第560話 破談にできない
さて、この際、クレオが俺を恨んでいるとか、許すとか許さないとか、もはやどうでもいい話である。
「覚悟なさい。一生付きまとってあげるから」
俺がすべきは、クレオをどうにかする前に、まずやるべきことがある。
「ニート! ペット!」
この場において、ムサシはダメだ。ムサシは逆効果になる。
だからこそ、やはりニートとペットしか居ない。
「頼む。もしもの時の言い訳を一緒に考えてくれ」
一応、この世界でクレオはメロンという名前で、国の上層部の連中には評判が悪いようだ。
いっそのこと、俺たちが元の世界に帰る時に置き去りにするという手段が無くもないが、なんか雰囲気的にそれをやるのは無理っぽい。
ならば、元の世界に帰って、嫁たちにバレた時のための言い訳を……
「はっ? いや、無理に決まってるんで。あっ、ブラック、動画とタブレットの件、頼むんで」
「ヴェルトくんのバカ……私、もう知らないんだから……姫様たちと喧嘩しちゃえばいいんだ……バカ……」
おいこら、ニート。お前は何を「むしろバラす気満々なんで」的なイキイキとした様子なんだよ。
おいこら、ペット。そんなに拗ねるな……確かに、本当はお前をロマンチックに助けてやろうともしながらも、途中からすっかり蚊帳の外にしちまったが……
「お、お、お、奥方様がまた一人増えてしまったでござる~! せ、拙者、これからは七人の奥方様をお守りしなければならないでござるか? し、しかも、これでは……拙者が殿のご寵愛を戴く回数が……うう~、これは、フォルナ姫やアルーシャ姫に相談したほうが……いや、ウラ殿にでも……」
ムサシ、後で目いっぱい可愛がってやるから、お願いだから少し黙っててくれ。
お前のは、「相談」じゃない。「核のスイッチ」だ。
「そんな、代表! 我々はどうすれば! 代表は我々を見捨てるのですか?」
「あら、見捨てるわけ無いでしょ? むしろ私は次のステージに向かう気よ。とりあえず、私がヴェルト・ジーハの嫁となったのは形式上でのこと。私はこの男に取り付いて今の嫁たち以上にこの男と愛し合っ……こほん、復讐をしつつ、クラーセントレフンに我々の文化を普及するつもりよ? 『教祖クリア』の意志を継ぐつもりよ」
「ですが、そのために代表が男に穢され、男女の恋愛だなんて不自然なものの犠牲者になるなど耐えられません!」
「ありがとう。でも、あなたたちには教えていないけど、私は既にこの男に穢されているのよ。先ほども唇を汚されたことにより、私は全身の穴という穴をこの男に既に穢されている。穢れきった私は地獄へ堕ちると共に、新たなる代表は別の相応しいものに引き継ぐつもりよ」
そして、テメエは何をサラッと団体の説得と引継ぎをしようとしていやがる!
「おい、ブラック! アッシュ! こんなこと言ってるが、こいつら逮捕しなくていいのかよ?」
「う、う~ん、にゃっはそうなんだけど……正直、今、私たちに彼女たちを裁いたり捕らえたりする権限がにゃっはないし……」
「このBLなんたらの趣味は全部非合法なんだろうが! こいつら全員しょっぴいてやれよ!」
そう、もうこんな団体と絡むのも、こりごりだ。今すぐ潰せ! 俺が許す! むしろ逮捕しろ!
だが……
「あら、そんなことは無理よ」
「クレオッ!」
「知っているでしょう? この団体は、この国の王子でもある、ライラック王子が支援する団体よ。ましてや、この団体にはこの国のみならず、他国のおエライ様も関わっているのよ? 潰せるはずがないわ。身内の恥を公表することになるのだから」
集まっている野次馬たちには聞こえないよう、俺の傍に寄ったクレオが、俺に耳打ちしてきた。
そういや、あの変態王子が関わっているんだったな。
だが、今回はこれだけの大騒ぎ。さらに、今はクレオのことが世界中で話題になっているほどだ。
これを揉み消すことはできないんじゃねえか?
