【ミイラ盗り】④
「あははっ、お兄さんたちもバカだなー。盗賊の出したものを素直に飲むなんて」
口の端を吊り上げた笑みで、テトが俺たちを見下ろす。
「な……」
問い返そうにも、口がほとんど動かず声が出せない。
俺の視線に気づいたテトが、手に持った空の小瓶を揺らす。
「ああ、これ? ボクが飲んだやつだけは本物の耐毒ポーションだよ。お兄さんたちに渡したのはねー、『ライムトードの麻痺毒』っていうアイテムなんだ。色がよく似てるでしょ」
そう言って、小瓶を放り投げる。
頭をわずかに動かし後ろに視線を向けると、メリナも同じく倒れているのが見えた。ここからだとココルの様子は見えないが、空の小瓶が二つ転がっているところを見るに、彼女も麻痺毒を飲んでしまったようだ。
「さーて。ここから盗賊がやることと言ったら、決まってるよね。お兄さん、ちょっと手借りるね」
テトは俺の手を取ると、指を動かしてステータスを開いた。
そのままストレージの内容を表示し、アイテムの一覧をスクロールしていく。
「うーん、と言っても、今ボクの手持ちもけっこうふさがっちゃってるんだよねー。盗賊職はアイテム集めに向いてる割りに、運搬上限は並みだからなー。まさかこんなことになるなんて思わなかったし……あ、でもけっこういいアイテム持ってるねー」
テトの独り言と共に、虚空から現れた俺のポーションや予備の装備品などが、ぼとぼとと地面に落ちて転がる。
と、その時。
俺は倒れ伏した地面から、微かな振動を感じ取った。
ステータス画面の操作に夢中なテトは、気づかない。
「よし、お兄さんはこんなもんかな。じゃあ次は魔導士の……」
テトが顔を上げた、その瞬間。
盗賊の頭に、メイスが思い切り振るわれた。
「い゛っ!?」
テトが地面に倒れ込む。
だが隙を作らぬうちに素速く体勢を立て直すと、相手に向けてナイフを構えた。
しかし、その表情には明らかに動揺が浮かんでいる。
「はは、お姉さん……なんで動けるのかな」
「言ってなかったと思いますが」
メイスを提げたココルが、静かに答える。
「わたし、【麻痺耐性・大】のスキルを持っていますので」
俺は思い出す。
ココルに見せてもらったステータス画面にそのスキルがあったかは覚えていないが――――少なくともイエローゴブリン・アーチャーの麻痺矢を受けても、ココルは普通に戦闘を続けていた。
「へ、へぇ……いいスキル持ってるね」
テトが引きつった表情で言う。
「もう一つ訊きたいんだけど……ボク、なんでこんなにHP減ってるのかな」
「わたしのレベルが【80】だからです」
「は……80!?」
「わたしは神官ですけど、きっとあなたよりも
ココルの声を聞きながら、俺は倒れたままで顔を伏せた。
なんだか、ココルが怖い。いつもの彼女じゃないみたいだ。
「その残りHPで、わたしと勝負してみますか?」
「うぐっ……」
テトの呻き声が聞こえる。
テトからすれば盗賊職の恵まれた
少し置いて、ナイフが床に落ちる乾いた音が響いた。
「あー、もう! 降参降参! そんなの反則だよ、もう」
「あなたにだけは言われたくありません」
それから、ココルが詠唱を始める。
今までで一番速い詠唱だった。
呪文が唱え終わると、光が通り抜けていくような感覚と共に、体が動くようになる。
「メリナさんかアルヴィンさん。ロープのアイテムを持ってませんか?」
ココルが、振り返りもせずに言った。
「この人を捕まえておこうと思います」
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