[ ]⑥
「ア、アルヴィンさん……?」
ココルが戸惑ったような声を上げる。
メリナもテトも、彼女と同じような表情をしていた。
俺は言う。
「全員、動揺しすぎだ」
ドライアドは動きを止めたままだが、あまり時間はかけられない。
「落ち着いて考えろ。俺たちは深層冒険者だ。パーティーの平均レベルは54。四人でなら、四十層のボス程度問題なく倒せるはずなんだ」
ボス攻略のパーティー平均レベルは、階層数プラス10が望ましいと言われる。
実際には、階層数と同じくらいの平均レベルでもクリアされることは多い。
俺たちが勝てないはずがないのだ。
「で、でもアルヴィン」
テトが恐る恐る言う。
「ここではスキルが使えないんだよ? ボクたちがここまでレベルを上げられたのも、パーティーを追い出されたって冒険者を続けてこれたのも……全部マイナススキルと引き換えに持ってた、たくさんのスキルのおかげじゃないか! それが使えないのなら、ボクたちは……」
「俺は、そうは思わない」
テトに向け、迷うことなくそう宣言する。
「俺は……決して生まれ持ったスキルだけで、ここまで来たわけじゃない。必死に剣術を磨いたし、ダンジョンやモンスターの知識も学んだ。冒険者として生きていくために、懸命に努力してきた。だから、今の俺がある。――――戦闘も戦闘以外も、全部上手いと言ってくれたのは君だろう、テト」
「っ……」
「みんなも、俺と同じなんじゃないか?」
俺は続ける。
「ココルはとにかくすごいよ、こんなに上手い
三人は、黙って俺の言葉に耳を傾けている。
「みんな、努力してきたはずだ。ここにいる誰の強さも、生まれ持ったスキルだけに頼って身につけられるものじゃない。何かを学んで、研鑽してきたはずだ。そうやって得てきたものがあるはずなんだ。それはレベルもそうだし、覚えた呪文や、集めたアイテムもそうだろう。だが、何よりも――――」
俺は、一番伝えたかったことを告げる。
「――――
スキルとも、レベルとも、パラメーターとも違う、冒険者としての強さ。
ステータスとは一切関係ない、自分の身体に刻みつけた素の
「ここは、きっとそういうダンジョンなんだ」
普段と違うことがあった時は、なぜかをよく考えるようにしている。
余裕がない中でも、俺は頭の隅で常に考えていた。
「階層によって様々なモンスターが出る。そしてボス戦では、スキルを使用できない――――。もし箱庭の作者がいて、このダンジョンの作りに意図があるのだとしたら……すべては
俺は告げる。
「マイナススキルを持ちながら努力してきた俺たちが、勝てないはずがないんだ」
皆の沈黙が、静寂を作る。
だが、それはすぐに破られた。
「そ……そうだよ!」
テトだった。
「ボクたちなら勝てるよ! よく考えたら、たかが四十層のボスだもんね。五十層まで潜るボクがクリアできないなんておかしい。スキルなんてなくたって余裕だよ!」
「ちょっと、慌てすぎていたみたいね」
メリナがふと笑って言う。
「召喚される取り巻きも、枝の攻撃も、別に大したものじゃなかったわ。それでこっちは四人だもの、スキルが使えないくらいの縛りがあってもいいわよね」
それから――――皆の視線が、ココルへと向かう。
「わたしは……信じようと思います」
神官の少女が、顔を上げ、力強く言う。
「アルヴィンさんの言葉と……わたし自身の
パーティーの意思は決まった。
ここからが、本当の戦闘開始だ。
テトが投剣を掴みながら、メリナが杖を構えながら、ドライアドの本体を見据える。
「そういえばさー、まだボスにダメージ入ってなかったよね」
「どう攻略するのがいいのか、ちょっと確かめてみましょうか」
投剣と火球が、ドライアド本体に向けて放たれる。
だがそれは、蔓のような枝が無数に集まり盾となり、防がれてしまった。
どうもダメージが入るようには見えない。
しかし、それは全員の想定内だった。
「決まりね。本体への攻撃はまだ届かないわ。枝を攻撃するわよ」
「ああ」
俺は振り上げていた剣を、地面を這っていた最後のポイズンスティール・メイルへと振り下ろす。
紫色の鎧は、残りのHPを消し飛ばされて四散した。
「――――さあ、来い」
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