第57話 文化祭準備
学校では2学期の中間テストが終わり、文化祭が始まろうとしていた。
どのクラスも準備に追われ、夜遅くまで残っている。
当然、我が2年D組もその一つで、内装の飾りつけに大忙しだ。
「タルってどこに置けばいいのー?」
「剣は壁にかけてー」
うちのクラスの出し物は「異世界カフェ」だ。
内装は中世ヨーロッパ。店員は剣士や魔法使い、モンスターなどのコスプレをした生徒たちだ。
「衣装チェック始めまーす! まずは男子からー!」
各自衣装に着替え、衣装のチェックをおこなう。
「はははは! 吉田、似合うぞー!」
「鳴け鳴け豚野郎!」
「うるせえ! ブヒィ!」
吉田はオークだ。
また豚になるとは。何か縁があるのかもしれない。
「品川、キッモ!」
「犯罪でしょこれ!」
「だったら、この役なしにしてくれよ!」
品川はマスクとブリーフ、マントだけを身に付け、斧を持っている。
これは勇者の父親の役だ。
どう見ても変態にしか見えない。
「きゃー、素敵!」
「さすが一条君!」
その勇者が一条だ。さすがは爽やかイケメン。よく似合っている。
「すげえ……とんでもない負のオーラだ……」
「マジこええ……」
魔王の衣装を着た俺に、クラスメイトたちが怯える。
本当はトレント(木のモンスター)が良かったのに、裏番だと思われているため、魔王をやるはめになったのだ。本当最悪である。
「じゃあ、次は女子ね。まずは北原」
「うーい」
「――お、いいじゃん!」
北原は女神官の格好だ。
普段のギャルギャルしさが失われ、清楚な雰囲気が出ている。正直ありだ。
「次、小松」
「おいすー」
「ぎゃはははは!」
クラス中が笑いに包まれる。
小松は全身を緑に塗り、尖った耳を付け、短剣を持っている。
そう、ゴブリンである。
「笑うなしー! つうか女子に、ゴブリンやらせんのおかしいべ!」
そう怒りつつも、きっちり仕上げてくるのが小松の偉いところである。
こいつは変なところで真面目なのだ。
「次は……優月ね」
「ソイヤッサ!」
「おおー!」
セクシーな女武闘家のコスプレをした、星優月が姿を現した。
これは大丈夫なのか? 怒られそうな気がするが?
「じゃあ最後、お願いします」
「うん……」
「うおおおおおおおおおお!」
男子たちが興奮状態となる。
無理もない。めちゃくちゃエロい恰好をしたサキュバスが降臨したのだから。
「……これは絶対ダメ。PTAに怒られちゃう」
「大丈夫です先生! 俺達が絶対に守りますから!」
そう、サキュバスは桜子先生である。
谷間もバッチリ見えているし、股間のラインもかなり際どい。
男子の半数以上は、前かがみとなっている有様だ。
こんな感じで文化祭の準備は終了となり、いよいよ明日が本番となる。
後片付けも終わり、さて帰ろうかとしたところ、紫乃がやって来た。
「先輩、今日も乗せて下さい」
「ああ、分かった」
文化祭準備中は、下校時間が遅くなってしまうので、その間だけバイクで登校することにしたのだ。
さすがに真っ暗闇の山道を、1時間もチャリで走る気にはなれない。
駐輪場に行き、紫乃にヘルメットを渡す。
いつでも二人乗りできるように、俺は予備のヘルメットを常にバイクに積んでいるのだ。
「――あ、桜子ちゃんの匂い」
「え? 本当か?」
俺は紫乃のヘルメットを手に取り、匂いを嗅ぐ。――ああ、確かに。
「……先輩を自分のものだと主張してるんです。あの人らしいですね」
「えー? シャンプーの香りが、染みついただけじゃないのか?」
「違います。これはコロンの香りですよ。意図的に吹き掛けたってことです」
そう言いながら、紫乃は自分の香水をヘルメットに吹きかける。
うーむ……先日の件が、まだ尾を引いているな。
二人がバチバチやりだしたのは、俺が一人でリビングで映画を見ていた時だ。
桜子先生が「面白そうだね」と言って、俺の隣に座り一緒に見始めた。
だが、その距離があまりにも近すぎたらしく、紫乃警察の目に引っ掛かってしまったのだ。
「前々からおかしいと思っていたんです! 食卓の席、コップやハブラシの置き場所、どれも全部先輩の隣ですよね! 桜子ちゃんって、先輩のこと好きなんですか!?」
「うん、好き」
先生が俺の肩に頭を乗せる。
「即答!? ――ちょっと、やだやだ!? いつからですか!?」
「んー……1年の時から、ちょっといいとは思ってたかな」
そうだったのか……それは知らなかった……。
「……え? じゃあ、ひまりちゃんの家庭教師をお願いしたのも……?」
「うん、そういうこと」
マジで!?
「桜子ちゃん、とんでもなく計算高い女じゃないですか! 私、びっくりです!」
「そうだよ? 気付いてなかったの?」
「あの……まさか、先輩に手出してないですよね!? 犯罪ですからね!?」
「あはっ、どうかなぁ……? ねぇ、颯真?」
先生は俺の腕に抱き付く。
「ちょっと、やだやだ! 先輩、どうなんですか!?」
ここで久しぶりの選択肢。
[1、「キスまでだ」]
[2、「キス以上のことまでだ」]
[3、「すまん、最後までいってしまった」]
「キスまでだ」
「えー!? ダメですよ、桜子ちゃん!」
「大丈夫。颯真の言ってること、嘘だもん。ねー?」
先生は小悪魔の笑みを浮かべる。
「桜子ちゃん、その『颯真』って呼ぶのやめてください!」
「やだ! じゃあ、紫乃もそう呼べばいいじゃん」
「……え? ……そ、そんなことできません! ていうか、いつまでべったりくっついてるんですか! はやく離れてください!」
「シャーッ!」
そんなことがあってからというもの、紫乃は何かと先生に張り合おうとする。
俺の隣に座ろうとしたり、こうやって一緒に帰ろうとしたりといった、可愛いものではあるのだが。
この程度で満足してくれるのであれば、別に構いやしない。
――って、なにモテキャラみたいなこと言ってんだ俺? キモッ!
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
俺は紫乃を乗せて、地獄峠のワインディングを楽しんだ。
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