第508話 世界の終わりか人生の終わりか?

「さあ、これで終わりじゃないよ? 真に低俗な愚民たち、そろそろ己を開放したらどうだい? 血と殺戮に飢えた本性を剥き出しに、闇の王国の幕開けだよッ! アーハッハッハッハッハッハッハ!」



 助けるか? というか、止めるにしても、どうやって止める?


「でも、止めねえとまずい! もう、完全にノリノリ大魔王じゃねえかよッ!」

「どうやって!?」

「ああ? まず操られてる連中だが、要するにジャレンガの魔力をどうにかすりゃいいんだろ? なら、ふわふわキャストオフッ!」


 手遅れになる前に、まずは巻き添えくらった連中をどうにかしないとな。

 俺の魔法で、ジャレンガの魔力で操られている連中から、ジャレンガの魔法を引き剥がす。


「ん? ちょっとー、ヴェルトくん、冷めちゃうことしないでよーっ! いくら君が僕の義理の弟でも怒っちゃうよ、僕は!」

「って、その話はまだ生きてたのかよ! とにかくだ、もうライラックはほっとけ! 元の姿に戻って帰るぞ!」

「えっ? 滅ぼすんじゃないの?」

「俺はこの世界の争いはメンドクセーから興味ねえって言ったの聞いてなかったのかよ!」

「興味ないから滅ぼすんじゃないの?」


 ちげーよっ! そしてこいつ、普通に本気だ! 多分、俺が「うん」とか言ったら、今すぐにでもこの世界に隕石落とす。

 とにかく、僅かな刺激でもドカンだ。

 幸い、こいつもライラックをボコりまくって、少しはスッキリとしたはずだ。

 ならば、このまま落ち着かせて、どうにか元に――――――


「全隊一斉発射ッ!」

「了解! イーグルワン、発射!」

「了解! イーグルツー、発射!」

「了解! イーグルスリー、発射!」

「了解! イーグルフォー、発射!」


 ジャレンガの胴体に、巨大な物体が接近し、爆発を起こした。

 なんか………ミサイルみたいなものが、どこかから飛んできた。


「やったか! ……い、いえ、見てください! まるでダメージ受けていません!」

「馬鹿なッ! ッ、怯むな! 次弾装填せよ!」

「破壊光線の使用許可を!」

「おのれ~、一体どこから現れたか分からないが、怪物め! 今こそ、太古の料理・バーベキューにしてやるぜ!」

「新機動兵の出撃整いました! いつでも大丈夫です!」

「よし、『ニュージェネレーションサイボーグ兵』の力を見せてやれ!」


 あっ、なんか、警官の車っぽい飛行船が何台も上空に集結し、ジャレンガ目掛けて一斉攻撃しやがった。

 まあ、ジャレンガの月光眼の前には届かないんだけどな。

 とりあえず、俺が今思ったこと、それは「ヤベー、囲まれちまった」とかじゃなくて…………



「アハハハハハハハハ! じゃあ、滅ぼしちゃおうか!」


「だああああっ、余計なことしやがってええええええッ!」



 人がせっかくジャレンガを宥めようとしたのに、消えかけた炎に油を大量にドバドバつぎ足しやがった!

 もうダメだ。ニタリと笑うヴァンパイアドラゴンの額には『#』こんなマークの怒りの血管が浮かび上がってかなりイラっときてる。

 だが、そんなパニクる混乱の中で、どこかの電波に乗ったのか、微かにある声が空気を伝わって俺の耳に入った。



『本部、応答せよ。緊急事態だ。ライラック皇子がやられた。ああ、信じられないが、特殊改造を施した皇子を全く寄せ付けない。クラーセントレフンを、敵に回すわけにはいかない。我ら野望の成就のため、奴らをヴァルハラから引き剥がす必要がある。奴らが他国に懐柔される前に、どんな手段を使ってでも奴らを買収するのだ。そう、リーダーと、交渉役の姫様に伝えて欲しい』



 どこからだ? どこから聞こえた、今の声は!

