第540話 現実の男
「う、うそ、あ、あのビーエルエス団体の、メロン代表? 本物!」
「私たちもこうして会うのは、にゃっは初めて!」
ブラックとアッシュも驚いているが、別にこんなのに会ってても、会ってなくてもどうでもいいだろうが。ただの変な奴にしか見えねーし。
「随分と個性的なコミュニケーションする奴だな」
思わず俺がそう言った瞬間、周りの女たちが一斉に立ち上がった。
「ふざけるな、クズ男! メロン様が、お前のようなクズ男と直接言葉を交わされるはずがないだろう!」
「本来、メロン様はあなたのような方と、同じ空間で呼吸をすることすら苦痛だということを知りなさい!」
ビックリした。いきなり、女が鼻息荒くして捲くし立てるなよ。
ヒステリックなのはアルーシャだけで十分なんだから。
「んなこと言われたって、呼んだのは、そのメロンだかパイナップルだか分かんねーが、そいつの方だろうが。説教するだとかほざいてるみてーだが、文化も世界も違う人間同士に、テメエの価値観押し付けるなよな」
「んまっ! なんなのですか、この男は! 一人の女性を愛し、生涯守り続けるというのであれば、百歩譲って、男女の交際は認めましょう! しかし、それすらせず、肉欲の赴くままに妻を六人娶るなどということを平然と許容している最低最悪な男が、文化を語る資格はありません!」
「それは、俺じゃなくて、俺の嫁に言え! 三人ほどは、俺の意思など関係なしに、ドサクサに紛れて無理やり嫁になってきた女だし!」
「女の所為にするとは、恥を知りなさい! このブ男め!」
「ああん? 勝手なこと抜かしてんじゃねえぞ! 大体、女ってのは、なんかあるとすぐに男女差別とかほざいてくるくせに、ちょっとこっちが厳しく接したら、女相手なんだから気を使え? 冗談じゃねえ! 気を使ってほしけりゃ、もっとこっちが気を使いたくなるぐらいの女になれってんだよ! 男と付き合ったことも無さそうな、鼻息荒くしてる腐ったメス豚共に、何で俺が男としてどうだと罵られなくちゃならねえ!」
イラッとしたので俺も負けじと言い返してやった。目に見えて女共の不愉快そうな顔が益々強くなっていってる。
「いや、お前、そういうこと言うから女に怒られるわけなんで」
「知らないけど、あいつのお嫁さん、よくあいつと結婚したいなんて思ったわね」
「なんか、家庭内暴力とか、にゃっは厳しそう」
「むむむ、それは違うでござる! 殿は確かに言葉が乱暴なところはありますが、甘えればとても可愛がってくださるでござる!」
うるせえ。
そして、俺が可愛がるのは、コスモス、ハナビ、ムサシ、ラガイア限定だ。
すると……
「男であれ、女であれ……」
「あん?」
「お前の愛は軽い。ヴェルト・ジーハ」
メロン頭が俺に向かってアッサリ一言。流石に、イラッ、じゃなくてムカッと来た。
自分の声で話さず、機械を通して話しながらも、俺を貶すその声が、余計にムカつく。
だが、メロンは続ける。
「そんな男がクラーセントレフンを支配し、称えられている? この世界でも来賓として歓迎する? ふざけるな。世間から白い目で見られようとも、たとえ法で規制されようとも、決して揺らぐこと無くその思いを貫き通す心こそ本物。ここに居る彼女たちのBL魂こそ本物。そして、それが愛。しかしお前はどうだ?」
「あ゛?」
「女なら誰でもいいのではないのか? 半端に女を振り回し、愛を知らぬまま、ただ好き勝手に生きる。ペット・アソーク、お前はこんな男に振り回されて、自分が情けないと思わないのか?」
なんだこいつは? ようするに、いい加減な俺がチヤホヤされていることが、回りから白い目で見られようともBL好きを貫く自分たちには不愉快だと言いたいのか?
どうでもいいが、スゲー大きなお世話どころか、単なる八つ当たりだろうが。
っていうか、メロン女がちょっと視線を逸した先には、五人ぐらいの女に囲まれて、テーブルで号泣しながら座っているペットが居た。
「おう、ペット。まだ洗脳されてないか?」
「ふぐ~~、ヴェルトく~~ん、こ、怖かったよ~……ジーゴク魔王国との戦いより怖かったよ~……」
ペットの座る丸いテーブルの周りには、薄い本が数え切れぬほど積み上げられ、なんかペットがゲッソリとやつれていた。
しかも、なんか、耳にはヘッドホンを付けさせられて……
「ペットさん! ッ、それにアプリコット! あんたまで何やってんの!」
ん? アプリコット? ああ、あのアイドル姫の一人か。確か、ペットと行動を一緒にしてた。
そいつも捕らえられたのか、周りを囲まれてる。
「ごめんなさい、ブラックちゃん、それにアッシュちゃん。私たちもいきなりで……」
ん? ちょっと待てよ。ペットならまだしも、お姫様まで誘拐されたにしちゃ、随分と……
それに、あのアプリコットって女。攫われたにしちゃ、どこか反応が不自然に見える……
「う、ううう、うわあああああん、私の頭の中で音楽が鳴り止まないよ~、『うたのキングさまっ』が頭から離れないよ~」
って、今はペットが先決か? 頭を抱えながら悶えるペット。
セーフか? アウトか? まあ、とりあえず可哀想に……
「ったく、人の幼なじみを勝手に連れ回しては、トラウマになるようなことしやがって。テメェら覚悟出来てるんだろうな?」
「笑わせるな、ヴェルト・ジーハ。彼女は元々そういう素養があった。それをお前のようなクズの性欲の被害に遭う前に救出し、至高の道を教えてやったに過ぎない」
って、ちょっと待てよ。俺の発言に間髪いれずに言い返してきたメロンだが、今のは聞き捨てならねえ。
「ざけんな! 何が性欲の被害だ! 俺がいつ、ペットにセクハラした! 欠片もしようと思ったこともねえ! 大体、俺がペットにそんなほにゃらら的なことしたら、嫁にブチ殺されるってわかってんのに、そんなことするか! 大体、ムサシがここに居るんだ!」
「は、はにゃあ、と、とにょ~~」
「ど~~~しても、我慢できなくなった時はムサシが居るのにそんなことするか! こんな素直で従順でゴロゴロ甘えてくるムサシが居るのに、んなガキの頃から根暗でオドオドビクビクして、別にスタイルだってそんなにいいわけでもねえ引っ込み思案のメンドクセー女に、手なんて出すかァッ!」
俺は、慌ててムサシを抱き寄せて、メロンを睨みつけてやった。
すると………………………………………………………………………………ん?
