第575話 朝イチャ
エロスヴィッチのドーピング。
アルーシャが持参してきた、精力増強剤。
それが交わった時に何が起こったかなんて……言えるはずがねえ。
「もう……朝か……体、ダル……」
半年前にも思ったが、こういう時は本当に世界が黄色く見える。
最初は俺も役得みたいなところもあったが、限度ってものがある。
色々と出し尽くした感のあるダルい体をベッドから起こしたくない。
そんな気持ちになっていると、傍らから声をかけられた。
「ふふ、まだちょっと早いわよ。ヴェルトくん」
「あっ……」
「おはよう。ん」
「ッ!」
流れるように唇を軽く塞がれた。
目覚めた俺に微笑んでいるのは、アルーシャ。ちなみに、服は着てない……としか言えない。
「んちゅっ♥ ん~~~~♥」
「……っ」
いや、朝から舌を捻じ込んでくるなよ……色々と気にならないのか? いや、こいつは気にしないどころか……さわさわ触ってきやがる……
「ぷはっ……男の人は朝から臨戦態勢って聞いたことあるわ。だからこそ、乙女がエッチな御奉仕するとかなんとか……」
「いや……おま、もう俺は……何も出ないんだが……」
「あら、残念♪ 私はいつでもいくらでもOKなのにね」
と、冗談交じりでウインクしてくるけど……ガチでOKなんだろうな……
「つか……お前も目ぇ覚めたのか?」
「ええ。少し早くね。ちょっと君の寝顔を眺めていたわ」
「っ、つう……はずかしーことを……」
「いいえ、とても幸せだったわ」
恥ずかしくなって起きようとしたら、足元やら反対側から身じろぎや吐息が聞こえてきた。
「あっ、こいつらは爆睡中か……」
「ほんと、無防備ね。これがみんなお姫様なんだから、不思議ね……」
とても満ち足りた表情で未だに夢の中に居る、フォルナとウラ。
うずくまったように体を丸めて寝るクレオ。その表情は分からない。
ちなみに、三人とも服は着てない。
「ふふふ。流石にフォルナとウラ姫は満足そうだけど、クレオ姫は色々とキツかったようね。あれだけ余裕な態度を取っていたのに、途中から泣いちゃうんだから」
「……言うな……」
「まあ、私も半年振りだったからどうかとも思ったけど、幸せが勝ったというところかしら?」
まあ、昨晩何があったかというと、うん、まあ、そういうことだ。
こうして冷静になると、俺も満足感というよりも、むしろ恥ずかしさのほうが勝る。
そんな風に思っていると、アルーシャがまたクスクス笑い出した。
「なんだか不思議ね」
「何が?」
「君とこうしていることが。結ばれて、夫婦になって、一緒に寝て、君の寝顔を隣で見て、目が覚めればキスをする……夢のようよ」
「そ、そうか……」
「あとは、タップリ注ぎ込んでくれた種が花咲いて新たな命がこのお腹に芽生えれば、もう幸せすぎてどうにかなってしまいそうよ♪」
「……そ、それは時の運というか……」
「……ねえ、本当にまだ回復していないの? その……イロイロ手伝うけど……シない? というか……私……シタくなっちゃったというか……ムラムラしてきたわ♥」
「やめい! お前、四人相手でしかも複数回で死にかけたぞ、俺は!」
「むぅ~……じゃあ、もっとキスしていい?」
「……余計に収まらなくなるだろうが」
「ちゅっ♥ ん、ちゅ、ちゅぶちゅ」
「………っ」
「ふふふ、んふふふ~」
「……なんだよ……」
「ふふ、好きすぎて幸せよ……私、これから毎日君とキスするし、こういうことするから♪」
「……そ……そうか……それより、あんま……キス以上のことは……変なことになる」
「変なことになって欲しいのよ♥」
「み、みんな起きるぞ……」
「そう、起きたら皆が君を求めて大変になるわ。そうなりたくなければ……起こさないように静かに……ね♪」
夢かどうかは別にして、まあ、確かにこいつとこういう関係になるというのは、昔は考えていなかった。
結局、皆が寝ている間に絞り取られた。いや、絞り出させられた。
朝から肌もツルツルテカテカのアルーシャ。こうして俺の目の前で脱ぎ散らかした下着を堂々と穿きなおしたり、着けたり……なんか、普通にこっちが恥ずかしい!
「さて、どうかしら、ヴェルトくん。まだお店の時間でも無いでしょう? ちょっと、朝の散歩でもしない?」
「え、えええ~~~、なんか、めんどくさ……もう一回寝たい……」
「あらあら、もう一回寝たいだなんて、それは私に襲ってくださいと言っているようなものよ?」
「ったく……わーったよ、なんかもう目が覚めちまったし。つーか、お前、たった今ヤッたばかりで……」
「は? まだまだ全然イケるけど……もう一回してくれるの?」
「散歩に行きましょう」
なんだろう。昨日の俺の恥を晒したことから、どうもこいつの態度に余裕があるように見える。
半年前までは、かなり目が血走ってたし、色仕掛けしてきたり、襲ってきたり、持っていた避妊具の先端に穴が開いていたときはビビッたしな。
でも、それも昨日の一件で、変わっちまったのかな?
