第67話 星暦551年 紺の月 14日 絞り込み

転移門の魔具が完成して以来、人間の長距離移動は主に転移門を使うようになった。

勿論、村から村へと移動しつつ途中で物の売買をすることが目的なキャラバンとかは別だけど。

また、転移門は距離だけでなく重量と体積によって必要な魔力が決まる為、緊急時でない限り物資の移動にはあまり使われない。


超高級な旬の食べ物とか途中の強盗対策費用の方が高くなる宝石ぐらいのものかな、日常的に転移門が使われる物資と言えば。


だからそれなりに運河が整備され、船を使った移動手段が物資の輸送には重要になる。

そして・・・船と言うのは時として沈没する。


そこで沈没船の引き揚げ屋サルベージャーが職業として存在する様になる訳だ。

まあ、価値があるものの転移門を使うには嵩があり過ぎる商品を輸送するような船って普通はそれなりのレベルの魔術師が同乗するから、余程不運じゃない限り転覆なんて滅多に無いんだけどね。


だから引き揚げ屋サルベージャーが狙うのは輸送されていたころは日常品だったものの今ではアンティークとして価値があるような、古い沈没船。

もしくは戦時中に敵国船に沈められた輸送船。


だけど、アファル王国ではもう100年以上も海戦なんてやっていないし、そうそう古い沈没船が発見される訳でもないから引き揚げ屋サルベージャーというのは大抵の場合は漁師の副業な場合が多いかな。


さて。

今回の中休みでは俺は引き揚げ屋サルベージャーとして遊んでみようと思い立った。

清早が手伝ってくれれば、海底を自由に歩き回れるのだ。

それなりに発見があるかもしれないと思えるだろ?


シャルロとアレクも参加。

シャルロは当然蒼流に手伝ってもらう。

アレクも蒼流が手を貸してくれるということで話がついたらしい。

そんでもって俺たちは引き揚げ屋サルベージャーもどきな5日間を過ごすと決めてから、かなりの時間を学院の図書室や、王立図書館で過ごしてどこら辺にまだ引き上げられていない沈没船がある可能性が高いか、色々研究してきた。


移動に時間を取られない為にも、とりあえず拠点は王都から馬車で1時間程度行ったところにある港町ダッチャスにすることで合意した。

王都への流通の拠点となる港町だから通った船の数が多いのだ。


ダッチャスへ出入りしていた船で行方不明になったものを港湾管理事務所の資料から調べあげ、出港・入港予定日と嵐の記録から港の近辺で沈んだであろう船にあたりをつけ。

引き揚げ屋サルベージャー協会の記録から既に引き上げられた船を除去し。

残った船の中から興味がわくターゲットを決めた。


ちなみに、シャルロは東の島々から貴金属の加工品や宝石を持って帰ってくる途中だったと伝えられるガラパス号を探したがった。

俺が推したのは北から武器を輸入中だったはずのヒラメス号。

アレクは陶磁器を南のバラーンから運び込む途中であったはずのイーザン号を推薦。


結局、長期間海水にさらされていても損傷が少なそうなモノはどれか・・・ということを調べた結果、陶磁器の方が金属よりも海水に強いと言われたのでイーザン号がターゲットとして選ばれた。


で。

明日から中休みが始まると言うのに、俺たちはまだ海図を広げて悩んでいた。


「南から来るんだから、やっぱりここら辺じゃないんかなぁ?」

シャルロがダッチャスの南側の半島の手前を指す。


「そこら辺は浅瀬になるとは言っても海底が砂のはずだから、座礁しても沈まないんじゃないか?だとしたら最初から行方不明にならないはずだと思うが・・・。」

何度も繰り返してきた議論をまた繰り返す。


「とりあえず、ダッチャスにまず行ってみよう。そこで漁師に網に変なモノが引っかかるのってどこら辺が多いのか聞いてから決めてみないか?

はっきり言って俺たちが推測できるようなところに沈んでいたら、とっくのとうに過去の引き揚げ屋サルベージャーが見つけていると思うし」

アレクが調べていたあの時期の手記を閉じながら言った。


成程。

今まで、その日の風向きとか今まで引き上げられた船の沈没場所とか言ったモノに集中してきたが、俺たちが簡単に推測できる場所で沈んでいたらとっくのとうに発見されているだろう。

「海流って年月とともに動くって話だから今色んなものが引っかかるところが150年前に船が沈んだ場所だかは分からないが、とりあえず何か面白いモノが見つかりそうだよな、その方法だったら」


「そうだね。実際のイーザン号を見つけられなくっても、何か沈んでいるモノを見つけられたら面白いだろうし」

シャルロも合意したのであっさり話が決まった。


「じゃあ、明日から聞き込みだ!」

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