第30話 星暦550年 紺の月 15日〜16日 中休みだ!
魔術学院では年末の桃の月の終わりと、紺の月と緑の月に5日ずつ連続休暇がある。
去年はバイトと図書館の読破に明け暮れていた俺だが、今年の最初の中休みではシャルロとアレクと一緒にシャルロの祖母の家とやらに遊びに行くことになった。
「あっちにはねぇ、遺跡もあるんだ。
大したものでは無いらしいけど、ついでに探検してみよう」
シャルロがうきうきと提案した。
楽しげだな。
「今までにも行ったことあるんじゃないのか?」
「一応近所の人達に探索しまくられているけど、やっぱり遺跡は危ないからね。
子供の頃は禁止されてたの。でも、もう一応成人したし、魔術も基本の術はもうマスターしたし。
だから今年こそは行こうと思って。
アレクとウィルも一緒だったらきっと大丈夫!」
まあ、考えてみたらこいつにはあの過保護な守護精霊がいるんだ、無敵だろう。
そう思うと、何で子供だからと言って入るのが禁じられたのか不思議だ。
家族はあの守護精霊の事を知っていると言う話なのに。
「探検ねぇ」アレクが考え深そうにつぶやいた。
「あそこら辺の遺跡と言ったら・・・
「そうだね、何か面白そうな伝説とか言い伝えが無いか、調べておこう。
やっぱり単に洞窟モドキな遺跡を歩きまわるより、何か宝を求めてさまよう方が絶対に楽しいから!」
アレクが立ち上がった。
「そうとなったら、図書館でそれらしい本を手分けして探そう」
やる気満々だね、アレク。
俺としては虫やら小動物やらが沢山隠れていそうな遺跡ってあまり行きたくないんだが・・・。
まあ、遺跡になんて行ったことがないから、面白い物を見かけるかもしれないが。
図書館は大まかに歴史、魔術理論、魔術実務、軍務、その他といった感じに分かれている。
今までに魔術理論、魔術実務と軍務は大分と目を通してきたが、歴史やその他は手つかずだ。
今回はアレクの提案で『その他』を探すことになった。
遺跡といったら古い建造物ということなのだから歴史かと思ったんだが、『遺跡』というのは歴史も失われた古い時代のものを指すのが一般的で、歴史が分かっているものは正式には遺跡と呼ばれないとアレクに説明された。
ということで、『その他』が一番可能性が高いんだそうだ。
ちなみにオーパスタ神殿というのは単にオーパスタ地方に多くみられる形式の遺跡で、中央に神殿の祈祷台のようなものがあるから神殿と呼ばれているだけで、本当に神殿だったのかすら分からないらしい。
シャルロとアレクが思い思いにこれはと思った本に目を通している間に、俺は新しく開発しようと思っている技能を使おうと集中することにした。
基本的に、俺の
建物なり部屋なりを輪切り状態にして全体的に透視することだって可能だ。
だとしたら、別に魔力の発光が無くっても物を探せるはず。
試してみたところ、それなりに集中力を要するし誤認することもあったが、一応探せた。
同じ要領で、本も探せるのではないか。
単語を形成する文字をイメージして探せば一々本を読まなくてもそれだけを透視出来てもおかしくない。
これがうまく出来れば図書館での欲しい情報探しが非常に効率的になる。
ということで、棚一つを平面としてとらえ、その中の文字をさらっとなぞるように透視してみた。
・・・。
文字が多すぎだ・・・。
魔術書ならまだ術などに魔力が微かに付いているので視えるが、普通の紙に普通の人間が何も考えずに書いた文字はダメだった。
そりゃあ、集中すりゃあ読めるのだが、なぞるように流し読みという透かし視して欲しい文字列があるかを確認するはちょっと厳しい。
ちっ。
思ったように行かないもんだ。
しょうがないから、今度魔術書を何か調べたい時に再挑戦してみよう。
あ~あ、何かがっかりしたらやる気が失せた。
いいや、シャルロの遺跡のことを調べる振りして、他のことを調べよっと。
◆◆◆
シャルロの祖母の家・・・というか
レディ・トレンティスは先代オレファーニ侯爵の妻で、夫に先立たれて息子が爵位を継いだ際に侯爵家の本邸を出てサンクタスにある別邸に引越したんだそうだ。
かなり不便な地域なのだが自然が美しく、気候も過ごしやすいのでシャルロは毎年遊びに来ているらしい。
園芸が侯爵夫人の趣味だそうで、館の庭は見事なものだった。
色とりどりの花に気持ちのよい木陰、絨毯のような芝生。
そして中は・・・別荘とは言え、流石侯爵家の持ち物だけあって置いてあるものはいいものばかりだった。
家具は重厚な高級品だし、置いてある壺や絵画はどれも売ればかなりの金額になるものばかりだ。
しかも、見せることを重視した派手派手しいテイストではなく、いいものを自分の好みで揃えた内装。
いいねぇ。
成り金趣味の家って入ると『見せびらかす為にしかいらないなら、貰ってやるよ』と思うけど、ちゃんといいものを好きだから持っている人の家は『俺もいつかこんな家に住みたい』と感じる。
まあ、魔術師の才能が見出されたことで、俺も
「ようこそ。半日も馬車に揺られて疲れたでしょ?
