第551話 思い出話・真にカッコいい男

「クレオーッ! ペットーッ!」


 金の延べ棒の一つが、頭に当たった。

 頭がガンガン響いて、ドクドクしたものが頭から流れているのが分かった。

 目の前がすぐに真っ赤になって、でも、俺が動くしかないから、クレオとペットを脇に抱えて俺は、とにかく延べ棒が降っていないところ目掛けて飛び込んだ。


「ッ、ヴぇ、ヴェルトくんッ!」

「あ……ヴェ、ヴェルト・ジーハッ! そ、そんな! く、な、なんてことを……」


 ヤバ……頭だけじゃない……なんか、色々なところにあたって、当たった場所が熱くなって、ぷっくり膨れてる感じがする……


「おやおや、随分と可愛らしいナイトですな~。とまあ、それはさておき! 六つ! むけばむくほどよかちんちん、アラ、よかよかよかよかよかちんちん♪」


 くそ~~~~~! なんで、なんで! なんでこんな変な奴に! 悔しい……



「よくも、私のヴェルト・ジーハを! もはや無限では足りないわ! 輪廻の果てまで貴様に地獄を味あわせてやるわ!」


「ふ~……幻術対策……というより、魔眼対策。目潰し! 黄金御開帳!」


「ッ! ま、まぶしいっ!」



 め、目が痛い! 世界が一瞬で金色に光って、太陽の光みたいに強烈にッ!


「そして、チン縛!」

「な、なにをする、離しなさいッ!」


 何が? ッ、クレオッ! クレオが、金色のロープに縛られて、目隠しまで!


「才能は天下一品でも、やはりまだ七歳の子供ですな~。意外と簡単に捕獲できましたな~」


 そんな! うそだろ、こんなやつに? くそ、なんでこんなことになってんだよ!


「では、七つ! なめ―――――」

「や、めろっ! クレオを離せこの野郎ッ! ウリャァ!」

「って、おおおっ! これは怖いですな~」


 あいつは変な踊りをしようとして油断している。俺は、メチャクチャ痛い体だけど我慢して走り、金玉目掛けて思いっきり殴ってやっ―――――


「いってえええええ!」

「ヴェルトくんッ!」

「ヴェルト・ジーハ!」


 かっ、かってええ! 黄金のパンツ! こいつ、いつの間にこんなもん! 

 さっきまでモロ出しだったくせに。


「危ないですな~、あと一瞬、この金の下着を精製しなければ、大珍事が起こっていましたな~」

「~~~っ、大人のくせに固いオムツ穿きやがって! 恥ずかしくねーのかよッ!」


 大人のくせに丸出しで、いつまでもギャグばっかやってて、子供相手にズルい能力使いやがって。

 でも、アラチンのやつ、俺の言葉を「やれやれ」なんて溜息吐いて首横に振ってやがる。


「違いますな~、子供はやはり分かってないですな~。本当にカッコイイ男というものがどういうものかのか」

「なんだとッ! でも、少なくともお前なんか全然かっこよくねーよ!」

「ふふふ…………金球珍擊!」


 黄金の球がいっぱいっ! 俺の体全部にスゴイ威力で、飛んで……


「う、が、ああああああああっ!」

「いやあああああ、ヴェルトくん! いや、た、助けてください、や、やあああっ!」

「く、お、おのれええっ! この、こんな金属の拘束ぐらい、す、すぐに解いて貴様ごとき瞬殺してくれるっ!」


 体中が痺れて……ダメだ……崖から落ちたときとかの怪我も含めて、もう、体中の骨がボロボロになった気がする。



「坊やもお嬢ちゃんもお姫様も、覚えておいたほうがいいですな~。真にカッコイイ男とはどういうものか」



 なんか、本当に体がダメになっちゃうと、痛いってことも感じない。体中がボーッとしている感じだ。

 立てない……



「そう、真にカッコイイ男とは、恥を恐れずに常に自分を曝け出し、自分の道を突き進む。そういう男を本当にカッコイイというんですな~」



 こんな、カッコ悪いやつに、みんなやられちまう……クソ……クソ!



「そうだ、え~っと、まだありましたかな~? えっと、おお、あったあった。ほら、坊や、このタバコを吸ってみたらどうですかな~?」


「………………?」


「このタバコは特別製でしてな~、吸うと脳みそがとろけて、陽気に、どこまでもハイテンションに弾け、自分の全てを曝け出せるマリファナという魔法の薬でしてな~。大丈夫。アリパパのように吸いすぎると中毒になるが、そこまで危険なものではないので、おすすめなんですな~。これで、君もカッコよくなれますな~」



 何がカッコイイだ! こんなふざけた野郎、全然格好良くねえ!

 本当にカッコいいのは……本当にカッコいいのはッ!


 本当にカッコいいのはッ! 


 ………………………………………ん? なんだこれ?



『なんであいつらぶっ潰さねーんすか、ヤマトさん! ブクロの奴らが渋谷と連合組もうとしてやがるんだ! これは俺らへの挑戦状じゃねーっすか! 売られた喧嘩を買わねーで、何が不良だ! 一人残らずブチ殺すッ!』 

 

『kill them all! ヤマトヘッド……ミーのマインドは既にファイヤーだ! ジェノサイドの幕開けだ!』


『せや、あのゴミ虫共、血祭りに上げたらなァ、もうワイらも収まりつかんのやッ! いかせてくれや、ヤマトはん! 高原のクソをぶちのめすんや!』


 

 なんで、俺はこんなことを思い出して? 


 思い出す? いや、誰なんだ? 何なんだこの光景は?

 

 分からねえ。でも、これだけは分かる。あの人も……そうだった…………。


 恥なんて恐れなかった。常に自分を曝け出していた。自分の道を突き進んでいた。


 でも、違うッ!


