第17話 ハゲの女神(笑)は聖女(軟禁)となる⑥

〝話を戻すけど、こっちに戻って蓋を開けて見ればあなたハゲの女神だとかミルネスト教の神の力の一旦だとかわけのわからないものに既に祭り上げられてるって事が分かって、余計に渡せなくなっているってわけ〟


 ……みり? え、何? 侯爵じゃなくて、教? 宗教?


〝ここに軟禁状態なのは静養の意味もあるけど、王都側の人間に接触させないように守っている意味の方が強いわ。あとリーンがボロっと腕を治した事を話さないかっていう監視の意味もあったかしら。人間性を見てるって事でしょうね。

 ちなみに、あちら側の使者には貴女のお母様が危篤だったから知り合いのグレイグ先輩が急いで連れて帰ったって事になってるから。

 向こうにバレた理由がグレイグ先輩があなたを担いでいる姿を目撃されてたっていう事だからもうそれぐらいしかなくて……

 あ、心配しないで。ご両親は辺境伯領内に保護済みでお元気だし、領地の方にはこちらから代理のものを送っているから〟


 なんだか理解出来ない単語があった。そして大事になってる。しかもハゲの女神が友人にバレている。女神とか言われてた事実がバレてるって……恥ずかしい。


 いやいや、黒歴史的扱いをしている場合ではないな。


 現状、ほぼほぼ私は宰相の手先と思われてはいないという事で、こちらの勢力からは宰相側の勢力拡大に繋がらないよう私を押さえておく腹積もりだという認識で間違いないだろう。

 あとは、私の扱いをどうするのかというところか……


 しかしまさかうちみたいな貧乏男爵家がこんな大事に参入するとかなかなか頭が追いつかないものだ。追いつかないが、既にうちの両親回収済みで領地運営の代理まで送り込まれているという事は長期的に考えられているという事で……やはり何らかの働きは期待されるのだろうなぁ……


 あぁ母が何て言ってるか……


 実は内務省に行きたいと言った時、母に反対されたのだ。今は危険だから行くなと。だが父が行かせてやりなさいと言ってくれたから行けたのだ。

 でもそれは、母には政治情勢がわかっていたという事なのだろう。父はボンヤリタイプの人だからわかってなかったと見た。


 しかし母も娘がハゲの女神なんてものにされるとは思って無かったと思うけど……


 内心凹みつつ、二人の話に合わせるようにはははと乾いた笑みを浮かべる。


 ちなみに図書に忍び込んでいた言い訳をさせてもらえるなら、たったの二年間しか在学出来ないのだ。そりゃ寝る間を惜しんで衛生環境改善策を探るしかないじゃないか。


 レティーナに肩を竦められた。


 相変わらずそればっかりですね。って事かな。——はい、丸ですね。


「他にも、結構な事をしていたのも覚えていますよ」


 結構な事?


〝あ、本気で首傾げてるわね〟


「あの酷い匂いの環境を少しだけましにしてくれたでしょう?」


 ……あ、トイレの事?


「いえ、あれは農村部ならどこでもちゃんと決まった場所にするものでしょう? 都会だからといってそれをしてはいけないという理由にはなりませんし、その方が快適なのですからやって損はないじゃないですか」


 トイレの場所を決めて、そこに魔法を使って土を盛って個室を作り、固めた地面に穴を開けて下に落とせるようにしたのだ。穴を作っただけだと一杯になってしまうので、ちょっと土魔法系統に分類されるであろう魔法を作って分解と発酵を行い、近郊の農民に回収してもらう手筈も整えた。その魔法も次代の生徒に伝えておいたし、今もしっかり機能しているだろう。

 というか、農村部出身者はすぐに馴染んでいたじゃないか。都市部出身者には変な目で見られたけど。言うほど変な事はしてないと思うのだが。


「そうですけれど、都市部にそれを導入するというのがなかなか考えられなかったのですよ。都市部とはこういうものという認識でいましたから、農村部のやり方を取り入れても良いのだという意識にならないものなのです」


 レティーナの言葉に、そうだろうかと首を傾げる。


「実際この辺境伯領でもそのやり方を導入して馴染むまで一年ほどかかりました。今まで適当だった分、どうしてそのやり方をしなければならないのか理解してもらうのに時間が掛かったのです」

「え、ここのやり方ってあれを導入した結果なのですか?」


 素で聞けば、レティーナ頷いた。


「私、辺境伯様の縁戚にあたりますでしょう? 学園で画期的な事が起きていると父に知らせたら詳しく教えるようにと言われて伝えておりましたの。

 水で流して一か所に集めるというやり方も教えてくださったでしょう? さすがにその技術はまだ一部でしか導入出来ておりませんけれどね」


 ……そうだったのか。レティーナって辺境伯様の親戚筋だったんだ。


「言っておきますけれど、レティーナが辺境伯様の姪っていうのは有名な話よ。知らないのはリーンぐらいじゃないかしら? ちなみに私はそのレティーナの護衛として学園に入ったのですよ」


 ……護衛。本物の姫か。いや、確かに家柄とか気にしてなかったから。せいぜいわらわら取り巻きが多い人は避けとこうぐらいで。


〝姪って言っても名ばかりで、三姉妹のうち末のレティーナは大した加護も持たない出来損ないって言われてたのよ。それを貴女が変えたの。今のレティーナは辺境伯様の切り札の一つにまでなっているんだから。表立って言えないのが口惜しいけどね〟


 は、はぁ。そうなんだ……


〝ま。その反応を潜んでる奴らが見れば貴女が特に何も考えてないってのがわかるだろうから都合はいいわ〟


 ……スッパリ言ってくれるなぁ。


「ええと……私、かなり失礼をしていなかったかしら」

「いいえ。そんな事はありませんでしたよ」


 それならいいのだが……。やはり貴族社会というものは怖いな。どう人間関係が繋がっているのかさっぱりだ。


〝とにかく、状況が理解出来たなら面倒くさいとかなんとか言って逃げないように。ご家族もここに居るんだからまず逃げるのは無理よ。国外への道は辺境伯様の手の者で固められてるから。

 これから大変だと思うけど、私達は貴女の味方だからね〟


 あ、はい。ありがとう。


 クギ刺もされたが、さすがに家族まで回収されたの知ったら逃げませんよ。そもそもこの至れり尽くせりで臭くない環境にどっぷり嵌って逃げ出すとか考えもしてなかったというか。裏あってもいいかなー……と。

 なんか心配してもらってすいません。


 あ。レティーナに溜息つかれた。

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