「ひっぐ、うっぐ、うう、わ、……分かってるもん……ヴェルトくんの周りは……姫様含めて、みんな素敵な人ばかりだって……分かってるもん………私の現実なんて…………そうだもん……分かってるもん……」
いや、お前、泣くなよ……まるで俺が悪いみたいに……
「ヴェルト、お前、王になるんだからそういう発言マジヤバイと思うんで。もし、元の世界にSNSがあったら、一瞬でお前が炎上する未来が見えるんで」
「さいってー…………あの過去話聞いた後だからこそ、こいつ、ほんっと最悪」
「もう、にゃっは嫌い、こんな男!」
「カカカカカカカカカ、無駄にいい顔するより、ハッキリ言う分、俺は別にウザイと思わねーけどな」
「しねーーーーー、爆ぜろ、この糞男!」
「おまえなんて、妄想するにも値しない! ゲス男、クズ男!」
「ペットさん、リアルの男なんてこんなものです! でも、妄想の王子様たちはあなたを裏切りません! さあ、現実を捨てるのです!」
俺が悪いみたいじゃなくて、完全に悪くなっちまったよ。
「うるせえ! 人から罵倒されて炎上することが怖くて不良ができるかよ! テメェら、妄想でしか愛だのを語れねえ奴らはそんだけ、ウゼーってことなんだよ!」
もう、照れてるムサシ以外、なんか味方もいなくなっちまった。
ペットも、「もうどうでもいいや」的な魂が抜かれたかのように落ち込んでる。
あ~~~~、メンドクサ!
「ただな、それでも俺がこうしてここに来たからには、ペットは返してもらうぜ! それは別に愛でもねえし、下心でもねえ。それでも、守ってやると約束したから、俺はこうしてここに居る。何があろうと、これ以上好き勝手させねえ。それが、俺がガキの頃からの、そいつとの約束だ」
「「「「………………………………………………………………………」」」」」
「俺がペットをどう思うか、ペットのためにどう動くか、俺たち二人のことにいちいちイチャモンつけるやつは、勝手に騒いでろ! 罵倒も批判も、俺には興味ねえ……って、な、なんだよ、急に黙りやがって」
すると………
「はう~~~~……何でそういうこと言うの~……もう、恥ずかしいよ~」
「「「「落として上げるなああああああああああッ!」」」」
「どっちなんだよ!」
なんなんだ、こいつら!
どっちにすりゃいいんだよ、俺は! もう、訳がわからん! さっさとこいつらブチのめして、ペット連れて帰るか。
「現実でも初めて見る。これほど、一人の男を殺したいと思ったのは」
すると、嫌悪の中に殺意を混ぜたメロンが一歩ずつ俺に近づいてくる。
こいつ、まさか、ヤル気か?
「だからこそ、お前には教えてやらねばならない。お前など、称えるに値しないただのクズだということを。そして、女をバカにするお前に真の愛とはどういうものかを教えてやろう。そして、ペット・アソークを救い、文化の素晴らしさを教えてやろう」
「結局それかよ! どいつもこいつも、意味の分からねえ理論で、偉そうに何を寝ぼけたこと言ってやがる! 愛を教えるとか、説教とか、布教活動とかほざいて、それが無関係のやつを拉致ってノンケからBL推進派に変えることってか? ふざけんな! ただの迷惑なんだよ、んなもん!」
そして、そこで文化に何で繋がるのかが全く意味不明だ!
「それでも、そっちが腐った文化を押し付けるというなら、目には目をだ。テメエらこそ覚悟しろ。女だろうが関係ねえ。異世界産のクソ不良が、不良の暴力文化を叩き込んでやるからよ!」
なら、もう、こっちもこっちでやらせてもらう。
力ずくで来るなら、こっちもベソかかせてやるよ。
誇れることでもねえが、女を泣かせるのは昔からの得意分野化だからな。
「驕るな、半端者の原人が。お前ごときが私に勝てると思うか?」
「ッ!」
「お前は、何も分かっていない」
な、にい?
「ッ、う、うおおおっ!」
ッ、な、何が起こった!
「お前に見せてやろう。クズには分からない、世界最新鋭の究極の技術というものを」
どういうことだ? 一瞬で、何の前触れもく、地面が突如真っ黒い穴に?
落ちる! 床が、壁が、どこまでも奈落の底へと!
しかも、その奥底には……ッ、嘘だろ! ま、ま、マグマあああッ!
「お前のクズな五感で味わうが良い。アルティメット・ホログラフィック・タクティクスをな」
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