「センパイ、助けてください」
「……でも…」
でも真斗なら有り得てしまうのが怖い。真斗はその気がなくても相手の女の人が真斗にゾッコン、とか…。それで女の人の彼氏がブチ切れて真斗を刺し殺して…。
「やべぇな…」
さっきの男の人もやばいがそんな事を考えてしまう私も大概やばいと思う。
まぁ…真斗は情緒不安定だけど物事はハッキリ言うし(時々ハッキリ過ぎて困る時があるけど)、変な勘違いはさせない、ハズ。
「店長〜。どうでした…?」
「なんだったんですかね…。警察を話題に出したらすぐに切られましたけど…」
「男女関係ですかね…?」
「分かりませんが、ひとまず音無くんに報告ですね」
店長はそう言いながらポチポチと携帯をいじる。恐らく真斗に連絡をしているのだろう。真斗も災難だな、なんて思いながら私はその日のバイトを終えた。
センパイと電話しながら帰ろうかな、なんて思いながら私はバイト先を出る。夜22時を回ってしまって少し家が遠かったら親に迎えに来てもらう時間。
「寒〜〜」
はぁ、と手に温かい息をかける。それでも温かくならなくて私は手を擦る。それからバッグに入っている携帯を取り出す。
そろそろ手袋とか必要かな…。
「おい!」
あー、センパイとお揃いとかいいかも…。
「おい、お前!」
マフラーとかも欲しいよなぁ…。
「聞いてんのか!」
不意にグイッ、と腕を引かれる。その拍子に持っていた携帯を落としてしまう。え? 何? 私に話してたの? と驚いて腕を引っ張られた方を見てみると40代くらいの男性が私の腕を掴んでいた。
え? なになになに?! 何があった?! 迷子?! こんな街中で?!
「あ…、あの……」
「おい! お前、ここの店員か?!」
凄い圧力でそう聞かれる。あまりの迫力に私は思わず「いや…っ」と答えてしまった。
すると男性は大きく舌打ちをして私の手を離し、その場を去った。
……なんだったのだろうか。迷子…、にしては迷いなく私から去っていった。一体なんだったんだろう…?
ボーッと男性が去っていった方向を見ながら私はハッ、と我に返る。
「………あっ、そうだ…。センパイに電話…」
地面に落ちてしまった携帯を座り込んで拾い、画面が割れていないかを確認する。幸いにも画面は割れていなく綺麗なままだった。
そのまま私はセンパイに連絡しようと指を画面の前に持っていき、気づいた。
手が震えていた。
知らない男性に腕を掴まれるなんて初めての事だし、どうしたらいいか分からない。
もし私が正直に答えていたら? どうなっていたのだろうか。
そんな事を考えると今更ながら恐怖が押し寄せてきた。そんな恐怖を振り払うように私は首を横に振ってセンパイに電話をかけた。
数コール後にセンパイが電話に出る。
『もしもし、お疲れ様です』
センパイの優しい声。聞いているとどことなく安心してしまうその声に私は安心させられた。
「センパイ! 聞いてくださいよ〜、さっき…」といつもの調子で言いたいのに声が出ない。呼吸だけが荒くなり、電話の向こうのセンパイも『優良さん?』と心配そうだ。
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