第15話 星暦549年 萌葱の月 5日 追跡

馬車・・・というかそれを引いていた馬の痕跡を追った。

来た方向も進んだ方向も、最終的には術者の元へ辿り着くはずだが・・・。

来た方向へ戻る方が禁呪の現場にたどり着けるかもしれない。


禁呪の危険性を考えれば、術を家でやるとは思いにくい。

まあ、家の地下室という可能性もあるが。


だが、暴発する可能性がある術だとしたら、俺だったら自分のねぐらのそばではやりたくない。

となったら幾ら本人にあの嫌な痕跡が微かにこびりついているとしても、家に何も証拠がない場合は確信を持って『犯人はこいつだ!』と言えなくなる。


術者じゃなくってその使用人の可能性もあるし。

まあ、普通の一般的な使用人は死体遺棄をやれと言われても当局にタレ込んで逃げる可能性が高いから、縁のあるごろつき程度か。


術者がある程度以上の階級の者である場合、死体遺棄を本人がやっていない可能性がそれなりに高い。

どの社会にも、金さえ払えば何でもやる人間はいる。

もしくは共犯者かもしれないし。


禁呪の多くは邪教関係で構築されたらしい。

となったら信者が手助けしている可能性もある。


術をやっている現場を見つけられれば術者本人を見つけられる可能性が高くなるし、そうでなくても禁呪の種類が分かるから術が発動された時の対策も講じられるかもしれない。

願わくはこの痕跡があまり賑やかな通りや屠殺場の前とかを通らないでくれるといいのだが・・・。



走っている間に夜の街を抜けて川沿いの倉庫街に出てきた。

大きな倉庫を一つ借りきれば、悲鳴が聞かれることも無いだろうし、人も集まれる。


・・・だが川沿いの倉庫街でやっているなら、何故川に死体を捨てなかったのか。

重しをつけて川に沈める方が、下町に捨てるよりも更に確実に保安部の邪魔が入らないだろうに。


そんなことを思っていたら倉庫街も抜けた。

あれ?

下町以外では一番いい場所だと思ったんだけど。


もしかして街の外まで行くのか??

だがそれこそ街の外だった適当にどっかの森にでも埋めればいいだろうに。


そんなことを思いながら時々立ち止まって心眼サイトを凝らしながら馬車を追っていたら、高級住宅地に出てきた。

貴族が住んでいる地域だ。


げ。

いくら術者が何者でも死罪と言っても、出来れば貴族が関与してない方が良かったんだが・・・。


やがて馬車の痕跡がとある屋敷の商人用の門へ入って言った。

広さだけは大きいものの、庭の植木は殆どが枯れていて敷地が全体的にくすんだ感じだった。


「この屋敷がどこのか、知っているか?」

青に振り返った。


「バスケラー男爵の屋敷だな。先々代が鉱山で富を築いて爵位を受け賜ったが、もう何年も前に鉱山は廃坑になったはず。

先々代はそれを見越して色々多角化していたのだが、先代はそれの殆どを潰した無能だったという話だ。

現当主の話はあまり聞かないな」


屋敷の前に立っていては目立つので、隣の屋敷に忍び込ませて貰ってバスケラー男爵宅を心眼サイトで覗きこむ。


「どうだ?」


10ミル以上、心眼サイトを凝らしていた末にため息をついて眉間を揉みほぐした俺に青が声をかけてきた。


「何も見えん」


「ここじゃないのか?」


「いや、今まで見たことがないぐらい、完璧に防壁膜シールドが敷地全体に張り巡らされている。

普通レベルの悪人でも、ここまではやらないからかえって怪しい。

が・・・」


「死体の痕跡ならまだしも、死体を運んだと思われる馬車の痕跡を追ってきたと言うだけでは少し弱いか」


かといって忍び込んで捕まっては元も子もない。


「学院長に相談してみる。最悪の場合、どうせ明日ぐらいにまた死体を遺棄するだろうからそれを捕まえる。とりあえず、ギルドの腕利きの者に、相手に気取られないように見張っておいて貰えるか?」


青が薄く笑った。

「勿論だ。正直、幾ら幽霊ゴーストでも1日で犯人の屋敷を見つけられるとは思っていなかったからな。少しでも術者を止められる可能性があるなら、どんな協力でもするさ」


なんだ。

そこまで期待されてなかったんかい。

だったらもっとしっかり寝ておくんだった。

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