第48話 星暦550年 翠の月 16日 相談
流石拘りの男、スタルノ。
夕食の後に鍛冶場に戻ったら、まだいた。
魔剣に惚れ込んでいる感じだったからなぁ。
「どうした?」
突然声を掛けられた。
おっと。
見ていたのに気付かれたか。まあ、気配は消してなかったけど。
「スタルノさんは何故魔剣鍛冶師になったんです?」
思わず、質問がこぼれた。
「俺か?」
槌を置き、炉の灰を集めて炎を寝かせてからスタルノが振りかえった。
「俺は・・・田舎育ちでな。
ある時うっかり森に深入りしすぎて魔獣に追い詰められそうになったとき、村へ行く途中だった冒険者に助けられたんだ。
そいつが魔獣を打ち払うのに使ったのが魔剣だった。
あの時の感動は・・・今でも覚えている。俺のナイフでは傷一つつけられなかった岩獣ロクビスが、炎を帯びた魔剣でたったの1撃だった。
魔力があることが判明して王都の魔術学院に入学することが決まった時に、絶対に魔剣鍛冶師になろうと思ったんだ。授業は魔剣作りに役立ちそうな項目以外は辛うじて卒業できる程度しか出席せず、残りの時間は全てあちこちの鍛冶師の元に入り浸って過ごした。魔剣鍛冶師になること以外、考えたことも無かったな。
・・・まあ、今思えば実は魔剣よりもあの冒険者の腕の方が大きかったと思うが」
うう~む。
ある意味、あまり参考にならんな。俺は別にそんな思い入れはないから、どんな苦労も苦にならないとは感じないぞ。
「魔剣って凄く高いから中々買える人間がいないと思うんですけど、独り立ちするのって難しくありませんか?」
ふんっと鍛冶師が鼻で笑った。
「どんな職業だって楽には成功せん。魔術師になったところでヘイコラして上司のご機嫌伺いをしてこき使われることになる。魔術院で上まで上り詰めようと思ったら魔力もだが政治力が必要だしな。魔具職人だって作ったモノが売れるようになるまでにはそれなりに時間がかかるし、成功しないこともある。
俺は元々、実用に耐えうる魔剣を作る為には剣を作る腕も磨かなければならないと思っていたからな。最初は魔剣だけでなく普通の剣やダガー、槍とか武器なら何でも作っていた。そういうのを武器屋に持ち込んで売っていたから、それなりの武器を作れるようになった時点で独り立ち出来たぞ」
なるほど。
最初は普通の鍛冶師として生計を立てたのか。折角魔力があるんだから魔術師になった方が普通の鍛冶師になるよりは経済的にはいいと思えるが、最終的に魔剣鍛冶師になるんだったら無駄ではない道のりだったのだろう。
「俺が今日やっていたことって・・・鍛冶師として向いている技能だと思いますか?
最近、学院を卒業した後の進路について色々思い悩んでいまして」
・・・考えてみたら、今度学院長とか他の教師にも俺って何に向いているのか意見を聞いてみようかな。第三者から見て俺の才能がどんな分野に向いているのか意見を聞いてから、何を『やりたい』と思えるかを判断してもいい。
別に意見を聞いたからと言って、その意見に耳を傾けなきゃならない訳でも無いし。
スタルノは無造作に肩をすくめた。
「まあ、ある程度はな。剣の密度が見てとれるとか、剣の密度と練度を影響できるっていうのは鍛冶師として役に立つ才能だと思うぞ。
だが、そういった才能は他の職業でも役に立つだろう。要は、お前が何をしたいかが重要なんじゃないか?どれだけ才能があろうと、努力する気が無ければ成功はしないぞ」
そりゃそうだ。
世の中、だらだらとやる気なく生活の為だけに働いている人間も数多くいるが、俺は出来れば『やりたい』と思える事に熱意を傾けて生きていきたい。
その方が最終的にはより高い到達点にたどり着けて成功出来ると思うし。
「成程、それはそうですね。では、ひたすら努力する気が起きるだけ好きになれるか知りたいんで、暫くの間、授業の後にここでお手伝いさせてもらってもいいですか?」
今回の実習はそれなりに達成感があったが、長期的に続けて面白いと思えるかは実験してみないことにはわからない。幸い、この鍛冶場は寮からそれ程離れてはいない。図書館に入り浸る時間が減るが、このぐらいの時間までだったら何とかなる。
スタルノが肩を竦めた。
「金は出さんぞ。タダでこき使われたいんだったら、好きにするんだな」
とりあえず、技能を盗みたいと思えるほど興味を持てるか、試させてもらうとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます