第499話 しりあう
「さあ、こんにちは! クラーセントレフンの友たちよ! 僕様は、ヴァルハラ皇子にして『新党・自由友愛党』の党首、キャッチコピーは汝のお尻を愛せよ、自由な恋愛と友情です。恋愛に資格が必要ですか? 性交渉には全て清らかな愛が必要ですか? 今の社会はなんですか? 五十歳の童貞が男としての意志を無くして弱体化しています。それは、人の営みとは思いません! 自分にね、嘘をついたらダメなんですよ! だからこそっ!」
そして、何でそこで俺を見る。
「ヴェルト・ジーハさん。さっき、暴露されたあなたのお嫁さんの話を聞きました。実に感銘を受けました。人数も関係なく、種族も関係もなく愛を育むあなたの生き方は、世界は違えど感銘を受けました! あなたもこの世界を見て、思うでしょう? 人種? 相性診断? 資格? 男同士はダメ? くだらないと思いませんか?」
「待て、最後にテメエは何をサラッとぶち込んでんだ!」
「はっはっはっは、これは素晴らしい! 男同士とブチ込むをかけたギャグを言うとは、文明の差はあれどユーモアのセンスは先進的だ! 是非とも私と深いお尻合い、もといいおホモだ……友好を育んでもらいたい」
あっ、こいつ……確定的だわ。俺は恐る恐るピンクをチラッと見た。
すると、何だか異形を見るような目で頷いた。
「ライラック皇子はソッチ方面の御方との噂が……」
やっぱりかよ!
いかんな。いくら公式の場とはいえ、もはや握手すらしたくねえと思っちまった。
「いい加減にしないか、ライラック! そもそも、お前は今、証人喚問中のために、一切の議員としての行動を禁じられているのだぞ! お前が支援しているフザけた協会が、レッド・サブ・カルチャーとも関わりがあるのではないかという疑惑も理解しているのか!」
「はは、カメラや主要国の前でお父様も恥知らずな。それと、協会を馬鹿にしないでもらいたいね。『彼女たち』は、この縛られた社会で過去に滅んだ至高の芸術を愛する者たち。その志に僕様は共感しているのですよ」
「その金がテロリストに流れているかもしれんのだぞ! いいか、もはや貴様など我が息子などとも思わぬ! しかるべき場で、必ずお前を裁いてくれるッ! 覚えておけ! そして、今すぐこの場から立ち去れい!」
とにかく、なんかヤバそうなんでかかわらない方が良さそうだ。
だが、問題はそれだけに留まらない。
このライラックとかいう男。
このあと、俺たちの世界なら誰もが予想だにしないことをやりやがった!
「ふふふ、あなたも可愛いお尻をお持ちですね、魔族の御方」
「はっ?」
「そして、なるほど、魔族と呼ばれるだけはあります。その魔性の魅力的な肌は悪魔のようで、キスしたくなりますね」
ジャレンガの頬に手を置いて、まるで女を口説くかのような爽やかイケメンスマイルで微笑むライラック。
その瞬間、俺もニートもペットも全員椅子からひっくり返っちまった!
「お、おいっ! 馬鹿、おま、なんつーことをっ!」
皇子に馬鹿とか言っちまったが、もう遅い!
「ねえ、……引き裂き殺すけどいいよね?」
「んっ?」
次の瞬間、ジャレンガの右腕のギプスが爆発して、中から異形のドラゴンの腕が飛び出して、その鋭い爪で、一瞬にしてライラックとかいう男の顔面を深く切り裂いたッ!
「いいいいいいいいいいいいいいっ!」
「や、やりやがった……」
「きゃあああああっ! ライラック皇子!」
これは、完全に手遅れなほど、深く抉りやがった! いや、ジャレンガにあんなことしたら当たり前だけど、この事態はマジいぞ!
よりにもよって、この国の皇子の顔面を切り裂いて、パーティー会場を鮮血に………ん? あれ?
