第620話 次世代の若武者たち
『呪い』……なんかめんどくさいな……
そんなふうに思っている俺たちだったが、そんな俺たちとは明らかに違う空気とテンションの中で、勇者たちと大怪獣の戦いは激化している。その争いの余波に波も船も大きく揺れて、俺たちは思わずバランスを崩す。
ドラゴンに乗った勇者たちが力を合わせてバケモノを退治する。何とも、子供向けのファンタジー物語っぽいなと思っていた。
「「「「「ジャギャアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
もはや、どの頭のドラゴンがメインなのかも分からぬほど、千の頭のドラゴンたちは狂ったように吠える。
だが、狂っていても、相手は巨大合体生物。吠えて暴れるだけで、世界の地形を変えちまうんじゃないかと思うほどの存在だ。
「グルルルルルルッ、ギャガアアアアアアアア!」
あのパーツの中に百合竜も混ざっているのだろうが、もはやどれがどれなのか分からない。
そんな中で、今、吠えている無数のドラゴンの頭たちは、目の前に現れたヴァンパイアドラゴンと勇者チームに本能で脅威と感じたのか、狂った状態のまま、迎撃のために攻撃を仕掛けた。
「ちょっ、あっちこっちでドラゴンが口を開いて……ブレスを放とうとしてやがるっ!」
「ロア王子、属性を解析してください!」
「えっと……あっちが炎、斜め下が雷、向こうの両隣が水泡、あっ珍しい! 向こうには重力球を放つドラゴン……ゴメン、数も属性もバラバラだから解析しきれないっ!」
「ふん、クソ役にたたねえ目だな」
ドラゴンたちが各々の首から、多種多様な属性を纏った咆哮を放つ。そこにあるのは、「目の前の敵をぶっ倒す」というたった一つの意思から放たれるドラゴンたちの攻撃。
だが、その「目の前の敵をぶっ倒す」という意志は……
「月光眼・月散ッ!」
その意志は、勇者とヴァンパイアドラゴンのチームも同じことだ。
「おおお、すげえ、これがフルパワーの月光眼ッ! ドラゴンのブレスを全て弾き飛ばした!」
「ふふふふふふふ、アハハハハハハハハハハ! 頭数だけ揃ってるだけで、勇者たちも全く役に立たないねえ! もうさ、ただの重量負担でしかないから、今すぐ僕の背中から飛び降りてくれない? 邪魔だからさ!」
数え切れないほど放たれたドラゴンたちの一斉ブレスを纏めて弾き飛ばすジャレンガ。その表情はどこまでも余裕に満ちている。
だが、相手もまた、多種多様なドラゴンたちの集合体。
当然、ジャレンガにも有効なドラゴンも……
「ピギャオオオオオアアアアアアッ!」
「ッ! シャイニングドラゴンッ? あんなものまで混じっていたの?」
世界が眩く輝く。さっき、ラクシャサが放った閃光の魔法と同じ目潰し! これは、ジャレンガの月光眼対策だ。あのドラゴン共、狂っていながらも、ちゃんと有効な対策を打ってきやがった。
「ガグッッ!」
「ガルラアアアアアアアアアッ!」
そして、月光眼が発動できず、ドラゴンたちの牙が一斉にジャレンガに向けて襲い掛かる。
あの数で一斉に噛まれたら、一たまりも無い。
だが……
「……クソ抉り取る…………エルファーシア流槍術・メイルストロムッ!」
「アークライン流剣術・グローリースラッシュ!」
螺旋状に一直線に突き進み、それどころかその螺旋の大渦に周囲のドラゴンの首まで引き寄せて、まとめて引きちぎる力任せの槍。
そして、とにかくなんか光った剣をスラッシュ上に放つといういかにもな剣技が、ジャレンガを噛み千切ろうとした数十のドラゴンの首を纏めて粉砕しやがった。
「意外とクソ役に立たねえな、その伝説の眼とやらは……」
「ご安心を、ジャレンガ王子。乗せて戴いた運賃分は、しっかりと僕たちも働きます」
目が見えなくても気配で敵の位置は分かるとばかりに飛び出した二人。
役立たず発言をしたジャレンガに、「どうだ?」とばかりの働きを見せる、ファルガとロア。そのドヤ顔に、なんかジャレンガも不愉快そうに額に血管を浮かべてる。……お~い……仲良くしろよ~……
「ッ~~~~~~ガギャアアアアアア!」
で、またイライラしたように一斉に叫ぶアナンタだが、今度は何を……って!
「ッ、なにこれ!」
「うおおお、か、風が!」
突風。いや、暴風? 荒れ狂ったような強い風が一帯を駆け抜けた。って、うおおい、船が引っくり返るぞッ!