「それに、どちらにせよ間もなく『文化大革命』が起きる。もはや団体を活動停止の手続きをしたところで、全てが無意味よ」
革命? 何か意味深にクレオが呟いた言葉は、聞き覚えがあるものだった。
そうだ、確か、さっきストロベリーの奴が……
「まあ、そんなことは今の私にはもう関係ない。ほら、あなたも少しは嬉しそうに私を抱き寄せて、手でも振ったら? これからクラーセントレフンとこの世界が交流を交わしていくにあたって、私の扱い方を間違えるだけで、世界を敵に回すと知りなさい?」
「知るか! つうか、テメエはもうどっからどこまでが本当で嘘かも分からねーんだよ! 死んだと思ったらこの世界に居るし、腐女子になってるし、ペットに変な趣味を植えつけようとするし、俺を恨んでいるとかほざいて戦ったり、ビービー泣いたり、急に嫁になったり、なんなんだよテメエは!」
「あら、なあに? あなた、形だけとはいえこの私と夫婦になっただけでは満足せず、身の程知らずにもこの私の全てを知った上で愛されたいとでも言うつもり? 全く、だらしないのは下半身だけでなく、頭も相当ね。体だけの関係にすら満足できないと?」
「ああん? 身の程知らずはどっちだチビ女! そんなエラそうな口は、エルジェラを見てから言うんだな!」
「エルジェラ? それが、あなたが一番お気に入りの女? そういえば、胸がどうとか……ふん、子供ね。いつまでも乳離れできない男がクラーセントレフンを支配したと? 女の魅力を胸でしか判断できない、つまらない男ね、あなたは」
「けっ、エルジェラをただの胸がデカイだけの女だと思うんじゃねーよ。あいつは技術も日々向上し、それでもあいつは満足することなく『少しでもヴェルト様に喜んでもらいたい』なんて男心をくすぐるような、献身的で奉仕精神があるんだぞ! しかも、たまに子供っぽくやきもち焼いたりするというギャップもあり、あんなのもう気に入るに決まってんだろうが!」
「献身的な奉仕精神? そんなもの、それこそ「喜ばせ組」でも設立させ、性欲を満たすためだけの愛人の女たちにでもさせればいいものでしょう? 王の妻となる女に最も必要な資質は、そんなものではないはずよ? やはりあなたはまだまだ半端者よ、ヴェルト・ジーハ! この私が生涯をかけて調教してあげる必要があるわね!」
誰が調教だッ! くっそ、こいつ、同情なんてするんじゃなかった! もう、心置きなくぶっ飛ばせば良かった。
「じゃあ、ブラック、このタブレット遠慮なく貰うんで。それじゃあ、さっそく……痴話喧嘩ナウ」
「ヴェルトくんのばかばかば~か……いいな~、クレオ姫……結局言ってることは、ヴェルトくんと結婚してこれからもずっと傍に居るってことだし……さりげなく、か、か、体だけの関係って……体の関係はやっぱり持っちゃうんだ……」
「うう~、せ、拙者はどうすれば……うう~……拙者だって、殿が望むのであればどのような御奉仕であろうと~……」
マジでウザイこの女。どうしよう、心の底から破談にしたい。
つうか、何でこいつ俺と結婚なんだ? とりあえず、復讐云々言ってるが、こいつ、そんなに俺のことが好きなのか?
なら、逆にこいつの好感度を下げれば……
「ムサーーーーーーシ!」
「ぶつぶつ、拙者だって……にゃにゃっ! と、殿?」
「命令だ。こっちに来い」
こうなりゃ、もうヤケだ。この世界からの評価なんて知ったことか!
今はこの世界での評価より、元の世界での平穏が一番!
「にゃ、にゃんにゃ! と、とにょ!」
「許せ、ムサシ!」
首を傾げるムサシを呼びつけ、そして後ろから抱きしめて胸を揉む!
「ッ!」
「「「「いや、なんでっ!」」」」
うん、そりゃー、この場に居る全員がそう思うだろう。
ましてや、こういうエロに対する規制も厳しそうなこの世界じゃ、驚きだろう。
腐女子共は顔を赤くして、俺をゴミ虫を見るような目で見てくる。
いや、その目は、他のギャラリーも、ニートやブラックたちも同じなのだが……
「これが基準だ、クレオ」
「……なんですって?」
「俺の女は、この胸の大きさが最低基準だ! テメエみたいな大平原は、お呼びじゃねえっ! 乳離れできない男? そうじゃねえ! そもそも男ってのは全員そうなんだよ!」
こんなことユズリハにバレたら噛み殺されるから言えねーが、これにはクレオも……
「ふっ。やれやれね……」
呆れたように笑みを浮かべて、どこか余裕に満ちて俺に近づき……
「暁光眼」
「んなっ!」
さっきまで、ただのチビ女だったクレオが、いきなり金髪ポルノ女優のようなスーパーボディにっ!
回りは……全然気づいていない? まさか、これは幻術?
「ん、殿~、だめ~え、見られているでござる~、そ、そういうのは~、うう~、あ、との~」
悶えるムサシの胸を揉み続ける俺の手を掴み、クレオは豊満になった自分の胸に……や、やわらかっ!
「幻術だと思って侮らないようにね。痛みを実際に感じ取れるのだから、感触や気持ちよさだって本物よ? どう? 私にかかれば、サイズなんて思いのままよ?」
ッ! な、なんだと、この女!
「……ヴェルトからはどう見えているか分からないけど……物凄い、けしからん魔眼の使い方なんで」
「ちょっ、ね、ねえ、ニート、その、すごーくどうでもいいんだけど、あのバカ、男は全員って言ってたけど、あ、あ、あん、たも、その、胸の大きさとか、気にする男だったりするわけ?」
「ブラックちゃん、あんまりお兄さんの言うことは、にゃっは気にしないほうがいいと思うよ?」
「は~……私は……ムサシちゃんより小さいし……」
くそ、この女、そう来たか……なら……
「……ペット、ワリッ!」
「……はう?」
「ふわふわスカートめくり」
「………………………………………………………………えっ?」
なら、これならどうだ!