 こいつと、あの人は、違う。



『よう、バイクにも乗れねえ中坊共……今日は気分がいい……喧嘩なんてしてねーで、ほら、ケツに乗せてやる。乗りな』



 そうだ、あの人は……目を血走らせる俺らを、いつも呆れたように笑いながら、頭を軽く叩いて…………



『今日はとことん走ってみるか、全開で』



 ああ……そうなんだ……うまくいえねえけど……アラチンの言ってる男のカッコよさってのは、別に間違ってるわけじゃねえ。

 でも、それだけじゃ足りねーんだ。



「それだけじゃ…………ねえっ!」


「ッ!」



 俺に、変なタバコを差し出してきたアラチンの手に、俺は噛み付いてやった!

 子供の力だろうが、ガブリと噛み付いてやりゃー、この変なやろうだって、顔をしかめやがった。



「うおッ? どーしたですかな~、坊や」


「はあ、はあ…………俺が思う……真にカッコイイ男って奴は…………」


「?」



 男のカッコよさ? そんなもん、上げようと思えばいくらでもあんだろう。

 ツラが良い、喧嘩が強い、頭がいい、性格、器のデカさ、優しさとか、生き方、キリがねえ。

 どれも間違ってねえし、一つになんて決められねえ。

 だから、俺が言うとしたら…………



「あんな男になりたいと……同じ男なのに憧れちまう……そんな魅力を持った男こそが、真にカッコイイ男なんだよ」



 そう、だから……


「だから、俺の基準から言えば、テメェなんかには死んでもなりたくねえ! お前なんか、ぜーんぜんっカッコよくなんかねーんだよ、バーカッ!」


 言ってやった。死んでも言ってやりたがった。

 もう、それだけで俺の中にあった力を全部使っちまったみたいだ。

 でも、言えてスッキリした。


「ふ~~~~~、十まで数えて、アラ、これでとうとうよかちんちん……と、したったですがな~……ちょっと、眠っててもらえますかな~、坊や」


 殴られるッ! でも、俺は言い切った。だから、アラチンがムッとした顔をしても、怖くなかった。

 そう思った次の瞬間、俺を金属の棒で殴ろうとしていたアラチンの武器が、粉々に砕け散った。


「ッ! なっ……に?」

「あっ………………」


 アラチンも驚いている。何で? 誰が? そう思ったとき、俺の後ろにはあいつが立っていた。


「真にカッコイイ男? 二人共、あまりにも的外れな答えすぎて、呆れてモノが言えないわ」


 クレオだっ! 目隠しも、金の縄も外されている。


「クレオ姫ッ! いつの間にッ!」

「ええ。役に立たないと思っていた凡人は、意外と優秀だったと私も驚いていたところよ。覇王の目にも誤りがあったと、少し反省しているところよ」


 そう言って俺の隣に来たクレオはウインクして、後ろを軽く見た。

 そこには、ガタガタ震えながらも、アラチンを睨んでいるペットが居た。


「まさか、その娘が!」

「ええ。解除してくれたわ。あなたたちが、的外れな論争を繰り広げている間にね」

「ぐっ! しまっ、か、体が!」

「もう遅いッ! その金メッキを剥がしてあげるわ!」


 さっきまで、のんびりとした喋り方だったアラチンが、慌てて後ろへ下がろうとした。


「あ~あ、僕もまらまらですな~、どうしても遊んじゃって―――」


 でも、もう既に遅かった。

 アラチンは金縛りにあったみたいにガチガチに固まった。

 そして、クレオはゆっくりと俺の顔を覗き込んできて、ちょっと不機嫌そうに頬を膨らませた。



「ヴェルト、あなたは何を言っているのかしら? 真にカッコイイ男は、男が憧れる魅力を持った男? そんなわけないじゃない。女の意見がまるで含まれていない馬鹿な答えを、自信満々に言うものじゃないわ」



 そう言って、プイッと俺に背中を向けて、アラチンにトドメを差そうとするクレオ。

 その顔が、ほんの少しだけ赤かったのが、確かに見えた。



「ヴェルト、真にカッコイイ男…………それはね………この、覇王たる私に選ばれた男。それ以外の回答なんて、この世にあるはずがないでしょう?」



 次の瞬間、アラチンが化物を見たかのように絶叫して気を失った。

 ははツエー……まともにやりあえば、クレオの方が全然ツエーんだな。

 あれだけ対策だとかしてきたアラチンだけど、不意をつかれたら敵わなかったみたいだ。

 なんか、それだけで俺もなんか全身から力が抜けて、ホッとして…………意識が…………



「品がなくても、そこまで端正な顔立ちでなくても、身分が低くても、……熱い魂、そして命懸けの勇敢さを持ち、体を張り、女を守る。ヴェルト、それが私の選んだ男よ………って、気を失っているじゃないッ! ちょっと、しっかりなさい!」



 気がついたら倒れて、目が閉じかけて………そんな俺にクレオとペットが慌てて駆け寄って………


 意識を失う最後の直前に俺が見たのは…………俺の隣で中腰になってるクレオのスカートの下は、ちゃんとパンツが穿かれてた………赤だった………

 

 あとから聞いたけど、赤じゃなくて、ウォーターメロンカラーだって。何が違うんだ?




――あとがき――


お世話になります。明日は街に待った土日ですね! つーわけで、一日二話投稿します!!!


明日の朝10時ごろに投稿しますのでよろしくお願いします!!!!


また、本作を読んでいただける方を少しでも増えて頂きたく、まだ作品のフォローされていない方がおりましたら、何卒フォローと★でご評価頂けたら嬉しいです! よろしくお願いします!

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