第543話 嘘

 この店、そのものが仕掛けなのだとしたら、仕掛けごとぶっ飛ばす。


「ふわふわ世界ヴェルト!」


 壁も天井もテーブルも食器も、オタク商品も関係ねえ。

 全部浮かせる。

 地震のような揺れとともに、建物全体に亀裂が走り、破壊されていく店内。



「カカカカカ。博物館を壊した俺に文句言っておいて、自分はBL喫茶破壊かよ」


「ちょ、器物破損なんで! っていうか、何でお前はいつも悪びれないんで!」


「い、いやああ、私の宝物がッ!」


「なんで! 浮いてる! や、やめてええっ!」



 キャーキャー、ギャーギャー喚く女たちにも容赦はしねえ。

 俺を舐めた奴は、全員有罪判決!



「なんという単細胞」


「褒め言葉だそれは! ふっとべーーーーーーっ!」



 亀裂の走ったコンクリートが粉々に空へとふっ飛んだ。

 正直、外に集まっている野次馬や警察関係者たちは、ぶったまげただろうな。

 テロリスト、変な協会、お姫様、異世界の来賓、それの集った店が突如崩壊したんだからな。



「ちょおおっ! ななな、い、一体、何が起こった!」


「ひ、ひい、が、瓦礫が落ちてくるぞ! にげ……落ちてこない?」



 まあ、俺も瓦礫までその辺に落とすほど鬼じゃねえ。

 後は人のいなそうなところに適当に落とし、この辺をただの廃墟にさえしちまえばそれでいい。



「女をバカにするだけでなく、現実の男に失望した少女たちの理想郷を、よくも壊してくれたな、ヴェルト・ジーハ」


「じゃあ、現実を見ろってことだよ。そして、覚悟しな? もう、妄想の王子様は助けに来てくれねーぞ?」



 機械声でも、態度で不愉快そうな気持ちになっていることは見て分かる。

 だが、別に俺はおちょくるために、これをやったわけじゃねえ。

 とにもかくにも、これでもう訳の分からん幻想に惑わされることはなくなった。


「さあ、相手になろうか、お姫様。リアルな男はヒデーってことを思い知らせてやるよ」


 こいつのフィールドは破壊した。そうなれば、ここが俺のフィールドだ。

 店内にあったと思われる映像を映す機械なんかは、開放されたこの場には存在しねえ。



「おい、アレ、ヴェルト・ジーハだぞ!」


「それに、メロンだッ! あの被り物は、ビーエルエス団体代表の、メロンだっ!」


「どういうことだ? 戦っているのか、あの二人は!」



 さあ、ギャラリーも増えて注目されたところで、このクソ生意気な女を、大恥かかせて―――――



「で、コレで何か変わるのか? ヴェルト・ジーハ」


「……………えっ?」



 その時、空から燃え上がる隕石が突如俺に降り注ぎ、俺の全身が激しい炎に包まれ……



「ぐお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」



 この、肉を焦がす匂い、全てを焼き尽くされるかのような痛みはッ!


「ッ……な……えっ?」


 だが、気づけばそこは何も変わらない風景になっていた。

 瓦礫の上に立つ俺は、燃え尽きたかと思っていたが、体は何ともない。

 


「えっ……? な、ど、どういう………」


「何かの機械を店の中で使っているのなら、店を破壊すれば映像技術は使えない。そう思っていたか?」


「ッ!」


「原人が思いつくような対処方法で、どうにかできると思っていたか?」



 本日二度目だった。全身の鳥肌が一気に立った。


「えっ、ヴェルト、どうなってるんで?」

「殿、まさか、こ、これでも……これでもダメでござるか!」


 完全に予想外だった。

 俺は、メロンの言うとおり、店さえ破壊すれば、この映像技術は使えねえと思っていた。

 だが、実際には違う? じゃあ、あの女はどうやって?


「愚かしいな、ヴェルト・ジーハ。お前は本当にクラーセントレフンを支配したのか? まるで信じられない」


 部屋じゃない? じゃあ、あの女が身につけているタブレットは?


「ちなみに、このタブレットが幻覚映像を流していると思ったのなら、それも見当はずれだ」

「げっ……」


 それも違うのか? じゃあ、何がどうなってんだよ!

 だが、とにかくそうだとしたら、ダラダラ考えている暇はねえ。


「これほど生きた女たちを傷つけているのだ。たまには死霊に抱かれるのはどうだ?」


 次の瞬間、俺の周囲に深い霧が発生した。光が届かないほど濃く、ニートやムサシたちの姿も見えねえ。

 くそ、惑わされるな。これも幻覚ッ!


「ひゅ~~~~ドロドロドロ~!」

「この恨み~晴らさで~」


 って、今度はミイラかよ! 

 地面の底から腐った死体が次々と出現し、俺に押し寄せる!

 くそ、幻覚だって分かってるのに、この匂い、吐き気、どう見ても本物にしか……


「っそ、いいかげんにしやがれっ!」


 警棒を振り回した。手に残る粘土を潰したようないやな感触も、白骨化した骨が砕ける嫌な音にも、惑わされるな!

 惑わされるな……そう思っているんだが……



「哀れだな。惨めだな。滑稽だな、ヴェルト・ジーハ。真実を見通せぬお前は、何も見れぬまま、ここで朽ち果てる」


「うるせえっ! こんなもんで俺がいつまでもやられてると思うなッ!」


「言ったはず。お前は所詮、口だけだ。お前の半端な愛がそれを証明しているのだから」



 ダメだ。ゾンビが次から次へと襲い掛かってくる。足場も悪く、体も重くなってくる。

 別に幻覚なんだからやられてもいいんじゃねえのか? そう思っても、体がどうしても抵抗しようと無駄に動く。


「ふわふわレーザーッ!」


 レーザーで撃ちぬいても、高速で駆け抜けても、景色は何も変わらない。

 どこまでも続く霧の中で、俺は休む間もなく幻覚の死体の相手を……



「もう、見るに耐えない。今、楽にしてやる」


「ッ!?」


「死ね!」



 まずい、リアルの攻撃か? 何処から来る? この幻覚の中に紛れて、俺にトドメを……

 ッ、ダメだ! 奴の本物の気配が分からねえ。どれもが本物にも幻覚にも見える。

 このままじゃ……



「っそ、ふわふわキャストオフッ!」


「ッ!?」

 


 その時だった。


「……アレ?」


 俺は、これも幻覚なのかと一瞬目を疑った。

 景色がいきなり、元に戻った?


「………ッ………………」


 気づけば、背後から俺の首筋に手刀を振り下ろそうとしていたメロンが、慌てて俺から飛び退いて距離を離していた。


「えっ、何でだ?」


 正直、俺自身が何が起こったのか全然分からなかった。

 無我夢中で何かをやったら、急に幻覚が消えて、元の景色に変わった?


 いや、何でだよ。


 ふわふわキャストオフは、『相手の衣服を脱がす』か、『相手の身に纏った魔力を引き剥がす』技だ。正直、この戦いでは特に使用する考えは無かった。ただ、昔のように追い詰められた状況下で、自分の身を守るために相手から魔力を引き剥がしていたクセが、思わずこの技を使った。

 でも、何でそれで幻覚が消えた?

 ひょっとして、今のでドサクサに、メロンから映像を使っていた機械か何かを奪い取ったのか?

 いや……そんな感覚じゃない……。


「おい、ヴェルト、どうしたんで?」

「殿?」

「ヴェルトくん?」


 あいつらは何が起こったか分かってないのか?

 ちょっと待て。俺は今、何をやって、メロンの幻覚映像を破った? 

 無我夢中で何かを掴んで引き剥がした。引き剝がしたのは、何だ?

 機械じゃねえ。こいつ自身でもねえ。それは、俺がいつも戦いで掴んでいるものと同じもの。

 でも、なんでそれをこいつが?

 だって、神族は、『アレ』を持っていないはず。


「少し映像が乱れたか。だが、何も変わらない」


 映像?

 よくよく考えれば何か変だぞ? 

 あまりにもリアルな映像で、痛みや苦痛を現実と錯覚する。これだけ進歩した世界なら、それだけの技術があってもおかしくないのかもしれねえ。

 だが、それなら変だ。技術なら当然、機械を使っているはず。でも、店を破壊したのに、それらしいものは無かった。だからこうして、店の外で戦っても同じことを繰り返している。

 機械がスマホみたいに小型だからか? それとも、あいつの持っているタブレットがその機械? それは否定されたが、あいつが嘘を言ってる可能性もある。


 そう、嘘………そうだよ……


 そもそも、あの女が、嘘をついている可能性をどうして俺は考えなかった?

 なんか俺、根本的に何かを勘違いしてねーか? 騙されてねーか?


「もし、俺が何の予備知識なくこいつと戦ったら……」


 そう、考えろ。

 錯覚の映像を流している機械を探すんじゃねえ。

 単純に、俺が、『幻』を使って相手をかく乱する敵と戦っていると考えたらどうなる?

 現実だと錯覚するほどの幻を使う………ッ!


「あ…………」


 その時、何の固定観念も無くして考えてみたら、分かったかもしれない。

 絶対にありえないはずなのに、何故かそう考えれば辻褄が合うこと。

 しかし、本当にそうなんだろうか? こんな……こんなことが……


「ッ、確かめてみるしかねーか」


 俺が一つの推測にたどり着いたとき、俺は頭の中で何度もその考えを否定しながらも、体はそれを確かめようと自然に動いていた。



――あとがき――

お世話になっております。


本作昨日からまた少し順位を上げて、週間総合ランキング89位! ジワジワ上がってきました!


そして、宣言通り本日は二話投稿! 夜20時頃に投稿しますので、よろしくお願いします!


引き続き、本作の応援を何卒よろしくお願い致します!


下にある【★で称える】より、『☆☆☆』を『★★★』にして頂ければ、1人3★まで評価して応援することができます!!


この作品を少しでも、


『面白い!』


と思われましたら、下の【★で称える】ボタンを押して評価頂けないでしょうか?

作者が今後作品を更新していく上での大きなモチベーションとなります。

それと追加で図々しいとは思いますが、フォローの登録もして頂けると嬉しいです!


何卒よろしくお願い申し上げます!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る