第633話 全部俺の所為だった

「イルマは人間に殺され……シャークリュウも死んで、子供も行方不明、そしてヴェスパーダ魔王国は滅んだ……なんだか、もうそっからは色んなことがどーでもよくなっちまって……気づけば、あたいはもう国にもダーリンのとこにも戻らなくなっちまった」


 自分が子供を産めない体になってしまい、そして自分が憧れた女は、本人も家族も国もこの世から消えた。

 子供を産めない辛さってのは、男の俺には分からねえが、それでもこいつがその時にやさぐれちまったってのも……まあ、分からなくもなかった……


「でさ、そっからは魔族大陸だけじゃなく、亜人大陸とか神族大陸とか自由に回って、ツエーモンスターぶっとばしたり、そうやって憂さ晴らしながら何年か過ごしてたよ。途中でダーリンの記憶もなくなっちまうぐらい、好き放題にな。でも、そんなある日だったよ」


 その時、ヤシャは顔を俺に向けて笑った。


「太陽に映像を映すサークルミラーで、イルマの娘が登場してきて、その娘に人間がプロポーズして、アンデットのシャークリュウぶっとばして、んであのガキ……スゲー幸せそうに笑って…………それを見たときに思ったんだよ」


 それは、俺がウラと一緒に世界公認バカップルになった日……


「イルマが惚れた男と結ばれてこの世に遺したもんがちゃんと生きていて……あんな幸せそうになってるの見て……あたいは……あたいも遺したい……あたいも、あんな風に遺したいって思うようになった」


 ……直訳すると……



「つまりテメエは、あの時のアレを見て、ようやく自分も子供が欲しいって思うようになったと」


「おうよっ!」



 …………聞いといてよかったと思う反面……聞かなきゃよかったと思う俺も居た。

 だって……


「つまり全部……俺の所為ってことかよおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 畜生、そういうことになっちまう!

 ラクシャサは俺とウラを見て、自分も普通の女になりたいと思うようになったと言っていた。

 そして、ヤシャは俺とウラを見て、子供が欲しいと思うようなったと……そうなると、こうなった原因って全部俺に? なんつうメチャクチャな!


「わははのはっ! んで、あんたはイルマの娘との間に、もうガキは居るの? 子供は?」


 頭を抱えて項垂れる俺の肩をバンバンと叩きながら、ヤシャはまた豪快に笑った。


「ま、だだよ。ウラとはまだだ。……他の女との間には居るけど……」

「おお、そーいや、そうだったな、お前。んで、その子はどうだ? やっぱ可愛いか?」

「あ? まあ、そりゃたりめーだ。世界一可愛いよ」

「わははのは、そっかーッ!」


 ヤシャは俺のその言葉に目を輝かせて興味心身に食いついてきた。


「なあなあ、子供が生まれたときとか、抱っこした時とか、どうだった? イルマはスゲーニッコニコでよ~、お前もそうか?」

「まあな。俗に言う一目ぼれに近いな……子供が生まれた瞬間……当然俺はその子と会うのも触れるのも全部初めてなのに……俺はその子を見た瞬間……自分の命よりも大事だと思っちまった」

「おほっ! へえ~、そっか~」

「最近はワガママ言ったり、暴れまわったりと日々大変だけど……それでも……幸せ……だと思ってる」


 なんだろうな。そもそも、嫁たちとの喧嘩が原因で俺たちはこんなとこに来ちまったが、ラクシャサとかヤシャとかの話を聞いてると、普通に嫁たちと一緒に過ごして、子供も居て……それで何の不満があるってんだってなっちまう。

 そんなんで、生活が嫌になって家出をするなんて、俺もまだガキだな。


「ちゃんと、家に帰らねえとな。俺もお前も」


 帰ろう。いつまでもアホなことやってないで、家に。無性にそう思った。

 そしてだからこそ……


「協力してやるよ。ヤシャ。テメエのダーリンの親友としてな」

「リモコン……」

「だからこそ、約束しろ。ちゃんと願いが叶ったら……キシンの元へ帰れ。俺たちが作った国へな」


 俺は、ちゃんとケリをつけることにした。

 自分の立ち位置をハッキリとさせて、この場のケリをつけて、俺は家に帰る。

 その言葉を受けて、ヤシャはまた笑った。



「わははのはーっ! いいのか~、そんな理由で。もう愛想つかされてるかもしんねえ女が数年ぶりに帰ってきて子供欲しいとかって、ダーリン拒否するかもしれねーのに、それでもお前は協力するって?」


「ああ。それでいい。それが、まあ、ロックってやつなんじゃねえの? 女でオタオタするあいつも見てみてー気がするしな」


「ッ! おお、ロックンロールってやつか。なるほどな。流石は、ダーリンの親友ってやつだな」



 俺も笑った。腹を抱えて笑った。色んなことがスッキリしたからだ。知りたかったこと。迷っていた選択。それが全部クリアになって、ようやく俺がどうしたいのかが分かったからだ。

 ラクシャサもヤシャも何とかしよう。百合竜たちのことは、まあ、もうどうしてやろうかは考えてるしな。

 だからこそ、後は『こいつ』をどうするかだ!


「ッ!」


 その時、深海が大きく揺れた! 地震? いや、違う。

 っていうか……ッ!


「海が………割れた……」


 そうとしか言いようがなかった。だって、本当に割れたんだ。

 高さ何メートルどころではない。何キロもあると思われる海が真っ二つに割れ、その中央を戦艦が浮きながらこっちへゆっくりと近づいている。

 その戦艦を最初視界に入れた瞬間は遠目だったこともあるし、何よりも船の上に人が一人座っているのが見えたので、最初は小船ぐらいに見えた。

 だが、近づくにつれ、その船が巨大な戦艦であることが分かった。なら、何故小船と勘違いしたのか? それは単純に、船に座っていた人物が、とてつもなく巨大なだけの話。

 巨漢とかそんなレベルじゃない。十メートルを越える規格外の存在は、正に弩級。

 にしても、そうか……地球で神話になっていたモーセって、ひょっとしたら月光眼の使い手だったのかもな……


「わははのは。おいでなすったな。下がってな、リモコン。ここはあたいがやるんでな」

「残念ながら、そういうわけにはいかねーって、さっき言っただろ?」


 さて、こっちとも語るか……会話になればいいけどな……



「ほう、少々想定外な者たちが、我の前に現れたものだな……」



 圧倒的存在感! 圧倒的威圧感! 圧倒的巨躯! その全てが圧倒的。

 黒いタキシード姿に赤いマント。肌は不健康そうに青白い。

 長い金髪の髪を全て逆立たせて、そのツンツン頭が何メートルも伸びている。

 その存在は、俺とヤシャの姿を、満月のように輝く月光眼で睨んでくる。

 その力は、イーサムとだって肩を並べる、この世界でも最強の力を誇る存在。


「地獄の剣闘鬼ヤシャ……そして……なぜ貴公がここに居る? ヴェルト・ジーハよ」


 僅かな言葉だけで風圧を感じる。

 半年前はこいつも洗脳されていたりとかで、そこまで圧迫される感じでもなかった。

 大きさも、カラクリモンスターやゴッドジラアとかの所為で、遠近感が狂っていたのもあったが。

 だが、こうして目の前で立たれると、なんていうか……体の大きさ以上の大きさを感じる。

 全身から溢れる絶対王者みたいなオーラが。

 

「ああ、久しぶりだな。こっちはあんたの送り込んだジャレンガがいつも何かやらかすから、ハラハラしっぱなしだ」


 こんな奴と話し合いか……なんか普通に無理そうだけど……やるしかねえよな?

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