第34話 星暦550年 紺の月 18日 再挑戦!

天然で、最強。

それがシャルロだと思う。


◆◆◆


「僕は納得がいかない!」

シャルロが、朝食後にお茶を味わっている俺たちにおもむろに宣言した。


「うん?」


「今まで待っていたのに、折角の遺跡探索ではゴキブリもどきの魔物に追いかけられ、折角の新しい発見も白骨と学者用の文字ばかり!

僕は今回の冒険に断じて納得がいかない」

シャルロが憤懣と説明してくれた。


まあねぇ。

折角いい子にして我慢していたのに、発見したのがあれじゃあねぇ・・・。

幾ら学術的に価値が多くても、確かに遺跡のロマンはかなり足りない感じだった。


「気持ちは分かるが・・・。どうしようもないだろう?」

アレクが宥める。


「考えてみたら、心眼サイトが誰よりも優れているウィルに冷静沈着なアレク、類い稀な程に強力な精霊の加護がある僕が集まっているんだ、どんな遺跡だって大丈夫なはず。

ということで、冒険が出来るようにまだ見つかっていない遺跡を蒼流に紹介してもらった!」

一転してにこやかになったシャルロが続けた。


「「ぶっ!」」


俺とアレクが仲良く咽る音が響く。


「入口がふさがっているから今まで見つかっていなかった遺跡なんだって。

だから中身は全部手つかず!魔物が手に負えなかったり、僕たちが本気で逃げていたら助けてって頼んであるから本当に危険なことも無いはず。

蒼流でも対応できないような魔物がいないことは最初に確認してもらうし」


おいおい。

そんなに簡単に手つかずの遺跡が見つかるものなのか??!!


・・・蒼流レベルの精霊が味方すれば見つかるんだろうなぁ・・・。

お前って侯爵の息子な上にそこまで強力な精霊を味方に持ってて、無敵じゃん。

ある意味、国の乗っ取りだって出来るんじゃないの?

まあ、そういう俗なことを考えないからこそ精霊に好かれるのかもしれないが。


・・・そう考えると、金に拘りこれ以上ないぐらい俗っぽい俺に加護をくれた清早ってよっぽど変わり者な精霊なんだなぁ。


しっかし。

本当だったら『危ない時に助けてもらう』のを前提で探索するのは『冒険ごっこ』の様であまり嬉しくないが、本格的に下調べをして俺たちの力だけで探検する様な日数は残っていない。


しょうがない、今回は『冒険ごっこ』を楽しむことにするか。


◆◆◆


食料と一晩分の野宿の準備をして出向いた先の遺跡は、レディ・トレンティスの屋敷から馬で2刻程行ったところだった。

「随分とお手頃なところにあったんだな」

遺跡があると言う丘の前でアレクが呆れた様に呟いた。


「蒼流の話では、さっきの遺跡に住んでいた人たちの貿易の商業地点だったんじゃないかって。あっちが宗教の拠点だったから世俗の活動はこっちでやっていたんだって」

憶えているんか、そんな昔のこと。

精霊の記憶ってどんな感じのものなんだろう?永遠に消えないモノなのかね?


ま、今回は助かるけどさ。


ついでに、なんでこれらの街が廃墟になったのかも覚えておいてくれれば更によかったんだけどねぇ。

『気が付いたら無くなっていた』っていうのはうっかり過ぎだよ。

ある意味、そんな大雑把な精霊に存在したことが認識されていたってことは、ここもそこそこの年数栄えていたのだろうに。


蒼流に入口を作ってもらう。

中に入る前にざっと透視して遺跡の大雑把な街並みを視た。

「昨日の遺跡より小さいな。

ここも中央に広場があるようだ。またそこを中心に螺旋状に見ていくか?じゃなきゃ外側から中央に向けてぐるっと回りながら近づいていくというのもありだが」


「どのくらい時間がかかるか分からないから、今回も中央の一番栄えたであろう場所から見ていこう」

俺の問いにアレクが答えた。

シャルロも異議なしとのことだったので、早速中央の広場へ向かう。


「シャルロ、上!」

「アレク、右!」

流石発見されていなかった遺跡だけあり、所々に魔物や動物が隠れている。

大抵は人間が近づくと逃げるのだが、反対に襲ってくるのはあっさり撃退した。

うん、俺たち強いよねぇ。

シャルロとアレクはまだ気配に対してちょっと鈍いけど。


とりあえず建物には入らずに、所々興味深い建築物の外装を注視する以外は立ち止まらないで足を進めて中央広場にたどり着いた。1刻もかからなかったかな。

商業拠点なせいか、こちらの方が固定化の魔術の利用が少なく、今まで人が入っていなかったにも係わらず破損している部分が多かった。

それともあっちの遺跡は破損して壊れてきた個所は近所のプチ冒険者たちに持って帰られて目立たなかったのかな?


中央の広場は・・・市場だった。

神殿では無い感じ。

「これって学者たちにはオーパスタ神殿遺跡ではないと分類されるのかな?」

アレクに思わず尋ねてみた。

生き(?)証人の精霊が同じ文明の遺跡だと言っているのに、街の用途が違ったがために違う文明の遺跡だと分類されるとしたらかなり皮肉な話だ。


「どこかに文字を彫ったものがあればオーパスタ神殿関連の遺跡だと認定されるだろうけど、どうなんだろうな?」

アレクもこれに関しては自信なさげだ。


「つうか、考えてみたら遺跡を発見した場合って誰かに報告しなくっちゃならないのか?」

遺跡なんてモノに縁が無かったから考えてみたらそんなことも知らない。


「・・・そういえば、どうなんだろ?」

シャルロも首をかしげてアレクに尋ねた。


「ここってまだ侯爵家の領地内なのか?だとしたらシャルロとその友人である私たちが何を発見して持ち帰ろうと問題ないと思う。

だが、他の貴族の領地内ならちゃんと報告せずに遺跡の中で発見されたモノを持って帰ったら盗掘罪で訴えられるかもしれない」

アレクが答えた。


流石大商家の息子!

それらしい答えを返してくれる。


「で?」

シャルロに尋ねる。


「・・・どうだろ?帰ったらおばあさまに確認してみる」

シャルロが自信無げに答えた。


遺跡を発見できる精霊も、人間が勝手に決めた領地の境界線がどこにあるのかは分からないらしい。


「まあ、いいや。とりあえず探検しようぜ」

最初に質問を投げたくせに、実はあまり興味が無かった俺が二人に声をかけた。

アレクとシャルロが同行しているということは、どうせ遺跡の中の重要なモノは持ちかえらせてもらえない事を意味するだろう。

だとしたらこの遺跡が誰の土地に有ろうとあまり関係はない。


まずは、広場の前にある大きな建物を調べるか。



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