第498話 懇親会


「クラーセントレフンには料理マシンなどがないのですな」


「料理マシン~?」


「そうです。我々の世界での生活に欠かせない、炊事家事洗濯、送迎なども含めた機能を兼ね備えたマシンやアンドロイドなどですよ」



 そ、そういうことかよ! なんつうことだ! この世界、そんな風になってんのかよ。

 ロボットぐらいは居ても驚かないが、生活のほとんどがロボだより? ニートの奴なら喜んで食いつきそうな話題だが、これは何とも…………

 そして、相変わらず時代遅れの猿扱いに俺を小馬鹿にしてるおっさんどもに、そろそろ俺もイラっと来た。



「へ~、そいつは便利だな。まあ、そうか。機械が便利すぎる世の中だから、この世界の奴らは全員青瓢箪で、昼間みてーに停電でもしたら全く役に立たねえってわけか」


「「「「「ぬぬっ!?」」」」」


「くはははは、皮肉なもんだな。むしろ、そういう技術を全部とっぱらって、オモチャの力だけで世界を革命しようなんて馬鹿なことをした連中の方が、まだ行動的だな」



 先に人を小馬鹿にしてきたのはそっちだ。さあ、どう出る? プライドだけは一人前か、連中もかなりムカッとした表情をしてやがる。

 さて、どうなる? 向こうの世界じゃ、こういうので簡単に一触即発になったがこの世界は?



「ふっ、ふふ、はっはっはっは、これは一本取られましたな。確かに、昼間はあなたたちの活躍がなければどうなっていたことか。常に進化し続ける技術とともに、それを悪用された際の対処法が常に後手に回ってしまうのが、我々世界全体の悩みどころでもあります」


「ぬっ」


「あなたの話は面白い。どうか、色々と教えていただけたらと思います。ささ、料理が冷めないうちに」



 へえ、受け流した。プライド高そうな高級官僚チックな連中は一瞬だけムッとしたようだが、すぐに笑って受け流したか。

 まあ、当然だろうな。

 でも、これだけで、やっぱり俺たちの世界とは違うということが分かる。



「さて、ヴェルト・ジーハさん、そのことなのだが、あなたは先ほどの話では、そちらのお嬢さんをエンジェルタイプの者との間に成したとのことでしたが、その他にも、その…………」



 少し言いにくそうにする王様だが、それは他の連中も聞きたかったのか、体がビクッと跳ねてやがる。

 ようするに、お前、その歳で子供だけじゃなくて、色んな種族の嫁が居んのかよ的な質問だよな。



「俺たちは天空族って言ってるが、そうだな。天空族の皇女様、故郷のお姫様、人類最大国家のお姫様、魔族の姫様、ダークエルフの姫様、竜人族の姫様と、数ヶ月以内に結婚式をやる予定になってる」


「な、なんと! そんなことが許されるのですか、クラーセントレフンでは!」


「いや、まあ、俺もどうかと思うよ。普通、嫁なんて一人いりゃ十分だからな。でも、まあ、なんだ? 世界を旅したり、戦争したりしているうちに、そうなった」



 あんま言うのも恥ずかしいことだが、ここはもう開き直って言ってやった。

 そして、重婚とか、一夫多妻とか、そんな常識はないどころか、むしろ結婚なんて年齢制限だとか審査までやるような世界。

 非常識すぎる文化に驚きはデカイだろう。



「し、しかし、我々の歴史書の中では、クラーセントレフンでは異種族同士の戦争がいつまでも続くとされていましたが!」


「まあ、俺が特殊なケースなんだよ。だから、大層な技術を持っていたご先祖様たちも、俺みたいなバグまで見抜けなかったってことだ。まあ、要するに、世界も人生も、どうなるかなんて簡単には分かんねえってことだ。だから、面白いんだよ」


「だが、それでも結果的に、あなたが異種族同士の戦を終わらせたと?」


「ぶっちゃけ、それは語弊があるな。俺は異種族同士の戦を終わらせたんじゃない。俺はただ、異種族だろうと混血だろうと、仲良くなりたい奴らだけ集まる国を作っただけだ。まあ、今も建国段階なんだがな。だから、戦争は俺が止めたんじゃなく、周りが勝手にやめただけだ」


「く、に、国を作った! その若さで? ベンチャー企業を立ち上げるどころではないですぞ? 国を作ったと!」



 こういう会話、あのアイボリーとかいう戦隊組や、聖騎士たちも含めてこれまで何度もしてきた話。

 その度にめんどくさくて、こうやってハショッた。

 だが、それでも俺の言葉に何かそれぞれ思うところがあったのか、全員口を紡いで、少し会話が途切れた。

 時折、メッチャコソコソと「やはりこれはアタリだ」「他国よりイニシアティブを取るには是非とも関係を構築を」「相性診断の結果を改竄して、早速今夜にでもピンクを献上するか?」「陛下、未成年純潔保護法はいかがいたしましょう?」「超法規的措置適用もしくは、年齢改竄」とか、チラホラ聞こえるが、俺には全部丸聞こえだからな。

 しかし、すぐにその沈黙は破られた。


「ねえ、あんたは………………」

「ん?」


 それは、ずっと黙っていたピンク。

 俺の言葉を聞いていたのか聞いていないのか分からなかったが、どうやらちゃんと聞いていたようだ。

 何かを求めるような顔で………


「人生も世界もどうなるかなんて分からなくても、それでも、……戦いたくない人と戦わなくちゃいけない、その未来が確定していたら……そういう事態はどうすんの?」


 俺に何かを言って欲しいのか? 態度のワリーお姫様が何かを訴えるかのような、縋るような目で俺に問いかけた。

 そして、俺は思い返す。

 戦いたくない奴と戦わなくちゃいけない時。それは、相手が強いとか怖いとかじゃなくて、もっと違う意味で戦いたくない奴ということだろう。

 たとえば、親友とか、恋人とか………

 そういう意味で俺が真っ先に思い出したのは、ラブに裏切られた時だったか………



「大変楽しんでいるようだね。僕様も参加させてもらっても?」


「「「「「「――――――――ッ!」」」」」



 その時、俺が自分の考えを述べる前に、突如会場に響いたその声が全てを遮った。



「ふふふ、やあ、楽しそうだね。でも、ずるいじゃないか。世界を超えた友愛の場を、もっと開放しないだなんて」



 パーティー会場の扉を開けて、とある一団が中に入ってきた。

 ビシッとしたスーツでキメて、周りはサングラスをかけた強面で固め、一人の男が機嫌よさそうに会場の注目を一斉に向けた。

 そしてそれを率いて、今、言葉を発したのは、その一団の先頭に居る、唯一なよっちい細身の男。

 ひょろくて、薄紫のクセを付けたマッシュスタイルの髪型は、どこか時代を先取りの若者を思わせる姿だった。

 中性的な顔立ちは一瞬女に見紛うほどのものだが、間違いなく男。

 その男が現れた瞬間、リガンティナが座るヴァルハラ皇国とかいう国の連中が慌てて立ち上がった。


「ライラック兄さんッ!」

「やあ、ミント。兄であるこの僕様を呼んでくれないのは頂けないな」


 ミントとかいうアイドル姫のリーダー格が、兄と呼ぶ。つまり、こいつはこの国の王子様ってわけか。

 しかし、それだけにしちゃ、会場中が何やらザワついている。


「あれは、ライラック皇子!」

「なるほど、あれが噂の、皇子か」

「ヴァルハラ皇国の皇子でありながら、野党の若手を集めた組織、『自由友愛党』の党首」

「ほう、恥知らずの狂った皇子か」


 あまり、よろしい評判じゃなさそうだな。

 確かに、どことなく雰囲気がこれまで出会った青瓢箪どもに比べ、不気味な何かを感じる。


「このめでたい席に、お前のような奴が来るな! 党の宣伝行為のつもりか、ライラック!」

「ふふふふふふ、老害は下がってください、お父様♪」


 国王と思われる人物が立ち上がり制止しようとするが、にこやかにその横を通り過ぎる。

そして、


「やあやあやあ」

「ッ!」


 一瞬、空間が揺れ、突風が駆け抜けて、それは俺の目の前でいきなり止まった。


「ッ、殿ッ!」

「ヴェルトくん!」


 速いな。スーツの力か? 俺を驚かすつもりだったのか良く分からんが、そいつは俺の目の前に現れて、ニッコリと笑って手を差し出した。


「僕様は、ライラック。ライラック・ヴァルハラだ」


 まあ、それほど驚くものでもねえし、俺も別に臆することなく立ち上がって手を差し出してやった。


「ヴェルト・ジーハだ」


 すると、俺の態度に何かツボにハマったのか、ライラックという男は嬉しそうに何度も頷きやがった。


「うん、うん、うんうん! あなたが、クラーセントレフンより現れた新たなる友。そして、自由な恋愛を謳歌する英雄ですな?」


 ぬっ、さっきの俺に関する話は既に色々と流れているようだな。皮肉か? 


「なるほど。凶暴で荒々しい雰囲気の中に、どこか強い意志のようなものを感じる。この世界の男とは確かに違う。なるほど。良い男だな。お尻の形も最高だね」


 皮肉じゃなかった。普通に、嫌味ではなく褒めている様子。

 爽やかな雰囲気で俺を……ん? 

 ちょっと待て。今、なんか最後のほうに変なことを言わなかったか?



「他の方たちも、素晴らしい個性を感じる。バスティスタさん、うむ、抱かれたい肉体だ」


「………なに?」


「あなたとも、良き、お尻合いになられたらと思います」



 お、お知り合いだよな?

 はっ? えっ? お、おい!

 また、加速したのか、俺の前から一瞬で消えて、無遠慮にバスティスタの近くまで接近し、肩に手を置いて、怪しい手つきで揉んだ。


「お兄様ッ! ここをどこだとお思いですか! 世界が注目する中で、ヴァルハラを汚すような行動や言動は謹んでください!」

「いやー、ゴメンゴメン、悪気は無かったんだ。彼らがあまりにも魅力的で、僕様のハートが止まらなかったのさ」

「恥知らずのバカ息子め! お前は、さっさとこの場から立ち去れ!」

「お父様、恥知らずで結構。僕様の考えでは、自分の意志を押し殺すことこそが真の恥知らずと思うのです」


 一体、コイツ何なんだ!

 ただでさえ、アイドルだとか各国だとか、もはや名前も状況も、俺の頭や記憶力じゃショート寸前なのに、ここに来て、何でこんなのがブチ込まれてくるんだ?


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