「センパイ、困りましたね」


「いただきまーす」


高そう…!と内心焦っている私とは対照的に長瀬クンは慣れた手つきでマドレーヌを掴み、包装を解く。一個、また一個とまるで駄菓子を食べている感覚で食べていく。


そんな長瀬クンを横目に私は恐る恐るひとついただく事にした。


「い、いただきます…!」


「どうぞ」


包装を丁寧に解き、ひとつマドレーヌを口に入れる。と同時にバターの程よい香りが鼻を通る。それからほんのりとした甘さ。少し苦めの紅茶と合わせたい。


なんという美味しさなのだろうか。


「センパイッ、これ美味しいですね!」


バッ、と顔を上げてキラキラと目を輝かせながらそう言うとセンパイは嬉しそうに微笑んだ。


「優良さんと食べくて買ってきたので。気に入ってもらえて良かったです」


「そうだったんですね! わざわざありがとうございます!」


ニコニコと頬が緩んでしまう。それはそうだろう。だってセンパイが! 私のために! 買ってきてくれたのだから。私のために動いてくれた。これ以上に嬉しい事があるだろうか。


そんな私の気持ちも他所に長瀬クンはパクパクとマドレーヌを食べていく。もう既に4つ食べ終わっており、5つ目に手を伸ばしていた。


さすがに私のために買ってきてくれたとはいえ、何も言えずにもう1つに手を伸ばしているとセンパイが口を開いた。


「優二のためにクッキーがありますが食べますか?」


「え、いいの?!」


「ええ。優二が好きなクッキーですよ」


「兄ちゃんありがとう。いつものところ?」


「はい」


センパイがそう言うと長瀬クンは分かりやすく浮き足立ってキッチンへと向かっていった。長瀬クンの姿がすっかりとキッチンへ消えてからセンパイが申し訳なさそうにこちらを見てきた。


「すみません、優良さん。優良さんのために買ってきたマドレーヌでしたのに」


「いえ! 確かに食べ過ぎとは思っていましたけど…」


と、そこまでいってハッ! とつい本音を言ってしまったと後悔する。そんな私の発言にセンパイは困ったように眉をひそめた。


「優良さんと優二が仲良くなってくれると一番嬉しいんですがね」


「それは長瀬クン次第ですね…」


そう言いながらしっとりとしているマドレーヌをモグモグといただく。


「ですよね。優二の性格にも困ったものです…」


さすがにセンパイも困っていたのか。やはり長瀬クンのセンパイの事が大好きな性格には難あり、といったところだろう。


それほどまでにセンパイが優しい、というのもあると思うが。


「兄ちゃん、こんなに買ってきてくれたのかよ。本当にありがとう!」


センパイと話す時の長瀬クンはこんなにも光属性だというのに…。


じっ、と暖かい目で長瀬クンを見つめていると長瀬クンは怪訝な顔をしてクッキーを懐に隠した。


「お前にはやらないからな!」


「うん」


ある意味可愛く見えてきたかもしれない…。



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