第533話 お勉強

 ドーム上の巨大な建物を見上げる俺の前方には、スーツ姿でニッコリと笑う白髪のジーさん。

 その背後には、メタリックな肉体の上にスーツを着た、いかにもロボちっくなのが四体ほど。


「ようこそいらっしゃいました、クラーセントレフンの皆様。私は当館の館長をさせて戴いております、セピアと申します。以後お見知りおきを」


 俺の姿を見て、深々と頭を下げる、セピアと名乗ったジーさん。なるほど、館長か。



「ヴェルト・ジーハだ。ワリーな、急に邪魔して」


「いいえ。世界の壁を越えて現れた奇跡の方々をお目にするだけでなく、当館にお越しいただけるなど感激の至りにございます。どうぞ、今日はごゆるりと、我が国、いえ、この世界の歴史をご覧になってください」



 俺よりも随分年上と思われるジーさんが、礼儀正しくだけじゃなく、何やら嬉しそうに握手を求めてきた。

 まさかこんなに歓迎されるとはな……



「おっと。興奮して申し訳ありません。長年、こうして世界の歴史の管理人のような仕事をしておりますと、新たに刻まれる歴史的な人物とこうしてお会いできて、年甲斐もなく興奮しております」


「くはは、じゃあ、悪かったな。ようやく現れた異世界の住人が、よりにもよってガラの悪い男でな」


「何を仰いますか。面白味のない普通の方が来られるほうが肩透かしをくらわされます。やはり、異なる世界、異なる文明を歩んだ方。多少常識はずれでなければ、こちらが困ります」


「へ~、言うじゃん。気に入ったぜ、カンチョーさんよ。んじゃあ、バッチリ案内してもらうか」



 結構、ノリのいいジーさんだな。腰も低くて枯れ枝のように細い、いかにもTHEジーさんって感じなのに、俺を見るその目は、夢を追いかけるガキのようにキラキラしている。

 博物館でオベンキョーなんて、最初は退屈極まりないと思っていたが、少し楽しくなってきた。



「いや、ヴェルト! ハンガー船長の件、結果だけでも教えて欲しいんで! てか、クレオ姫とかどうなったんで!」


「私もにゃっは気になる! お願い、結果だけでも教えて!」


「も~、なんか体の中がムズムズしてて、仕方ないのよ! ちゃんと言いなさいよね!」


「殿~~! 後生でござるよ~!」



 って、こいつら、気になるのはそっちの方かよ。ニートのヤロウも、テメエがここに来ようって言ったくせに。



「だから、話せば長いんだよ」


「じゃあ、何でワザワザ、ハンガー船長を登場させたんで! 区切りをよくするなら、お前がペットを守ってやる宣言して、向こうが惚れた。それだけで良かったと思うんで!」


「はあ? ……いや、それは俺がペットと話した瞬間の話であって、多分あいつが俺のこと好きだーってなったのは、その後、そのハンガー船長と……」



 多分そうだと思う。まあ、多分ペットも、あの後にあったアレが……


「さて、ではこちらへお越し下さい」


 と思ったら、ジーさんが物凄いやる気満々で俺たちをアテンドしようとしている。

 こんな状況で話せるわけねーし……



「じゃあ、話は後でな」


「「「「ハンガー船長とどうなった!」」」」



 って、しつこい。


「おい、あんま関係ねえ話をしてると、ジーさんが泣くぞ?」

「じゃあ、これだけは教え欲しいんで! その、誘拐犯のハンガー船長と色々あったみたいだけど、こうしてお前もペットも生きてるし……つまり無事だったでいいのか?」

「無事……んまあ、そうだな。ネタバレすると」


 無事………まあ、無事だな……。ニートの言うとおり、こうして俺もペットも生きてるし。


「でも、俺もあんま詳しくないんでアレだけど、そのクレオって子は、お前の嫁みたいに、天才で十勇者確実だったんだろ? でも、十勇者にそんな子居たか?」

「ん? ああ、………まあ、それはそれでな……」

「それはそれで? 何があった?」

「クレオって姫様は……死んだよ。随分昔にな」


 まあ、だからあんまり話したくないというか……この続きを話すと、『そのこと』にも触れなくちゃならないから……。

 あん時は俺も物凄いガキだったし、それにそのすぐ後だ……俺もあの事件のあれがきっかけで、前世の記憶を取り戻して……



「「「「………えっ?」」」」


「ささ、まず世界創生の前、紀元前のエリアをご紹介します」


「「「「ちょっ、………………………サラッと何をッ!」」」」



 少しだけ、なんか切ない気持ちになりながら館長の後を……って、ムサシたち口あけたまま呆然としてんじゃねえか!


「ご覧下さい。当時の我らの祖先は、あなた方の世界に住んでおりました。当時世界は、『人類』、『地上人』、二種のヒューマンが生息しておりました。まあ、中には、我らの祖先の手で、人と獣の遺伝子操作により生み出された『亜人』、ディッガータイプやエンジェルタイプ、アンドロイドなどの『新人類』等、徐々に増えたそうですが」


 案内されたその部屋は、部屋の至るところガラス張りされた展示コーナーが数多く設置されていた。

 広く、天井も高く、清潔感ある空間に大事そうに設置されているのは、棍棒や剣に杖など、この科学技術の発展した世界では珍しいと思われるクラシックなもの。


「ちょっと待てよ。魔族はいねえのか?」

「いいえ。本来であれば、魔族という種族は存在しておりませんでした」


 展示のガラスの向こう側に、世界の成り立ちのようなものを描いている写真が写っている。

 そこには、いくつも並ぶカプセルの中に、肉体の一部をドリルにしたヒト、背中から翼を生やしたヒト、耳が尖ったヒト、それを囲んでいる白衣を纏った研究者らしき人間たち。


「そして、失礼な話、あなた方の祖先は人類とは呼ばれておりませんでした。当時のクラーセントレフンではずば抜けた技術力や文化を所有していた我らの祖先を人類と呼び、文化的に進化の乏しかったあなた方を、我らの祖先は『地上人』と呼びました。まあ、時には『原人』と呼んでいたりしていたようですが。また、地上人側は自分たちこそ『人類』と主張し、逆に我々の祖先の文明や技術力を目の当たりにして、我々の祖先を『神族』と呼んだりと、ややこしい感じだったようですが」


 ムサシやニート、エルジェラの祖先は、元々は人工的に作り出された存在? そういや、幻獣人族は神族によって生み出されたとか言ってたが、亜人もそうってことか。

 しかも、それはファンタジー世界ならではの生み出し方ではなく、こんな試験管みたいなやり方で?



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