レベッカ一行の世界漫遊の旅 3 (ノマード王国の旅 12 )

 砂金集めから5日後―


ついに私達は『ノマード王国』の城下町にたどり着いた。流石城下町というだけあって、道は全て石で舗装されているし、立ち並ぶ建物も石造りの立派な建物が並んでいる。


「やっと『ノマード王国』に辿り着いたな〜それにしても長い道のりだったよ」


木で出来た屋根付き馬車の御者台に座ったサミュエル王子が辺りをキョロキョロ見渡しながら言う。この一段とグレードアップした馬車は『デネス』で砂金を集めて調達した資金で買い替えたものだ。そして私達の身なりも一段とグレードアップした。以前乞食に間違われたサミュエル王子は、今はでは肩当ての着いたコートにロングブーツという、かなりレベルアップした服装をしている。そして私とミラージュも足首まであるロングワンピースにショートブーツという服装である。ちなみに私はピンク色のワンピース、ミラージュはクリーム色のワンピースにフリルエプロン姿である。

ここは城下町で貴族も多く住む町。このレベルの服装ならば、恐らくなめられる事も無いだろう。


町中はオレンジ色に照らされて、町を行き交う人々の姿もあまり見ない。


「サミュエル皇子。もうそろそろ夕方ですし、今日のところは占い師を尋ねるのはやめにして、何処か宿を探しませんか?」


荷馬車の中からニョキッと顔を出して御者台に座るサミュエル王子に話しかけた。


「うん、そうだね。レベッカ。もう夜だし、今夜は宿を探したほうが良さそうだね」


サミュエル皇子が笑顔で答える。すると同じくミラージュも荷馬車から顔を突き出すと言った。


「あら、サミュエル王子。まだ夕方ではありませんか。夜になるにはまだ先だと思いますけど?」


するとサミュエル皇子が言った。


「いや。君たちは気付いていないけれども、実はもう夜の8時なんだよ」


「「ええっ?!」」


私とミラージュが同時に声をあげる。


「ほ、本当なのですの?とても信じられませんわ!」


ミラージュの言葉にサミュエル皇子は懐中時計を取り出して私達に見せてくれた。


「ほら、どうだい?」


確かにサミュエル皇子の銀色に輝く懐中時計が8時15分を指していた。


「そ、そんな…まだ外はこんなに明るいのに…」


信じられない、どうしてこんな事になっているのだろう?するとサミュエル皇子が私達の疑問に答えるかのように言った。


「この国はね、西の大陸だから太陽が沈むのが最も遅いんだよ。その代り夜明けは遅くてね。朝の8時頃にならなければ太陽は昇ってこないのさ」


「おお~」


「流石ですわね」


私達はパチパチ手を叩きながらサミュエル皇子を褒めたたえた。


「いや~それほどでもないさ」


サミュエル皇子はまんざらでも無さげに頬を赤く染めながら照れている。


「なるほど、だからこんなに明るいのにあまり町中に人が出歩いていないのですね」


馬車の上から町並みを見つめていると、行き交う人々はまばらで大人しか姿が見えない。


「でも合点がいきましたわ。ディナーまでまだ間があると思っていたのにこんなにお腹が空いているのは本当はもう時刻は夜の8時をとっくに過ぎていたからなのですね?」


ミラージュの言葉に私も同感だ。そこでサミュエル皇子に言った。


「サミュエル皇子、早いところ食堂が付いている宿屋を探しませんか?私、お腹が空いて力が入らなくなってきました」


それを聞いたサミュエル皇子が笑った。


「ハハハハ。レベッカはまるで子供みたいだね。お腹が空いて力が入らなくなって来たなんて。よしきた、それじゃ何処か宿屋を探そう」


わたしは笑っているサミュエル皇子の後姿をじっと見た。


サミュエル皇子はまだ知らない。お腹が空きすぎると、私が一体どうなってしまうかを。


私はなるべく空腹だと言う事を考えないようにして、馬車の上から『ノマード王国』の町並みを眺めていた―。






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