四章 ミコがやれること
4-1
「ナコクの使者は、まだ拘束していますか?」
泣いて暮らすことにも疲れきった、ある日。
私は、動くことにした。
ヒタオが生き返らない事実に打ちひしがれることからも、そろそろ立ち直りたくなったのだ。前を向きたい。このままじゃ、ヒタオが浮かばれない。ヒタオのために何かしたい。いや、綺麗事だな。私が、私のためにしたいだけだ。
何か。
あの子。
キヒリ。
あの消えたっきりのキヒリを見つけ出そうと思い至るのに、ずいぶん時間がかかってしまった。それほどヒタオのことが、ショックだった。
キヒリは空中に飛んだ。
強力なツウリキを持っていた。
それに私が……カラナが、知ってた。
名前以外の記憶が出てこないし、名前を思い出した時の感情がすごく複雑だったし、これ以上は分からないけど。自然に思い出せるのを待つしかない。
キヒリを探してみようと、試しに意識を飛ばしてみたけど、タバナが側にいないからか、ヒタオのことで自分のコンディションが良くないからか、上手く飛べなかった。
それに、もし飛んでキヒリを見つけたとしても、幽体を捕まえられる気がしない。殺されかけたことだし、おとなしく話し合いって訳にも行かなさそうだし。
気持ちとしては……殺してやりたい。
いとも簡単に、顔色ひとつ変えずにヒタオを殺した、男の子。そもそもの標的は私だった。ってことは、ナコクは暗殺者を我がクニに送ってきたということになる。
だとすればナコクの使者は、そのことを聞かされていたのかどうか? じゃないかな。
誰の差し金だったのか、キヒリが何者なのか? ただの奴隷じゃないでしょ。ナコクの返答次第では、戦争じゃね。
とはいえ、まさか、ひょっとして釈放しちゃったとか……。何日もたってるもんね。
事情聴取とか終わってんのかな。
だが。
様子を訊いてきてくれないかとお使いを頼んだフツが持ち帰った返答は、予想の斜め上を行った。
「使者を処刑し、首をナコクに返したそうです」
「えっ」
気持ちとしては、ええええええぇえぇ?! ぐらい叫びたかったけど、ぐっと堪えた。マジか。
どうしてそうなった。
「誰が、そんな……」
「オサですよ、ミコ様?」
当たり前じゃないですか? という含みが感じられる声音。待って、それオサが命令しちゃう訳? 最重要人物は私じゃないの? そういう権限は私じゃないんかい? もしかして前に逃亡したからとか?
いや……この感じだと、そもそも
っていうか使者って、ほいほい殺しちゃって良いんだろうか。いや先に殺されたのは、こっちだけどさ。
戦国時代だと、使者は殺しちゃダメっていう決まりがなかったっけ。ここは戦国時代じゃないから良いのかな。そもそも日本かどうかも怪しいんだけど……そうは言いながらも、ここがどこなのかを察知している自分もいる。
多分ここでは、首を切り取るって特別なことじゃないんだろうか。そうでもしなきゃ本人かどうかとか分からないから。写真はもとより、似顔絵なんていう技術も、何もなさそうだし。
「フツは、それは誰から聞いてきてくれたの?」
「
あ、なんかそんな役職もあったな、確かに。
私がほほう、という顔をしたのを、フツが悲しげに見てくる。
「お分かりになっていて、私にお命じ下さったのではないのですか?」
「あ。あ〜……ゴメン」
「ミコ様のご記憶がないことには慣れたつもりでしたが……ご深刻ですね」
「そうだね……」
フツには私の正体、バラしてないしな。ヒタオがいなくなっちゃった以上、フツにも言っといた方が良いのかな。ちょっと悩むな。
「キヒリの行方は掴めたのかな……」
手がかりを殺しちゃったとは。
「キヒリ……ですか?」
「あ、うん。あの時ヒタオを殺した男の子いたじゃん。あれ、それも訊いてきてって頼まなかったっけ、私? キヒリのこと何か分からないかなって」
一緒にいた奴隷のことも何か訊けたら、訊いてきてって言ったはず。でもフツは忘れちゃってたらしい。
と思ったら。
「いえ……あの時、使者はあれ一人でありましたので」
「え?」
「ヒタオを打ちつけた男も、あの使者です。だから処刑されたのです。ミコ様のおっしゃられる少年なる者が何かが分からず、チサに訊くことが出来ませんでした」
……なんだって?
キヒリが、いなかったことになってる?
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