三つ子の魂百まで
一本、脚の取れたバッタが目の前をピョンと跳んだのよ。当時まだ幼かった私はその姿に衝撃が走ったわ。バッタの脚って取れるんだ!ってね。幼い私が受けた衝撃は強い好奇心となって私の心をつついた。バッタの脚、一本一本抜いていったらどうなるだろう。私はバッタを捕まえて脚を摘まんだ。ゆっくり引っ張ると、プツ、という音と共に取れてしまった。バッタの脚ってこんなに簡単に取れるのね。私は夢中で他の脚も抜いていった。脚の無くなったバッタは三日月のようで可愛かったわ。
「え、怖っ」
目の前で話を聞いていた彼氏の冬彦が声を上げた。話の発端は、水たまりに蟻を落とすこどもを見た、という冬彦の言葉だった。そういえば、私もそんなことしたなあ、なんて思いながら何気なく話したそれは、彼にとって恐ろしいものだったらしい。
「えー、怖いかなあ?冬彦もそういうことしたでしょ?小さい頃」
「水たまりに蟻を落とすのは……まあ、したことはあるけどさ。脚を一本一本抜くなんてしないよ」
「同じことじゃない?」
「全然違う!」
「でもさ、こどものうちにそういうことをしておかないと大人になってから歪むってテレビで言ってたよ」
「テレビってあてにならないもんだよ。仮にその話が本当だとしても、お前のはないわー」
「そうかなあ?」
ただ好奇心に従って行動しただけなのに。腑に落ちないが、まあ価値観は人それぞれだ。これ以上言っても意味はないだろう。私は話すのを止めて、処理を施した肉をフライパンで焼き始めた。ジュウッという小気味良い音を立てて肉が焼ける。いい匂いが鼻腔を擽った。
「お、いい匂いだね」
冬彦がわくわくとした顔でフライパンを覗いている。
「昨日あなたが持ってきたお肉よ」
「確か、昨日調達したのは若い雌だったな。さぞ柔らかくて美味しいだろう」
冬彦が舌舐めずりをする。実を言うと私も楽しみだ。最近は老いたものばかりだったから、若いものは久しぶりだった。
肉は素材を活かして塩と胡椒だけで仕上げる。出来立てホカホカを皿の上に寝かせて私達は手を合わせた。
「いただきます」
Fin.
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