そんなことを考えながら、俺も脱ぎ散らかした服を着なおして、寝ているフォルナたちを起こさないように部屋から出た。
「ふふ、こんな朝早くに街を歩くなんて新鮮ね。まだ、牛乳屋さんも新聞屋さんも働いてないわね」
「だろーな。いつも一番早く起きる先生より早く起きちまったぐらいだからな」
まだ、明け方に近いぐらい、外は微妙に暗い。普通に夜かと勘違いしそうだ。
広大な王都の街には当然、誰一人歩いてないし、店だって開いていない。
こんな時間帯に出歩くのは、俺自身も初めてで、これはこれで新鮮に感じた。
「ふふ、本当にのどかで平和ね。私自身、朝早くに起きるなんて、戦争の奇襲に備えたり、作戦とかそういう時ばかりだったからね」
「まあ、平和になったぶん、色々と変わっちまったこともあるけどな」
二人しか居ない王都を歩きながら会話を重ねる俺達。
あっ、なんか気づいたら、アルーシャが俺の腕に絡み付いてる……ま……いいけど……夫婦なわけだし……
「お前は引き継ぎなり雑務なりあったみてーだけど、どういうことしてたんだ?」
「どうもなにも、普通に後処理ばかりよ。人類大連合軍も凍結になったし、私も退役して、君の作る国の王妃になるための調整よ。イエローイエーガーズは、十勇者のドレミファに引き継ぎ、軍備縮小によって職を失う人たちの就職先の斡旋、法の改正や、魔族大陸と亜人大陸との国際条約を―――」
「すまん、もうそれ以上聞いてもよく分かんねーから、いいや」
「いいやじゃないでしょう。君が支配した世界よ?」
つっても、細かい仕事みたいなのは全部丸無げだからな。キシンとかラブとかカー君に……って、今更だけど、ラブとキシンに任せて大丈夫か? まあ、カー君が居るからそういうのはキチッとしてくれそうだけど。
「そして、君に関してはフォルナ、ウラ姫、エルジェラ皇女と楽しくよろしくしていたみたいだけどね? 特にエルジェラ皇女とは、家でも外でも、いつでもどこでもだったようね?」
「だ、だけど、ここ数週間はエルジェラとは会えてねーし!」
「あら、半年も会えなかった嫁を前にして、ここ数週間だけと言うのかしら?」
「うっ……いや、それは……」
「そして、半年振りに再会したと思ったら、君は忠義を尽くす侍を手篭めにしたうえに、お嫁さんが一人増えているというとんでもない事態。あらあら、さすがね♪」
「だーもう、悪かったよ。悪かった。なんか俺も感覚がぶっ壊れて、自分でも訳分かんなくなってるからよ」
言い訳も、強く言い返すことも、このことに関しては出来ない以上、俺はこうやって狼狽して謝るぐらいしか出来なかった。
昨日のこと、そして今回のこと、しばらくはそのネタでネチネチと言われて逆らえねーんだと思うと、やっぱ憂鬱な気分になる。
世界を支配したのに家庭の天下は取れない。クレオの嫌味は的を得ていたな。
だがしかし、ネチネチ言われるのは仕方ないとして、正直意外でもあった。
「お前らさ、クレオのこと、よかったのか?」
そう、クレオのことだ。
ぶっちゃけ、もうちょいネチネチではなく、ガミガミ言われてボコボコにされることも覚悟していた。
だが、結局は昨日の夜だって……まあ……なあ……
すると、アルーシャは少しムッとした顔になった。
「いいわけないでしょう。今すぐにでも追い返したいぐらいよ。でも……全部君が悪いわけだし……」
「いや、しかしあれはクレオが勝手に勘違いして……」
「まあ、そうなのだけれど、正直、私たちからすれば、クレオ姫云々よりも……過去に君がフラッシュバックして、美奈のことを無意識に叫んでいた方が、嫉妬するわ」
フラッシュバック。十年前の、クレオが誘拐されたときの話だ。
実は、あのあと、クレオが「自分が十年前にもプロポーズされた証拠」とか言って、暁光眼の力で、十年前の記憶を皆に流した。
そして、俺の前世的な事情を知らないクレオの勘違いをフォルナやアルーシャは気づいた。
そしたら、なんかクレオのことをそれ以上は言わなくなった。というか、むしろ同情的になった。
クレオを哀れに思ったんだろうな……
「前世か……」
「ん?」
「それで? 君たちは、向こうの世界で誰と再会したの?」
急にマジメな顔をしたかと思えば、そのことか。
ひょっとして、フォルナたちの傍でその会話をするのもどうかと、気を使って散歩に誘ったのか?
つーか、そういうことは、昨日ヤル前に聞けよ。
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