第35話 星暦550年 紺の月 18日 探検
市場の正面にある建物ってことは・・・商業ギルドあたりかね?
それとも町長さんか誰かお偉いさんが住んでいたところか。
一番力があった商人が住んでいたところと言う可能性もゼロでは無いが・・・普通の商人だったら妬みを買いそうな一等地に屋敷を構えるのは避けそうな気がする。
もしかしたら警備隊が常駐していたのかもしれないが、一等地のど真ん中に兵隊を常駐させるのは税金の無駄遣いだろう。
この建物の入口も、昨日の遺跡と同じで馬車が通れるほど大きい。
だけど昨日の程壁に入念に彫刻はされていなかった。
とは言っても、地面に金箔の残骸らしきものが落ちている。
丹念に時間をかけて飾るのではなく、見た目重視で金箔をつけていたのかな?
「何をやっているの?」
俺が金箔の残骸を拾い集めて袋に入れているとシャルロが聞いてきた。
「金箔だ。溶かせば金になる。別に学術的価値はそれ程ないだろうから探検の獲物として貰って行ったっていいだろ?」
入口のわきの大きな彫刻をしげしげと見ていたアレクがこちらに寄ってきた。
「金箔?これが?」
埃だらけで茶色に見える薄い膜を拾い上げて指で擦っている。
「あ、本当だ。」
アレクの指の下から金色の輝きがこぼれるのを見て、シャルロが呟いた。
「ま、大した量は無いが。記念だ」
真剣に腰を据えて全部の金箔を拾うのならばそれなりになるかもしれないが、流石にこの二人を待たせて集金活動に腰を据えるのは気が引ける。
簡単に拾える範囲の物だけを拾って次の部屋へ進んだ。
ここは洞窟の中っぽい遺跡なのにかなり乾いた場所だったのか、先日の遺跡と違って家具や敷物、カーテンが所々残っている。
それとも昨日の遺跡は単にそういったモノは全部持ち去られた後だったのかな?
まあ、残っていると言っても実用できるレベルでは無いので学者以外にはあまり使い道が無いだろうが。
割れていない壺とかがあったら物凄い価値かもしれないな。
幾つか持って帰って、ここが侯爵家の敷地内だったらシャルロの実家経由で売ってもらって売り上げを分割するっていうのでどうだろう?
最初に入った建物の一階は応接間モドキなスペースなのか、大きな部屋が多かった。
後ろに台所らしい場所もあったが。
「昔の鍋も、今とあまり変わりなかったんだね」
シャルロが壁にかかっていたのが落ちたらしき鍋を手に取ってみた。
俺も他の落ちていた鍋を手にとって見た。
ここの住民が出ていく時に持っていかなかったのだから高級品では無かったのだろうが・・・物はいいのかな?
武器ならまだ少しは質が分かるが、台所製品ではなぁ。
熱の伝達効率とか、汚れの焦げ付きやすさとかが分かって、現代よりも質が良いならば研究して大量生産のめどをつけ、アレクの実家でも経由して売りに出してみたいが。
残念ながら、この場で視てわかるほど台所製品になじみは無い。
「一つ持って帰って今の物とどのくらい質が違うか、調べてみないか?」
アレクに提案する。
「そうだな。折角手つかずの遺跡に入って、持って帰るのが鍋というのは微妙な気がするが・・・実用性が高い可能性はあるし」
アレクが合意し、いくつか手に取り、一番汚れていなさそうな鍋を袋に入れた。
「さあ、上の階だ!」
シャルロが元気に階段へ向かう。
しっかし。
この遺跡って最初から丘の中にあったのだろうか?
後から埋もれたのだとしたらもっと街の中が土だらけになっていそうなものだが、入口近辺以外はまるで普通の街の中を歩いているようだった。
最初から丘の中に街が作られたのしたら・・・くり抜くのに物凄い労力がかかっただろう。
そんな労力が必要な程、古代は危険だったのだろうか。
戦争?
魔獣?
それともその時代は魔族がもっと攻撃的に世界を気ままに動き回っていたのか?
不思議だ。
2階は私的なスペースだったのか、安楽椅子だったと思われる家具の残骸とか、寝台らしきものとかがあちらこちらにある。
アレクとシャルロが部屋を思い思いに見て回っている間に俺は
「何があった?」
俺が隠し庫を見つけてそれを開けていたら、シャルロが声をかけてきた。
「隠し庫だ」
「何が入っている?!」
アレクが駆け寄ってきた。
「これだけ」
入っていたのはダガーが一つだけだった。
強盗に押し入られて、隠し庫を開けさせられた時に反撃する為にでも入れておいたのか。
「まあ、主寝室の隠し庫の中身を忘れていくということは無いだろう。他の部屋にも隠し庫があったらそちらの方が可能性は高いかもしれないぞ」
アレクが慰めの言葉をくれた。
確かにね。
主寝室の隠し庫は一番大切なモノを入れているだろうから忘れる可能性は低いな。
ま、ダガーを入手できただけでもいいとするか。
形は普通にあるようなダガーだし、魔具でもないが、素材は今まで視たことが無いモノのようだ。
鋼よりも優れたものならば価値のある発見かもしれない。
「よし、残りの部屋も探そう!」
シャルロが元気よく次の部屋へと向かう。
2階の最後の部屋はどうやら書斎だったようだ。
壁一面に書類と本が置いてあったようなのだが・・・。
「触れられない・・・。」
本を手に取ろうとして触った瞬間にそれが崩壊して埃になってしまったシャルロは、がっかりしたように壁一面の触れられない宝を見つめた。
「古代の商取引の書類や本なんて、解読出来たらこれ以上ないぐらいに面白いだろうに。
非常に残念だね」
アレクも未練が尽きないかのように本棚を覗きこむ。
良く視たら、本も書類も実はすでに崩壊していた。単に触れるものが無かったから形が残っていただけの話で、既に物として形をしっかり成していないから手にとるなり動かすなりしたら崩れてしまうのだ。
「学者とかの魔術で、こう言ったモノを固定化して研究出来る術なんてないんかね?」
折角これだけ物が残っているのに全く調べられないと言うのは勿体ない。
「・・・そうだね、これは是非研究者の人に視てもらってなんとかしてもらおう!」
シャルロが力強く頷いた。
何かお前、凄く元気だね・・・。
こんな感じで街の中を見て回り、蒼流に夜になったことを教えてもらったら野宿(といっても遺跡の中なんだけど)をした。
息をのむほど素晴らしい発見は無かったが、それなりに面白い物をちょこちょこ見つけて各々の袋に入れてきたから、俺たちはそれなりに満足だった。
本当ならもっとこう言った遺跡の文明に関して知識があったり、古いモノを触って研究できるような術を知っていたりしたら更にもっと楽しかったんだろうけどね。
小物ながらも魔物がちょこちょこ出てくるので、こういった場所での野宿には交代で見張り番を立てるべきなんだけど、流石に魔物を撃退したり歩きまわったりで3人とも疲れていたので清早に魔物が入ってこれない結界を張ってもらって熟睡した。
明日は半日見て回ったらもうレディ・トレンティスの屋敷に帰らなければならない。
残念だ。
学院に戻ったら今度はこういった遺跡研究の知識を色々詰め込んで、次回の休みの時にでもまたじっくり遺跡探検をしてみたい。
シャルロとアレクもきっと喜んで同行するだろうし。
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