「おおおおおおお! おおおおおっ! 子供の頃、絵本の中でしか見たことのない、悪魔の腕! それは本物かな?」
顔面を引き裂かれ、ズタズタにされたはずのライラック。
しかし、一切の血を飛ばすことなく、ズタズタにされた表情のまま、ジャレンガの腕に興奮したように声を上げて居た。
「それにしても、コミュニケーションが苦手ですぐに手が出ちゃうツンツンしたところ、可愛いですね~、そういうのを『ツンデレ』というのでしょう? いや~、あなたたちとは是非お尻合いになりたい」
「………………………君は」
ッ!
俺たちは、ようやくくだらないパーティーの雰囲気から脱して思わず立ち上がっていた。
これは、まさか! 以前、ラブやマニーが肉体を改造した、『あの技術』か?
「ふふ、少し目立ちすぎましたね。今日は挨拶だけのつもりでしたので、僕様もここで失礼しますよ」
ペロンペロンに引き裂かれた肉体が自動的に修復されて元の姿に戻ったライラック。
やつは結局、場をかき乱すだけかき乱して、この場から去ろうとする。
しかし、その時、
「今夜ここでお待ちしておりますよ、ヴェルトさん」
さり際に俺のスーツの胸ポケットに、一枚のカードをさり気なく入れていきやがった。これは?
「ねえ? 君さ、帰れると思っているの?」
と、その時、このまま事態は収拾するかと思われたのに、こいつはそんなことなかった!
「おやおや、困りますねえ、魅力的な男の子に、帰したくないと言われるなんて、基本受身の僕様には堪らないね」
んで、こいつの返しもヤバイだろうが! ニコっと笑いながら、顔面に血管が浮き上がっているジャレンガがヤバイ!
「うん、殺そうかッ!」
あのバカ、このパーティー会場を吹き飛ばす気かよ!
月光眼を発動させようと―――――
「ふふ」
「ッ!」
その瞬間、何が起こったのかわからなかった。
ただ、ライラックが笑みを浮かべながら右手を前に差し出そうとしただけだった。
しかし、それだけで、何かに勘づいたのか、攻撃を仕掛けようとしたはずのジャレンガが、ものすご勢いで後方まで飛び退いた。いや、逃げた?
「……君………」
ジャレンガの表情が変わった。残虐な笑みで相手を滅ぼそうとする表情じゃねえ。
冷静に相手を分析するクールな表情に変わった。
その反応を見て、ライラックは余計に嬉しそうに笑った。
「ハハハハハハ! 本当に素晴らしい。文明を享受したこの現代社会にはない、正に、野生の勘だね。そして正解だ。もし………僕様の『プラズマ砲』を正当防衛として撃っていたら、君もただではすまなかった」
プラズマ………?
よく分からん。だが、ジャレンガもそれだけで、もう飛び出そうとしない。ただ、睨んでいる。
「ふふふふ、ではまた。可愛いお尻の男の子達♪」
そんな怪しい言葉を残して、ライラックは立ち去った。
一体なんだったのか? 突然のことに、会場中からホッとしたようなため息が漏れザワつきだし、ヴァルハラ皇が全体に深々と頭を下げる中、ただジッと、ライラックが立ち去った扉を見ながら、ジャレンガが呟いた。
「彼………たぶん、人の身だけど………ルシフェルさんと似た性能を持ってるね………」
これはまた、ちょっと面倒な奴が現れたってところかもしれねーな。
んで、
「ん? なにかあったのだ? 集中してて何も見てなかったのだ。のう、シアン姫。はは、おぬしも良好なのだ♪ テーブルの下、大変なことになってるのだ♪」
「はう、ん、ヴぃ、ヴィッチおねいざま、おねがいでし、もう、いじめにゃいで」
「あっ、そうなのだ! とりあえず今晩こやつで遊んだら、嫁がいなくてご無沙汰なヴェルトの夜伽に、こいつをくれてやるのだ! そんな気遣いの出来るわらわに感謝し、ヴェルトもきっと国への入国を許してくれるのだ!」
なんか、約二名ほど変なのが居るが、聞かなかったことにしよう。
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