アマゾナの物語 3
翌朝―
朝8時、この時間は一番店が忙しい時間だ。何しろこの村に住む人々の数は増えたのに、食堂を経営するのは『アマゾナのお宿』だけなのだ。その為、店にやってくる客の数は半端ない。おまけに料理人はたったの2名、裏方が1名。そしてオーダーを取ったり、料理を注文したりするのはこの私だけなのだから毎日目も回る忙しさだ。
そんな時、その客たちは現れた。
カランカラン
「いらっしゃいませ~!」
新たな客がやってきた。彼等は空いてる壁際の席に座るとテーブルの上に置いておいたメニューに手を伸ばし、すぐに眺め始めた。良かった、勝手に席についてくれて。私は急いでコップに人数分の水をそそぎ、トレーに乗せて運ぶと言った。
「どうもお待たせ致しました」
コップをテーブルの上に置くと何処か野性的な男性が声を掛けてきた。
「失礼だが、ここの女将さんかね?」
「ええ。そうですが?」
「随分忙しそうじゃないか?」
「ええ、そうなんですよ。人手が足りなくて…」
「なら、我らが手伝ってやろうか?」
「え?」
慌てて私は客の顔をまじまじと見た。
「いえいえ、お客さんを働かせるわけには…」
しかし男性は言った。
「ふっ。我々を舐められては困る。何しろ我らはさすらいの仕事人だからな」
「は?」
すると男性の言葉に連れの若い3人の女性たちは頷く。そして何故か次々に自己紹介を始めた。
「私はジョセフィーヌ・ヤング。厨房の裏方仕事なら任せて頂戴」
「私の名前はエリザベス・ヤング。ホールのプロよ」
「初めまして、エミリー・ヤングよ。同じくホール担当ね」
「そして最後に私はこの娘たちの父、デニス・ヤング。厨房裏方の達人だ!見たところ圧倒的に人手が足りず、店が回っていない!ここは我らの出番だ!」
「え?え?」
いきなりの展開についていけない。しかし、人手が足りないのは確かなこと。けれども…
「おーいっ!アマゾナッ!いつまで注文待たせるんだよ!」
客の一人が大声で私を呼ぶ。
「あーっ!すまないねっ!今行くよ!」
声を張り上げて返事をすると、エリザベスと名乗った女性が立ち上がった。
「私の出番ね!」
そしてダッシュで客の元へ行く。そして何処から取り出したのか、メモ用紙にペンを取り出すと注文を取っているから驚きだ。
「よし、我らも持ち場へ付くぞっ!」
デニスと名乗った野性人が声をかけると、残りの2人の女性も立ち上がった。
「え?ちょ、ちょっと…!」
私の呼び声が聞こえないのか、デニスとジョセフィーヌと名乗った女性は厨房へ走り、エミリーと名乗った女性はポケットからエプロンを取り出し、身に着けるとすぐにメモ帳とペンを持って手を挙げている客の元へと駆けつける。
今来店したばかりの客がホールで注文を取っている異様な光景に思わず立ちすくんでしまった。
「一体これはどういう事なんだい…」
「おーいっ!アマゾナッ!注文取りに来てくれよ!」
常連のトニーが声を上げた。
「あぁ!はいはい!今行くよ!」
私は慌ててオーダーを取りに行った。いいや、今は何も考えずに働こう―。
****
午前10時―
ようやく客が引けて、余裕が出来た処で早速私は彼らをホールに呼び寄せた。
「取りあえず、手伝って貰えて助かった。感謝するよ」
そして頭を下げる。
「いやいや。困った時はお互い様と言うだろう?」
デニスは豪快に笑い、そして言った。
「実はな、一つ提案があるのだが…実は我らはある事情で旅を続けているのだ。だが路銀が尽きて先へ進めなくなってしまった。見た処、ここは宿屋の様だし人でも足りない。そこで我らからの提案なのだが、どうだろう?三食賄い、宿付きで少しの間我らを雇って貰えないだろうか?」
「う~ん…」
素性も知らない余所者をいきなり雇うのはどうかと思うが‥‥しかし、人手が足りないのは明らか。それに彼らは仕事が良く出来る。ならば答えは一つしかない。
「ああ、それじゃよろしく頼むよ!」
こうして私はヤング一家を雇ったのだが…この件が新たなトラブルを生む事になるのだった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます