第555話 今の俺を知れ
暁光眼が発動するか? いや、違う……
「無属性魔法・グラビディボール!」
俺の力なら、暁光眼に対抗できることは既に証明済み。それを理解しているからこそ、クレオも戦い方を変えてきたな。
黒い球体が、空間を歪めながら俺に放たれる。
ラブの力に似ている。つまり、あれに触れたら高重力で潰されるってことか?
「ふわふわ方向転換!」
だが、それがどうした。俺の力なら、向かってくる魔法そのものを俺が自動操作して空の上まで飛ばすことも可能。
それどころか、相手にそのまま跳ね返すことだって出来る。
「暁光眼流魔法術・魔法分身ッ!」
「んっ、お、おおっ!」
次の瞬間、クレオの放った魔法球が分身した。俺の上下四方全てを囲むかのように……
「魔法が分身した?」
「ヴェルト・ジーハ。どういう仕掛けかは分からないが、貴様は相手の魔力を感知し、それを引き剥がしたり、動かしたりすることをできるようね。でも、この数全てをコントロールできるかしら?」
幻術で分身した魔法球。本物の重力魔法は一つなんだろうが、分身した魔法球全てにクレオの魔力が篭ってるから、本物と偽物の判断が出来ねえ。
つっても………
「まあ、やろうと思えばできなくもねーが……こういうこともできるぜ? ふわふわ乱気流!」
メンドクセーから、気流を起こして全部強制的に弾き飛ばす。
そうすりゃ、こんなもん………ん? クレオ……何を笑って……
「そうね。真偽は別にして、仮にも四獅天亜人のエロスヴィッチや、ヤヴァイ魔王国の王族が貴様をクラーセントレフンの覇者と認めている以上、その程度はやるのでしょうね。でも……これはどうかしら!」
その時、俺は自分の足元が突如光り輝いたのが分かった。
慌てて下を見ると、俺の足元には淡く輝く六芒星の魔法陣が……
「罠魔法・
突如、俺の両腕に、鉄球のついた手枷がッ!
「ッ、これはっ!」
「貴様が破壊したこの店は、私の設計した店よ? この程度の仕掛けぐらい作っておくに決まっているでしょう? 本来小規模な威力しか発揮しない魔法陣も、練り上げれば強固な力を発揮するのよ?」
罠かよ。乱気流で視界が僅かに塞がれた瞬間に発動されたってことか。
だが、この程度なら……
「そして、貴様の特殊な魔法……正体は分からないけれど、所詮魔法なら話は早い。その根本を断ち切ればいいだけの話!」
俺が身を捩って拘束の魔法を引き剥がそうとした瞬間、クレオは既に俺との距離を詰め、ゼロ距離から俺に向かって手を翳す。
その瞬間、まるで自分の体内から何かがゴッソリと引き抜かれて、クレオの手に吸い込まれる感覚が襲った。
「無属性魔法・
引き抜かれたもの。それは、魔力だ!
俺の体内から魔力を大量に……こいつっ!
「うおっ………ぐっ……テメェ……」
「これだけ魔力を吸収すれば、もはや何もできないでしょう?」
一気に体が重くなり、その場で跪いちまった。
流れるように間髪いれずに次々と魔法を繰り出して相手を飲み込むクレオの力。
確かに強い……素直にそう思った……
「すごい……クレオ姫……この魔法のキレは……フォルナ姫、アルーシャ姫……ロア王子と遜色ないレベル……」
同じ魔法技術に長ける者として、ペットも目を見開いて驚いている。
そう、これが……本来、勇者になるはずだった女の力……
「す、すごい! あの、メロン代表が、これほど強かったとは……」
「これが、魔法!」
「そんな……代表が、クラーセントレフンの住人だったなんて……」
「じゃあ、この力も、これまでのも、全て……魔法……」
「ふっ……なるほどね~、ウゼエぐらい強気なのもそういう訳か」
その力は、たとえこの世界の住人といえど、「スゴイ」ということは容易に理解できるほどのものだった。
まあ、腐女子たちは未だに、クレオの正体に驚いて呆然しているみたいだが……
しかし、もうそんな反応は、クレオにとってはどうでもいいようだ。
今のクレオは、俺への憎しみでいっぱいだった。
「無様ね、ヴェルト・ジーハ。この程度で圧倒されるなど、貴様は本当にクラーセントレフンを支配したのかしら?」
跪いている俺を、ゴミ虫を見るかのような冷たい目で見下ろしてくるクレオ。
俺も思わず苦笑しちまった。
「やるじゃねえか。十年のブランクがあり、オタク街道まっしぐらの女になった割にはな……」
「ふっ、当然よ。大規模な戦争こそなかったものの、私自身もこの世界で身を守り、今の地位まで上りつめるには、当然、裏の世界では力を使ったイザコザがあったわ。それも全ては、生き残るため……そして、いつか……元の世界に帰るために……」
この力は、勘違いとはいえ、俺の元へと帰るために身に付けた力ってわけか……なんだか……切なくなってくるな。
「ちょ、ちょっと~、あいつやられちゃうんじゃない? ねえ、ニート! どうすんのよ!」
「はっ、何が?」
「何がって! だから、あいつ普通に負けそうじゃん! 助けなくていいの? ムサシだって、心配でしょ?」
まあ、そう見えるよな。正直、相手の力の正体が分かったとはいえ、それを差し引いてもクレオは強い。
だからこそ、俺がコテンパンにやられているように見えるよな。実際、現時点では俺の魔力は結構吸われたし。
「も、もちろんでござる! いかに一騎打ちとはいえ、もしもの時は拙者が割って入る所存! たとえ、殿の逆鱗に触れようとも、拙者はイザとなれば黙っていないでござる」
色々とテンパってるムサシもこんな状態だ。だから、周りはクレオ優勢という認識だった。
ただ、俺以外の一人の男を除いて……
「いいと思うんで。あんなやつ、一回女にぶっ殺されれば」
「ちょっ、ニート!」
「……でもまあ………そうならないんだろうけどな………あいつ……ムカつくハーレム野郎だけど……その分だけ普通に色々と乗り越えてるやつなんで……」
ニートだけは、全く俺のことを心配しないで、冷静に見てやがる。
それが、「この野郎」と思う一方で、「まあ、その通りだ」とも思えるから、複雑なところ。
「ヴェルト・ジーハ! 全ての禍根はここで断ち切るわ! さようなら……最初で最後の……恋に!」
すると、クレオが魔力を凝縮した掌を俺に向かって振り下ろそうとしてきた。
トドメの一撃のようだ。
せめて、最後は楽に死なせてやることがせめてもの情け……そんな気持ちなんだろうが……
「ふわふわキャストオフ!」
「ッ! ………なっ………」
俺は、クレオの魔力を普通に引き剥がしてやった。
俺にとっては別に普通のこと。
だが、クレオは時が止まったかのように驚愕していた。
「ば、馬鹿な………な、なぜ! 貴様の魔力は尽きたはず! なのに、なぜ?」
「確かに、結構吸い取られたな……でも、ほんの僅かでも魔力が残っていれば、俺にはそれだけで何の問題もないんだよ」
「な……なんですって?」
そう、魔力が尽きれば魔法は使えない。それは常識だ。
でも、完全なゼロにさえならなければ、俺には問題ない。
「簡単な話だ。魔力が消費したなら、大気を漂う魔力をかき集めて体内に取り込む。そう、それだけで俺は無限に戦える」
「そ……そ、そんなことが! き、貴様が、そんな力を? 馬鹿な、そんな魔法、聞いたこともない!」
「ああ、俺も編み出そうと思って編み出したわけじゃねえ。この力は……死んだ親友に……そいつの娘を、家族として……一人の女として……俺が一生幸せにしてやると、誓った時に身につけた力だ」
そう、鮫島ことシャークリュウのアンデットと戦ったとき。
ウラを、俺が幸せにしてやると誓い、覚悟を決めたときのこと。
「クレオ………さっきも言ったように、お前が俺のことをどう思おうと、俺はそれを否定できねえ。お前には俺を罵る資格はあるし、俺に否定する理由はねえ。でもな……そんな俺でも俺なりに……お前がいなくなった十年間……俺自身も軽くねえ日々を過ごしてきた……命懸けで、全開で……それは決して偽物なんかじゃねえ……本物だ」
そういえば、あの時も、こんな感じだったな。
エルジェラとイチャついてたところを、ウラに見つかって、ウラが拗ねてヤーミ魔王国に家出して、魔王ネフェルティの力で鮫島のアンデットと戦わされて、その戦いの中で、俺はウラに叫んでやった。
そして、自分の全てをさらけ出してやった。
「だから、クレオ。お前に謝ることも償ってやることもできねえ代わりに……俺が見せてやるよ……せめて……今の俺をな」
「な………なにを………」
クレオが勘違いした、妄想の中の理想のヴェルト・ジーハは存在しない。
だから、俺がしてやれることは、今度こそこいつが勘違いしないように、今の俺を、本当の俺を見せてやることぐらいだ。
「十年前、お前が想いを抱いたヴェルト・ジーハはもう居ねえ。出会った男が悪かったと、諦めてくれ。その代わり、あの時のヴェルト・ジーハの成れの果ての姿を……それこそ命懸けで、包み隠さず、全開で見せてやるよ!」
集めろ……魔力を……収縮し、凝縮し、濃縮し、そして一気に爆発させるッ!
「お前にとっては最低な男になったとはいえ、それでもヴェルト・ジーハはここまで強い男になったのかってことを、せめてお前に教えてやるよ!」
ここまで力を込めるのは、半年前、クロニアと戦ったとき以来だ……
「大気が……揺れている……ヴェルト・ジーハ、き、貴様は一体!」
そして、俺は改めてクレオに名乗る。
これが今のヴェルト・ジーハだと。
本物のヴェルト・ジーハなのだと。
「見せてやる。お前の居なくなった世界の麦畑で生まれた、最も凶暴な男の力をな!」
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