第58話 星暦550年 桃の月 7日 世紀の大発見?

加熱の術、発火の術、熱を奪う術は赤系統な色。

停止の術、施錠の術、固定化の術は灰色っぽい。

モノを動かす術、風を起こす術、水を動かす術は青系統。

精神に干渉する術、治癒の術、肉体強化の術などは緑系統。


『属性(色)を表現せよ』と突然言われてもどうやって説明していいのか分からなかった。

なのでとりあえず、片っぱしから術を思いつくがままにシャルロとアレクが列挙し、その色を俺が表現していってみた。

で、その結果を分類してみたところ、上のようなグルーピングになった訳だ。


「人の魔力には色はあるのか?得手不得手と術の属性と魔力が関係するのか興味があるところだが」

アレクが尋ねる。


「う~ん・・・。人のオーラの色は魔力の属性よりも個性が表れているんじゃないかな?

気分や体調によって大分変っているみたいだし。基本的に人間の魔力って体から出てきた時点では白い光でしかないんだよね。苦手な人が術を使っても、得意な人が術を使っても、最初に魔力が体から出てくる段階に違いは殆どない」

だが現実として、得意・苦手と言うものは確実に魔術にも存在する。


何故なのか。


「魔力を魔術に転換する際に属性を付与しちゃっているんかな?」

シャルロが呟いた。


「そもそも、人に何故得手不得手があるんだろう・・・」

あまり考えたことは無かった。


例えば、俺は施錠とか停止と言ったような灰色系の術が得意だ。人にはわかりにくいコンセプトをはっきり視て把握することに才能がある俺が、そう言う系統の魔術を得意とするのは不思議ではない。反対に、術が単純で細かいコンセプトよりも魔力の出力がモノを言う加熱や熱を奪う術はイマイチ苦手だ。


同じだけ魔力を使っても、『得意』な分野の術を行う場合、『苦手』な術をやる時より魔力の使用が効率的になっている。

俺一人ではなく、アレクとシャルロを使って色々術をかけさせたが、同じだけの魔力を出しているのに2人共タイプによって魔術の具現力に差が出た。


「人間に関しては、元々属性を付与しやすい何かが生まれつきあるのか、苦手意識か慣れで魔力に属性が付きやすくなるのか、何かそう言った傾向があるのかも知れないな。

問題はどうやって属性を変えさせるかだ」


「もしくはどうやって属性を消し去るか。こっちの方がより実用性があるかも?」

アレクの意見に俺の考えも付け足す。


「・・・どうしようか?」

シャルロが困ったようにつぶやいた。


分からん・・・。


◆◆◆


「魔力って魔術師が単に放出するだけだったら属性がないんだな?術になる時、どの段階で属性が付く?」

アレクが聞いてきた。


「かなり早い段階、かな?殆ど『術を成そう』と言う意図を持った時点で色が付くね」

だから気を変えて途中で術を変えると白かった魔力が何度も色を変換し、視ていて面白い。


「術回路の場合は?」

シャルロが口をはさむ。


ふむ。

あまり術回路のことは考えていなかったな。

どこで変わったっけ?


作った火器コンロと凍結庫フリザー、そして保存庫フリッジの魔石から流れ出る魔力を何度もスイッチを入れたり切ったりして丹念に調べて視た。

魔術師の場合、術の種類を迷っていたりすると術の構成に時間がかかる為、場合によってはノンビリ属性の色がついていく過程が見える。だが、術回路は決まったことしかしないので魔力の変換・術の具現化が早い為、中々見難い。

迷いのある術回路なんて聞いたことも無いし。あったらちょっと怖いかも。


「・・・魔石から魔力が出てきて最初の部分で色がついているな。もしかして、効率的に動かす為に最初に属性を付与しているのか?」


「属性に関する研究はそれ程ない。大抵の人間はウィルのように視ることができないから、『属性とは何か』という議論そのものが困難だしな。だが、もしかしたら経験的に効率的な魔石の利用方法として、術回路の最初で属性を付与する構造に意図せずになってきたのかもしれない」

火器コンロの術回路を取り出しながらアレクが言った。


「何をやっているの?」

シャルロがアレクの手元を覗きこむ。


「術回路の最初のどの部分まで削っても効率が下がるものの術が発動するのか視ている。

発動する部分の前が多分属性を付与する回路なんじゃないか?」

ふむふむ。中々いいアイディアじゃん。


俺とシャルロが見守っている下で、アレクが魔石に一番近い部分の術回路をほんの少し切り外してからスイッチを入れた。


火器コンロに火はついた。

魔力の消費は元の状態に比べて微妙に効率が悪いかも?

色がついたのがどこだったのかは・・・イマイチはっきり視えなかった。

「もう一回やって」


結局3回やらせた後、更に術回路をちびちびと切り外してどうなるのか何度も試していった。

シャルロは術回路の最初の部分の拡大図を写してそれに何回目でどこまで切ったかを記録していく。


「そういえば、どんな術回路で属性を付与できるのか推定出来ても、試せないと困るな」

2刻近く実験を続けて各色系統に対して俺が『これかな?』と思える術回路が出来た時点でふとアレクが呟いた。


「術回路をガラスに繋げて魔力を放出させよう。

そうすれば、魔石から術回路を通ってガラスから放出させた魔力に属性が付いているか視える」

魔石は必ず木か石の箱に入れて保管される。

金属やガラスだと魔力が伝達されて放出してしまうからだ。


金属の方が伝達率は高いのだが、ガラスでも十分魔力の放出のツールとして使える。


「なるほど。普通の板ガラスときらきらしたガラスと、どっちがいいかな?」

シャルロが作業机に置いてあった砂(本来は木の部品の磨き用だと思う)を手にすくって尋ねた。


「変に反射すると視ずらいから板ガラスが良い」

俺の返事に、あっという間にシャルロの手にあった砂が手のひらぐらいのガラス板に錬金される。

相変わらず、お見事。造るのはうまいよね~こいつ。

芸術性のある魔具でも作らせたらいい味出すだろうに。貴族のお坊っちゃまじゃあそう言う訳にもいかないんだろうけど。


属性を与えると思われる術回路をガラスと魔石に繋いでみた。

「あ・・・色が見える」

「だな」


ガラスが変色した。

魔力の色でもあるのだが・・・実際に物理的にガラスが変色して見えるのだ。

魔石を外したら普通のガラスに戻る。


「・・・これって魔術院の学会で発表したら一気に術の属性の研究が進みそうな気がしない?」

シャルロが半ば呆然としながら呟いた。

半ば遊びのような学生の研究であっさり『困難』と思われていた属性の研究方法が分かってしまうというのは・・・あり得ないだろう、普通。


「めんどい。わざわざ教えなくてもいいんじゃないか?俺たちが使っていればそのうち広まるだろ」

術回路ではなく単にその使い方だから、特許は取れない。

報告したところで『良くやった』と言われるだけだ。


「しっかし。これだけあっさり見える様に出来るんだったら、何度もスイッチ入れたり切ったりせずに、 1イクチずつぐらい切って試せばよかったな」

アレクがため息をついた。


「まあ、いいとしよう。

とりあえず、凍結庫フリザーの魔力を魔石に注ぎ込む際にどうやったら属性を打ち消せるのかを試さないと」


(1イクチ=2センチ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る