ラーメン屋で、エロスヴィッチがペットのスカートめくりをしたことによって発覚したこと。
ペットが、その大人しい容姿とは裏腹に、大人の花柄スケスケの紐パンツを穿いていたこと!
「ひ………い、い、……いやあああああああああああああああああああっ!」
響き渡るペットの大絶叫。そして、そういうものに免疫の無いこの世界の男たちは一斉にぶっ倒れる。
すまん、ペット……
「……あら、随分と淫らな下着ね……で、それがなに?」
「へっ、テメエが所詮どんな幻術使おうと、こ~んなエロいパンツは、その幼児体型じゃ似合わねーだろ? 昔からテメエはガキパンツだったからな!」
こんなのユズリハにバレたら、泣かれるが、今はよし!
ここで、クレオから、「最低な男、やはり、貴様はうんたらかんたら」になって、結婚は破談……
「ふっ、……暁光眼・ブラックカーテン!」
しかし、クレオは余裕の表情。そして、目を光らせた。
今度は何をする気だ? だが、俺は正直何の変化もない。
その代わり……
「な。なんだ、世界が真っ黒になったぞ?」
「なにも見えないーっ!」
「ぱ、パンツが、ま、まだ動画で記録していないのに!」
「なんで、真っ暗!」
回りの連中の見えている世界が暗闇になっているのか? つうか、最早、何でもありだな。
クレオの魔眼で暗黒世界を見せられて混乱しているギャラリーたちの中、クレオは、胸を揉ませていた俺の手を、自分のスカートの下に……ァ……アラ?
これって……何も、生えてな……じゃなくて、穿いてな………ッ!
「さ、さすがに、こ、この光景は見せられないからね」
恥ずかしいのか、顔をソッポ向けているクレオだが、いやいや、そんなレベルじゃなくて……
「お前、は、い、てな……ッ!」
「な、なによ、人を露出狂みたいに! べ、別にいつもじゃないんだからね! きょ、今日は、その、あなたと会えると思うだけですぐに下着が……じゃなくて、た、たまたまよ! とにかく、下着一枚なんかで女の評価は決まらないということよ!」
「こ、……このビッチめ!」
「あら、私はこの体をこの十年間誰にも触れさせて居ないと言ったはずよ? まあ、その証拠は今晩にでも、あなたがメロメロになった、このお尻と一緒に見せてあげるから安心なさい」
それは想像もしてなかった!
そういう対抗をしてくるとは思わず、ビックリしちま……
「うう、うううう、ううううううっ! なん、ひどい……ひどいよ~! ヴェルトくんのバカ! ど、どうしてこんなことするの!」
そして、無駄になったペットのパンツ。
まさかこんなことになるとはな。案の定、ペットの奴、泣いちゃったよ。
「ああ? だから、謝ってからめくっただろうが!」
「そそそ、そういう問題じゃないよ! 普通、めくる? めくらないよ! どうして! 子供じゃないのに、しかも、こんな大勢の前で! さいってい! 本当に、さいってい! もう、だいっきらい!」
そのセリフをクレオに言わせたかったんだよ! ……あっ、そうだ。クレオのスカートめくれば良かったんだ……やり方を間違えた……
「ふ~。本当にかわいそうね、ペット・アソーク。だから私は、あなたにいつまでも可愛そうな想いをしないよう、文化の世界に誘おうとしたのに」
「ひっぐ、うう、く、クレオ姫~」
「本当に可愛そう。これだけ最低なことをした、外道の極みの男に、いつまでも心を奪われるんだから……あなた「も」……ほんっと、嫌いになれないから困るのよね。もはや呪いね。惚れたら負けって、本当なのね」
うずくまって泣きじゃくるペットを抱き寄せて、「よしよし」と頭を撫でるクレオ。そんな優しい顔も出来るんだ……。つうか、どうして俺にはその顔をしない。
「メロン代表、ご再考を! やはり、こんな男はやめるべきです!」
「そうです、メロン代表! こんな男にメロン代表の芸術品のような肉体を、性欲の赴くままに弄ばれるなんて、我慢できません!」
「妄想の材料にするにも嫌悪するような男です! どうか、メロン代表!」
そうだよ、もっと言え。こんな男やめておけと、もっと言ってやれ、腐女子共。
だが、そんなときだった。
「カカカカカ、まあ、もうそういうのは、当人たちで勝手にやっていればいいさ。なあ? アプリコット姫」
「………どうして、私に聞くんですか?」
「カカカカ、なんだ、まだ惚けるか。ウゼーな、新代表? まあ、いいさ。とりあえず、BLS共の用事はこれで終わりだろう? ウゼエぐらい待たされたが、ようかくこっちの番だ。次は、レッド・サブカルチャーの用事を済まさせてもらうぜ」
あっ、そういえばすっかり忘れていた。
「なあ? ニート」
「………えっ? 俺?」
ペットと一緒に攫われたアイドル姫の一人のアプリコット? とかいう奴の隣で、ストロベリーが一歩前に出て、完全に用事を忘れていたニートが、タブレット持ったまま固まっていた。
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