美味しいイチゴが旬なのよ。楽しんでちょうだい。」
レディ・トレンティスが態々我々を歓迎してくれた。
「わ~い、イチゴ!楽しみにしてたんだ!!」
シャルロが嬉しそうに歓声を上げる。
「おばあさま、こちらの金髪がアレク・シェフィート、茶髪がウィル・ダントールです。
アレク、ウィル、こちらが僕のおばあさまのレディ・トレンティス・オレファーニ。美人でしょ?」
まあ、確かにね。
でも、紹介の時に言うセリフかねぇ・・・。
レディ・トレンティスはメンテナンスがいいのか、もう成人した孫がいるとは思えない程若々しく、美しかった。
アレクの話では、シャルロの祖父と結婚した頃は絶世の美女として大陸でも有名な女性だったらしい。
シャルロも天使系の見た目だからなぁ。
一度、こいつの姉妹を見てみたいかも。
いるんだっけ??
メイドが入って来て紅茶を注ぐ。
そしてサイドテーブルの上にイチゴとクッキーが出された。
イチゴか。
魔術学院に入るまで食べたことがなかったが、入学してから旬の初めに食堂で出てきたのを食べた。
あれは美味しいよなぁ・・・。
種が歯の間に挟まって困るけど。
「どうぞ。本当に美味しいのよ」
レディ・トレンティスが勧めてくれた。
孫の友人とは言え、タダの平民に気さくな人だよなぁ、この人。
まあ、そう言うタイプの人間だからこそ、こんな田舎にリタイアして庭に情熱を注いでいるんだろうけど。
「ありがとうございます。では、遠慮なくいただきます。」
アレクが先に手を出した。
こういうところのマナーはこいつの方がよ~~~~~く分かっているからね。
アレクが手を出したと言うことは食べてもOKということだな。
「・・・く~~~~~~!美味しい!」
やべ。思わず奇声が出てしまった。
学食で出たイチゴと同じ種類とは思えない位、美味しい。
あれも十分美味しかったんだけどね。
「ふふふ。美味しいでしょ?
私の自慢の菜園で育てた採れたてよ」
レディ・トレンティスが笑いながら自慢した。
すげえ。
自分で育てられるのか、これ。
王都でも育てられないかなぁ。
下町では皆、屋上にプランターで野菜を育てていたが、寮の屋上でイチゴを育てられないかな?
こういうのって水やりが命だと言うが、清早に手伝ってもらったらどうだろう?
水精なんだ、イチゴの苗が喜ぶ水具合なんて簡単に出来そうだが。
「おばあさま、今度こそあの遺跡に行くからね!
今回のお休みは、あの遺跡を踏破するんだ」
シャルロがレディ・トレンティスに宣言した。
・・・おや~?
何か、驚いているぞ。
「まあ、今まで行っていなかったの?」
「だって、危ないから大人になるまで絶対に!!!行っちゃいけないって言ったじゃない」
シャルロが不満げに答える。
「いつの世も、大人は危険な場所へ行くことを禁じ、子供はその言葉を無視して忍び込むものよ。
あなたのお兄さんや従兄弟たちと同じように、シャルロもとっくのとうに忍び込んでいたと思っていたわ」
「兄さんたち、忍び込んでいたの?!」
まあ、普通そうだろうね。
シャルロの顔見る限り『忍び込む』という選択肢は欠片とも浮かんでいなかったようだが。
「そう、アシャルもカダンもダルファスもヘネサンも皆、忍び込んで・・・出れなくなって捜索隊を出す羽目になったものだわ。
あなたは迷子にならなかったのかと思ったら、忍び込んでいなかったのね」
まあ、忍び込んで迷ってもシャルロなら蒼流がいるから無事に出て来られただろうけど。
出て来られない子供たちは言いつけを破って忍び込んだのに、唯一出て来られたであろう子供だけがいい子に忍び込むのを我慢していたなんて・・・皮肉というか、シャルロらしいというか。
「まあ、3人で堂々とお弁当を持って行った方が楽しいよ、きっと」
祖母の暴露した事実に茫然としているシャルロにアレクが慰めの言葉をかけた。
「・・・そうだね。
よし、明日の朝一番に行くよ!」
シャルロが復活した。
頑張って起きてくれよ。
お前が一番朝に弱いんだから
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