 だが、辺りを見渡しても、飛び出してくるのは、両腕にガトリングを装着したヘンテコな、メタリックガイコツ集団。

 あっ、これがまさか例の新型なんたら? っていうか、このモデルってまさか……と思ったら、ニートが目を輝かせてる。「ターミ兄ちゃんだ」と呟きながら。

 ああ、やっぱりな。は~~~~、なんつう世界だ。あんなものを実現化してるとはな。


「さあ、新機動兵よ、平和を乱す怪物に、ヒトの進化の極みを見せてやるのだ!」


 ったく、メンドクセーな、本当に。

 まあ、仕方ねえ。


「おい、ジャレンガ、瞬殺してとっととズラかるぞ」

「えええええ~~? 滅ぼさないの~?」

「キリがねえ。それに、ちゃんと元の世界に帰してもらうまでは、もうちっと大人しくしねーとよ。かなり手遅れだが」

「ん~~~~~~~、そうだね~…………」


 ジャレンガは攻撃されただけに、かなり不満げな様子だ。

 だが、これ以上の戦闘は、メガロニューヨークが廃墟になりそうで困るから、なんとかしたかった。

 すると、ジャレンガは少し唸ってから……



「それじゃあ、ヴェルトくんが『オリヴィア』と結婚してくれるならいいよ?」


「……………………誰?」


「どうする! アハハハハ! さあ、どうする? 君はウンと言うだけで、この世界は救われる! アハハハハ、さあどうする? どうするんだい? 答えたら? 僕の妹と結ばれて、ちゃんと子種をヤヴァイ魔王国に提供してくれるんでしょ? アーハッハッハッハッハッハ!」



 それは……この世界は助かっても、俺の世界が滅びそうな選択なんだが………

 思わず突きつけられた条件に、俺もどう答えるべきか、いや断るべきなんだが言葉を失ってしまった。

 そうしているあいだにも、メタリックガイコツ兵たちが俺たちに向かって襲いかかってくる。

 どうする? でも、今は言葉だけでも合わしておかねえと、かなりまずいことに……………


「も、持ち帰って検討する!」

「まっ、それでいいかな? 甥っ子か姪っ子が生まれるのを楽しみにしてるよ?」


 とっ、ニターっと笑って元の姿に戻ったジャレンガ。もう、ほんとなんなんだよこいつは!

 でに、こう言わねえと、本当にヤバかったんだから。

 だからよ、ニート、お前はそうやって「ケッ、終わりのないハーレムギャルゲーてなにそれ?」なんんつって、軽蔑の眼差しで見るな。

 ムサシ、そんな「殿が、それを、望まれるのでしたら、拙者は何も言いませぬ」なんて寂しそうな顔でつぶやくな!

 んで、ペット! 「バカ……イジワル……」って、別にお前関係ねえだろうが!


「くそ、なんか人生詰んだ気もするが、とりあえず逃げるぞ」

「はいは~い、じゃあ、いこっか?」


 とりあえず、ジャレンガもアッサリと普通の状態に戻ってくれたし、今はこの場からトンズラするのが先だ。

 俺たちはすかさず、五人固まって、この場から……



「そこまでよ!」



 ん? 



「目を閉じるっ!」



 それは、突如聞こえた声。そして思わず反応しちまった俺たちが目を閉じた瞬間、瞼の向こうに強烈な閃光が炸裂したのが分かった。


「ぐわあああああっ!」

「な、なんだ、これは!」

「誰だ、許可なく『ビッグバンスタングレネード』を使ったのは!」

「目がァ! め、目がああああっ!」


 閃光弾が炸裂したのか! でも、一体誰が?



「これ以上は問題起こさないで! 早く乗って! 今のうちに逃げるから!」



 えっ? なんで? 

 俺たちの前に突如現れた、一台のスカイカー。

 スカイカーなんて未来的なものではあるが、その車体、そして車のボンネットについているエンブレムは見たことある。

 前世で、バイクの免許が欲しい時に、多くのバイクや車の雑誌を眺めていたから、分かる。っていうか、車に詳しくなくても分かる。

 超高級車のポルシャ。ポルシャ・パンナメール。ツーシートが主流のポルシャでは珍しくフォーシートのフォードア。

 だが、その馬力はそこらのセダンとは比べ物にならない、一千万円超の高級車。



「あんたたちは五人ね。狭いけど、とりあえず早く乗って!」



 車のウインドが下へ下がる。すると、運転席に座っていたのは、意外な人物。


「あれ? この女って、確かあの煩い八人組の一人だよね?」

「おお………なんで? つうか、運転していいのか? この世界の免許取得は何歳からだ?」

「しかも、お姫様が自ら?」

「こ、これは、例のジドウシャとやらでござるな!」

「うそ、なんで、あなたが?」


 なんでここに? 

 そして、もう一つツッコミ入れるとしたら……なんで、車体が『ピンク』なんて悪趣味なんだ? 自分の名前と同じだからって。



「つうか、なんだよ、この車。こんなもんに乗るのか?」


「早くする! 私だって本当は車なんて嫌いだけど、仕方なかったの! とにかく飛ばすから、しっかり捕まってて!」





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