氏は魔具に対する熱意と拘りは人一倍だが人間づきあいはあまり好きではないらしい。最近は殆ど王都に姿もあらわさないそうだ」


人当たりがいい男と頑固おやじねぇ。

「俺としては頑固おやじの方がいいな。人当たりがいい『好かれやすい』人間と同等の評価を受けていると言うことは、頑固親父の方が腕がいいと言うことじゃないか?」


アレクが少し考えてから頷いた。

「確かにそうだな。人当たりがいい人間というのは好かれやすいからプラスな印象を与えやすい」


「でも、家族がいる人の方が安心できない?」

シャルロが尋ねた。


「いや、家族はいない方がいい。本人がどれだけ誠実で信頼できる人間だとしても、家族が同じだけ信頼できる人間であるとは限らない。本人が何気なく夕食時にでも話した内容から情報を他へ売られる可能性があるし、もしもそんなことが起きた場合にも『優しい人』だったら仕事相手より家族を優先する可能性が高い」

そうじゃなくても何か本当に金になる発明を俺たちがした場合、それを狙った人間に家族が誘拐されて俺たちのアイディアを渡せと言う状況になる可能性だってある。


まあ、現実的にはそんなことはほぼ無いだろうけどさ。


シャルロが目を見張った。

「そんな考え方もあるんだね。思ってもみなかったよ」


「私もあまり考えていなかったが、確かに情報漏洩のルートが多数ある人間より、一匹狼的な頑固おやじの方が良いかもしれないな。

私たちだったら別に怒鳴りつけられたって気にしないし」


確かに。

一番人当たりが柔らかいシャルロですら怒鳴られようが脅されようが、見事にスル―するからな。


「じゃ、明日はまずダビー氏に会いに行こう。頑固すぎて話にならなかったらアスコト氏だ」


◆◆◆


「これは俺たちが新しく造った乾燥機なんだが、どう思う?」


俺たちは3人で頑固おやじとの交渉に下でに出るか、挑戦的にいくか、金で話をつけるか、方法を色々話し合った。

頑固おやじと評判なだけに、それなりに気難しいだろうから話の持っていき方も工夫した方がいいだろうが・・・。


イマイチどういう方法がいいのか、想像がつかない。

結局、色々悩んだモノの単純に意見を聞く方法でいってみていから状況に応じて方法を変えようと言うことになった。


スタルノの紹介状を持って現れ、お茶を飲んでいたと思ったら突然魔具を取り出した俺たちをあっけにとられたように眺めていたダビーだが、少なくとも怒りだしはしなかった。


「どう思うって・・・何の話だ?」


「濡れた服を乾かす便利な魔具として売り出そうと思うんだけど、使い勝手や造りやすさの点から何か思うところがあるか見てくれない?」

シャルロが説明した。


「濡れた服を乾かすねぇ・・・。面白いアイディアではあるな」

興味深げに乾燥機を眺めまわしてから、スイッチを入れてみる。


首を回しながら温風を出し始めた乾燥機を見て、老職人は笑い出した。


「ははは!自分で首を振って乾燥を早めるか。ある意味当然な工夫だが、誰も造っていなかったな、確かに」


あれ?

頑固親父だったんじゃなかったの?


ダビーは乾燥機にタオルを直接かけ、俺たちの方へ向き直った。


「何を俺にさせたいのか、はっきり説明してもらおうか」


ということで、俺たちがビジネスを始めようと思っていることを説明。

アイディアと工夫は人よりも才能があると思うが、造る実務的な経験が無いことから熟練魔具職人のアドバイスが欲しいこと。

そんでもってこれが一号であること。

勿論、これがテストであるとは明言しなかったけど・・・ま、想像はついていたんだろうな。


「ということは、お前らは長期的に俺にアドバイザーとして働いてもらいたい訳だ。

となったら機密事項のある契約書でも結ばせるのか?俺がアイディアを売っぱちまったらどうするつもりだ?」


「アドバイザーとして働くことを合意してくれたら、勿論契約書にサインしてもらうことになる。

今回の試作品に関しては・・・最初のハードルと言うことである程度のリスクはしょうがないと思っている」

アレクが説明した。


「ふむ」

ダビーは乾燥機にかけてあったタオルを手に取り、熱くなり過ぎていないことを確認してから乾燥機を手にとって調べ始めた。


「発火防止の工夫もされているのか。

確かにモノとして悪くないかもしれないな。だが、お前たちが何日かけたのか知らんがそれなりに研究と工夫で作ってきたものを半刻で問題点を指摘するのは無理だ。

とりあえず、5日程くれ。機密保護の契約が無いが、あんたたちの信頼は裏切らないと約束しよう」


約束、ねぇ。

そんなものを信じて安心していたらやっていけないと思うが・・・。これも初期ハードルの一つだと思って我慢するか。


アレクとシャルロに目をやって、頷いて見せた。


「分かった」

アレクが答える。


もうすぐ卒業だからさっさとアドバイザーの選択も決めちまいたかったんだけどねぇ。

ここで躓いたら後が面倒だからしょうがないか。

急ぎすぎて失敗しても、後々にもっと時間と金がかかることになるだけだ。


◆◆◆◆


「原価が高すぎるだろう、これ。もっと安く仕上げないと」

というのが5日後のいの一番に出されたダビーの指摘だった。


どうやら、俺たちの手伝いをすることには合意してくれたらしい。アレクが用意していた契約書も一通り目を通したら文句言わずにサインしていたし。


だけど・・・。

高いか。

魔具としては悪くない値段になると思ったんだが。

もっと安くしないと普通の大衆が買うには厳しいか。


工夫はこれからだな。


とりあえず、目をつけて価格交渉を始めていた工房・住居用の場所を入手して開業準備を本格化しよう。


これからは、自力で生きる、社会人だ!




#######################


ここで一旦完結とします。

いかがでしたでしょうか?


ずっと前に始めて書き始めてから時折エタりながらも長く続けた話です。

今回連載の再開準備に読み返して、色々矛盾点とか変な言い回しを直しました。

ちょっとは読みやすく出来たのでは無いかと期待しています。


さて、お気楽な学生生活が終わり、これからは新社会人生活です!

と言う事で、https://kakuyomu.jp/works/16816452221233549620『シーフな魔術師 第二章〜新社会人!でも何故か色々巻き込まれ?』もお楽しみ下さい!

既に第一話はアップされていますので良かったらそちらもお読み下さい。

(面白いと思って貰えた場合は★も頂けると、とっても嬉しいです)


ちなみに現代ファンタジーモノも最近始めました。

良かったらそちらも読んでみて下さいください。

https://kakuyomu.jp/works/16816700428988660591

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シーフな魔術師〜学生時代は気楽に楽しく過ごそう 極楽とんぼ @yhishika

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