続・滅亡したオーランド王国の国王と王女たちの物語 3 <完>
「オーホッホッホッ!ご覧なさい?お姉様方っ!」
前言撤回だ。
親不孝者のエミリーは完全に私の存在を無視し、ジョセフィーヌとエリザベスに手に入れた大金を見せびらかして高笑いしている。
そして、今私達がいるのはこの町一番の高級ホテル『クイーン』であった。
あの後、エミリーは馬鹿舌シェフに料理の味付けのいろはを教え、すっかりマッチョな馬鹿舌シェフの心を鷲掴みにしていたのだ。
「それでハンスったら、『どうかお願いだ。エミリー、君は俺の女神だ。俺には君の神の如き舌が必要なのだ。ずっと俺の側にいて料理のいろはを教えてくれ!』って言ってきたのよ?」
エミリーはうっとりした顔つきで円卓テーブルを囲んだ我等に語る。
「おい、エミリー。誰だ?ハンスという男は」
私はエミリーに尋ねるが、親不孝エミリーは私の質問に答えようともしない。それどころか視線すら合わせようとはしない。
おのれ、親不孝者エミリーめ。それが実父に対する態度なのかっ?!
「ねぇ?もしかしてハンスって…あのマッチョマンなシェフのこと?」
エリザベスが目の前に置かれたクッキーを口に放り込むと尋ねた。
「ええ。そうよ。彼ってねぇ…すっごく胸板が厚くてマッチョなの!素敵でしょう?ウフッ」
頬を染めてハンスとやらの男の胸板に頬を染めるエミリー。
くぅ〜っ!!
嫁入り前の娘が何と破廉恥な事を言うのだっ!もうこれ以上我慢 が出来ないっ!親不孝娘に一言…いや、二言言わなければっ!
「エミリーッ!」
しかし、私よりも先に口を開いたのは長女のジョセフィーヌのほうが早かった。
「何よ?お姉さま?」
すると、ジョセフィーヌは鼻息を荒くして一気にまくし立てた。
「エミリーッ!いい加減にしなさいっ!そのハンスという男は貴女を利用することしか考えていないのよっ!君は俺の女神だなんて抜かしているけど、その男の目的は貴女の神がかり的な舌が狙いなのよっ!貴女から料理のいろはを教わったら、あっさり捨ててレベッカに乗り換えるつもりなのよっ!」
「お姉さま?何を言ってるの?レベッカとハンスは会ったことも無いのに、何故そんな事を言うのよ?」
エミリーが目を見開く。
「そうよ。お姉さま。少し冷静になって頂戴?嫉妬に狂って少し頭がイカれてしまったのかしら?」
エリザベスも驚きの表情を浮かべてジョセフィーヌを見る。
「何を言ってるの?レベッカはこの港に立ち寄っているのよ?あの子のことだもの…絶対この港町で一番安いレストランに入ったに決まっているわ。それがあのレストランなのよっ!2人はあの場所で出会って…ハンスって男はあの子に一目惚れしているわ。そして一流のシェフになって…いつかレベッカの胃袋を掴んでやろうと目論んでいるに違いないのよっ!」
ジョセフィーヌの妄想癖には流石の私も驚き…納得した。
なるほど…シラフに見えたが、今ジョセフィーヌは泥酔状態なのだ。その証拠に目の前のテーブルには空になったアルコールの瓶が3本転がっているからだ。
しかし…恋は盲目。
相手にのめり込めばのめり込むほど相手の気持ちを疑ってしまう。
「そ、そんな…まさか…ハンスが…レベッカを…?
エミリーの顔が青ざめてきた。
「ちょっと、落ち着いて。エミリー?」
エリザベスはエミリーの肩にポンと手を置く。
「いい?エミリー。私達は立ち止まってはいられないのよ?何としてもレベッカを探し出すのが私達の使命なのよ!」
ジョセフィーヌの説得は続く。もはやエミリーの説得は娘に任せよう。
「わ、分かったわ…。この町に骨を埋めようと思っていたけど…」
エミリーの言葉に我が耳を疑う。
「何と!エミリーッ!お前という娘は…勝手にこの町に骨を埋めようと思っていたのか?許さんっ!断じて許さんぞっ!我等ヤング一家はレベッカを我が手に連れ戻すまでは一心同体で行動するのだっ!」
「ええ、そうよっ!何としてもレベッカを見つけ出して…監禁して二度と太陽が拝めないようにしてやるのよっ!」
目的は違えど、ジョセフィーヌが賛同する。
「わ、分かったわ…丁度ハンスから謝礼金もたっぷり貰えたし…大海原に旅立って…レベッカを探し出すわっ!」
こうして、この日一段と我等の絆?は深まった―。
待ってろよ!レベッカッ!明日は港で聞き込みだ。きっと何かしらレベッカに関する足がかりが掴めるに違いないっ!
父さんが必ずお前を見つけ出して、あの邪悪な一族から守ってやるからな―!
<完>
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