「これは、風属性のブレス……いや、違うッ!」
「あのクソドラゴン……巨大な翼を羽ばたかせ、クソ不規則でクソ強烈な風を生み出しやがった!」
それは、ブレスじゃない。ただ、海の上でアナンタがその超巨大な両翼を羽ばたかせているだけ。
だが、それだけで人間にとっては大災厄に等しい効果がある。
大きく荒れ狂う海はあらゆるものを飲み込もうとし、吹き荒れる風はあらゆるものを吹き飛ばそうとする。
「や、やべえ、近づくどころか、俺たちまで!」
「なに、このウザったい風! 本当にムカつくなあッ!」
「でも、こんなの僕の瞳でも解析も何もあったものじゃ……くっ……」
そして、この単純すぎる攻撃だからこそ、ロアの瞳で解析しようとしても、解析したから何だって話になる。
ジャレンガの月光眼で一時的に弾こうとしても、休み無く次から次へと発生する風全てを永続的に弾くこともできねえ。
打つ手は……
「ふふ……ふふ、大丈夫です。風は幼い頃から僕の友達です」
だが、そんな中、ジャレンガの背にしがみ付いていたあいつが、ゆっくりと立ち上がり、荒れ狂う突風に耐えながら両手を広げて叫んだ。
「ロア王子は僕同様に風属性魔法を扱えますが、こうした魔法ではない、魔力も帯びない風には不慣れでしょう? でも、幼い頃から慣れ親しんできた僕なら…………」
それは、シャウトだ。
いつもはなよっちいあいつが、幼馴染の俺でも珍しいと思えるほど頼もしい顔つきで、この安定しない荒ぶる状況下でしっかりと立ち、オーケストラの指揮者のようにその両手を動かす。
「風の流れを把握するだけでなく、不規則に流れる風に手を加えてあげるだけでその流れを誘導してあげ、そして僕の魔力で包み込むことでむしろ味方にする……」
突如、風の猛威が収まった。
荒れ狂っていた海も次第に揺れが小さくなっていく。
アナンタは相変わらず両翼を強くバタつかせているのだが、そこから発生されるはずの風が全て誘導され、引き寄せられ、それはシャウトの頭上に巨大な球体となって凝縮していく。
「ふふ、流石はシャウト。風に対する理解は、僕よりも深い」
「クソぶっとばせ」
「へ~、やるじゃん」
アナンタが発生させていた巨大な猛威を全て巨大な球体に凝縮したシャウト。その爽やかな笑みとは似つかわしくないほど凶暴な威力を纏った球体を、シャウトはアナンタ目掛けて容赦なくたたきつけた。
「風閃ッ!」
それは、風というよりも、もはや爆発のように見えた。
ただし、爆弾のような爆発ではなく、風船の破裂音のような爆発。
シャウトの意思で凝縮して乱回転させた風の球体は、一瞬で巨大なアナンタ激しく歪ませて、上下左右に高速で弾かれていく。
「よし、トドメは任せたよ! いつものように!」
「馬鹿、こういう状況なんだから、いつも以上だぜ!」
アナンタに会心の攻撃を喰らわせたシャウトは、そのままウインクをして一歩横にずれる。
すると、「待っていた」とばかりにあいつが不適な笑みを浮かべて、天に向かって手をかざしていた。
バーツだ。シャウトとは違ってガキの頃から好戦的なあいつがこのギリギリまで我慢していたのは、ただ、溜めていたからだ。
全てを燃やし尽くす、熱せられた炎を。
その炎は、自然界で見られるような赤い炎じゃない。
前世の世界で何度か見たことある、ガスバーナーやコンロなどで見られた、青い炎。
「おや……バーツも腕を上げたね。そして、深いね……」
「えっ? なんで? 炎がなんで青いの? ねえ、どういうこと? 何か違うの?」
「大ありですよ、ジャレンガ王子。赤い炎は青い炎に比べて酸素が不足しているため、完全燃焼していないんです。しかし、今のバーツの青い炎は完全燃焼した炎です。当然、完全燃焼しているのですから、その熱量は違いますよ」
ロアが感心したように解説する、バーツが頭上に作り出した青い炎の球体。それは、青い太陽。
「いくぜ! これが俺の新必殺技! ブルースフィアだッ!」
と、まあ、バーツが中二病的な魔法を放ったするなど、向こうは向こうで集ったメンツに相応しい伝説の戦いを繰り広げている。
そんな中、本来あの戦いを眼に焼き付けて後世に伝えるとか、応援するとか、色々と俺たちにも役目はあるのだろうが、正直、今の俺たちの意識は、そっちよりこっち。今、俺たちの目の前のことでおっぱ……いっぱいだった……
「とりあえず、こっちもこっちで早くなんとかするぞ!」
目の前で立ち尽くすラクシャサは、ロアたちがあれだけの戦いをしているのに無反応のままだった。
どうやら、本当に感覚全てを遮断していて、状況が何も分かっていないんだろう。
にしても、『呪い』か。
これまで、バチあたりなことは数多くしてきたが、呪いなんてものを気にしたことなんてなかった。
ファンタジー世界に転生して、魔法とか、人智を超える力の存在を目の当たりにしてきても、これまで呪いなんてものをお目にかかったことはねえ。
「おい、急いでローブを被せろ!」
だが、何か起こってからじゃ遅い。何かまずいことが起こる前に、剥ぎ取ったローブを被せようと……
「はあはあはあはあはあはあはあはあ……もう……我慢できないんだなーっ!」
何か起こる前にまずいことが起きちゃったよ。
興奮で鼻息荒くしたキモーメンが、目の前で無防備な状態で晒された超乳に我慢できず、その谷間に喰らいつくかのように飛びついたその時だった。
「………………………………」
無言で立ち尽くすラクシャサの体から、黒い靄のようなものが発生し、その靄が飛び掛ってきたキモーメンに触れた。
すると……
「って、ほんぎゃああああああ! い、痛い! いたいんだなあああ! や、い、ママアアアアッ!」
キモーメンがラクシャサに飛びつこうとした瞬間、その両手が超乳に触れたかどうか定かではないところで、キモーメンが奇声上げて甲板の上を転がりまわった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます