第592話 奴が来た
「むひょー、ガゼルグ将軍って、パパと同じ聖騎士なんだな! そんな人が、まさか返り討ちにされたってことなんだな!」
「へえ……聖騎士を返り討ちにするほどの敵ね~……ん~、微妙過ぎて僕にはイマイチ、ピンとこないや。聖騎士なんて所詮、カイレぐらいでしょ? まだ、まともに戦えるのって」
ああ、そういやキモーメンは聖騎士の息子で……んで、ジャレンガ、お前もひどいな……まあ、その意見には俺も同感だが。だって、結局、あのガゼルグってのがどれだけ強いのか、イマイチ分からない状態のままだからな。
「馬鹿な、ガゼルグ将軍率いる軍が全滅……ッ、急いで救護にあたりましょう。皆さんも手伝ってください!」
っと、ボーっとしている場合じゃねえな。ロアの言うとおり、怪我人とかどれだけ居るかもわからねえが、さっさとしないと、手遅れの奴もいるかもしれねえからな。
「面倒だ。俺がやる。その代わり、全裸のあの聖騎士はお前らで助けろ。縛られてるし」
「ヴェルトくん?」
みんなで船に登って、人を運んだり降ろしたりの繰り返しは面倒だし時間がかかる。
だから、ここは一気にやる。
俺の空間把握能力。空気の流れから、あの巨大船にどれだけの人間が乗っているかを把握し、そして一気に浮かせる!
「ふわふわレスキュー」
「「「「「オオオオオオオオオっ! う、浮いたッ!」」」」」
甲板、船内、あの船に乗っている全ての人間を掴んで引っ張り上げる。
「おい、テキトーに広場に下ろすから、それぞれテキトーに介抱しろ」
結構多いから、かなり力を使うな。まあ、どれだけ魔法を使っても、俺の魔力は無尽蔵だから関係ないんだけどな。
「全く、メチャクチャだね、ヴェルトくんは」
「本当に」
「ああ、あいつは強くなり方が予想外すぎるぜ」
「ふん。やるじゃねえか、愚弟」
「ふ~ん、相変わらず便利だね? 僕の月光眼でもあそこまで応用して使えないからね」
「すっごいんだな~、ヴェルトくん! 僕があんな力使えたら、絶対にスカートめくりとか毎日するんだな!」
久々に大規模に力使ったから、仲間たちもみんな呆れたような顔して苦笑してる。
つうか、キモーメン、何が毎日スカートめくりだ! 俺はそんなことにこの力は……数えるほどしか使ってねえし……
「おい、医者を早くよべ! 回復魔法できる奴がいたら来てくれ!」
「とりあえず、水とシーツをありったけかき集めろ!」
「了解した! シーツとベッドならこの街には腐るほどあるんだから、任せろ!」
さてと。とりあえず、その他大勢の騎士団の騎士たちの介抱は街の連中に任せておけばいいだろう。
問題は……
「ガゼルグ将軍! 目を開けてください、ガゼルグ将軍! どうか、しっかりしてください!」
ロアたちが必死にガゼルグに叫ぶ。
くくりつけられていた船首から降ろし、体をシーツで覆っているものの、すぐに痛々しい傷跡から血が滲み出している。そして顔も、必要以上に殴られまくったかのように腫れあがっている。
息はしているし、多分、死んじゃいないだろう。
だが、かなり派手にやられたのは間違い無さそうだ。
「うぐっ……がっ……ロ……ロ……ア?」
「ッ! ガゼルグ将軍!」
おっ、意識が戻ったか? と言っても、掠れ声で、膨れ上がった瞼で目も開けられない状態だ。
寝かせて置いた方がいいな。
ただし、それは勿論最低限の役目を果たしてからだ。
「教えてください、ガゼルグ将軍。一体、何があったんですか? あなたほどのお方が、一体どれほどの敵と戦ったのですか?」
そう、せめて何があったのかだけを報告すること。
「す、すま、ぬ………奴らが……これ、ほど……」
「はい。一体、何があったのですか?」
それを分かっているからこそ、ロアは傷ついたガゼルグに必死に問いかけていた。
すると……
「ロ……ア……気を、つ、けろ……り、リリィ……同盟に……は……」
「はい。リリイ同盟は?」
「やつ、らがっ! ゆり……りゅう……がっ……」
その瞬間、ガゼルグは再び気を失った。死んじゃいないようだが、大分弱ってるようだ。
こいつが強い弱いは別にして、これほど頑丈そうな奴が、ここまでボロボロになるとはな。
にしても、気を失う前に、こいつは何を言いかけたんだ?
ユリリュウ? ……なんだったんだ? 一体……ん?
「……百合竜……ですって?」
ロアが驚愕の表情で……いや、ロアだけじゃねえ。
「ほ、本当ですか?」
「ま、マジかよ」
「……一体……クソどういうことだ?」
「……へえ……これはまた、意外な名前が出てきたね?」
「むほーっ! ぼ、僕も聞いたことあるんだな!」
おいおい、全員知ってるのかよ? なんなんだよ、それは。
いや、俺もどこかで……ユリリュウ……どこかで……
「ロア?」
「……ヴェルトくん。君は、エロスヴィッチと仲が良いのに知らないのですか?」
「仲良くねーよ! つうか、何でエロスヴィッチが……」
「……百合竜……旧四獅天亜人・淫獣女帝エロスヴィッチの率いる軍の主力にして、エロスヴィッチの右腕と左腕とまで言われた竜人族です」
ああ、そういえば、名前だけはチラッと聞いたことが……
「でも、半年前の神族大陸の争い。ラブ・アンド・ピースの罠にハマって、エロスヴィッチ軍は崩壊。その際に、百合竜は行方不明になり、もはや戦死されたのだと誰もが思っていたのですが……」
「おいおい、なにか? じゃあ、そいつが生きていて、海賊になったとでも言うのか?」
「それはなんとも……ですが……今回の出来事、ちょっとただ事ではなさそうですね」
まあ、既にただ事じゃにないってことは間違いないけどな。
にしても、エロスヴィッチの関係者か……まともな奴であることを期待するのは無駄なことかな?
この海の向こうで一体何があったんだ? どうやら、クラスメートに会いに来たってのに、その前にまたメンドクサイことになりそうだな。
「おおおおおおおおおおおお! どうなってんだこりゃああああああああ!」
そして、その時だった。
広場に集まっていた俺たちの背後。港町の入り口から、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「俺っちのエロアルカディアが! エロユートピアがっ! エロテーマパークが! エロエデンが! エロドリームランドが! エロワンダーランドが! えっろいことになってんじゃないかあああああああいっ! いチン大事じゃないかああああ!」
そこには、肌の上に直接、真っ白い毛皮のコートを羽織り、その首からは装飾された十字架のアクセサリーをぶら下げた、ボーズ頭の中年の男が立っていた。
たたずまいも、体つきから見ても、明らかに普通の人間。
なのに、その男が現れた瞬間、街に居た男たちは涙を流し、キモーメンは純粋?な子供のように目をキラキラさせていた。
「誰の仕業か知らんが、平和なエロスをよくも滅茶苦茶に! 俺っち許さん! この怒り、これぞまさに、怒チン天を突くッ!」
そして何でだろう。
ファルガやロアたちはスゲー呆れたような顔をしているのに、俺はこのくだらねえことを言う変な男を、どこか懐かしいと思った。
そうだ! こいつ、最終決戦の時、バスティスタの過去の記憶で出てきた……? いや、それだけじゃねえ。
もう懐かしいを通り越して――――――え?
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