第496話 アタリ

「じゃあ、魔族のお兄さん? 私たちの席に来て欲しいってね♪ 私は、マルーン。ジパン帝国のマルーン・ジパン♪ よろしくってね♪」

「殺すよ?」

「えっ?」


 ジャレンガ! 次の瞬間、俺は反射的にツッコミ入れていた!


「って、アホか、ジャレンガ!」

「……ヴェルトくん? 君、今、僕の頭を叩いた?」

「叩くわ! お前、いきなり月光眼発動とか、ほんとやめろよな!」


 急に俺がジャレンガの後頭部を叩いたことで、会場中がいきなりザワつきだしたが気にしてる場合じゃねえ。

 つうか、おかしい。なんか、このパーティーになってから、俺の気苦労がものすごく耐えねえ。


「僕さ、ああいう天然的な女は嫌いじゃん?」

「知るか、今は我慢しろッ! 大体、天然ならクロニアの方が上だろうが!」

「うん。だから、僕はクロニアは嫌いじゃん?」

「えっ、そうだったのか……お、お前ら仲間なんじゃねえの?」

「は? 仲間だと好きにならないとダメなの?」

「いや、知らんが……とにかく、暴れるならもうちょいしてからだ! 昼間暴れたんだから少し我慢しろ!」

「……ふん、まあ、未来の義弟がそこまで言うなら……」


 なんか、暴れる前提で話をしている気もするが、いや、今はこうとしか言いようがねえしな。


「あの、ダメってね? その、私の国の珍味も用意してるってね♪」

「………何その喋り方。イライラするよね? ねえ、ヴェルトくん?」


 にしても、ん? おい、ちょっと待て、ジャレンガはさっきなんて言った? 未来の義弟?

 あっ! そうか、ジャレンガの妹と俺が結婚したら……って、なんねーよっ! 


「アプリコットです。ブリッシュ王国のアプリコット・ブリッシュです」

「ペット・アソークです。えっと、元の世界、エルファーシア王国のアソーク公爵家のペットです」


 とやり取りしているあいだに、こっちはお互いペコペコしながら平和に決まった様子のペット。


「あの、剣士の女の子、なんで『ござる口調』なの?」

「あっ? 何がワリーんだよ。そっちは『にゃっは口調』のアホだって居るくせに」


 そして、最後に残った俺は……


「まあ、いいや。じゃあ、とりあえず来て」

「………………」


 なんか、一番やる気のなさそうなピンク頭の女だった! 昼間少しだけ話したことあるが、何だか態度が悪いぞ、この女! ツリ目だし!



「一応、自己紹介。ピンク。ピンク・パリジェン。パリジェン王国出身」



 何か必要最低限の自己紹介だけしました、あとはついて来い的なこの女の態度はなんだ? 昼間は俺たちにあんなに驚いていたくせに!


「く~、ピンク姫、本当にこういうのは真剣に動いて頂かないと」

「よりにもよって、一番何もなさそうなヒューマンか。身分も低そうだ」

「は~、真っ先に動いていただかないから、最後のハズレを」


 と、ピンク女の席から露骨にガッカリしたような声。な、な、なんっ!

 ジャレンガを止めたくせに、俺の方から暴れたくなる気分だ。


「えへへ、ねえ、コスモスたちもいこうよ~」

「うぐっ」


 コスモスがいなければ、ホント怒鳴ってた。

 だが、だからこそ、俺もここは大人に、深呼吸して、オトナな対応を……


「あ、あなたは昼間の」

「コスモスだよ~!」

「そう、よろしく。でも、あなた、席はアッチ」


 と、その時、コスモスに気づいたピンクがリガンティナの方を指差した。

 そのテーブルも、そしてそこに居るミントとかいう姫もこっちに気づいてコスモスを手招きする。

 なんでだ?


「え~、何で?」

「なんでって、お母さんと一緒の方がいいでしょ?」


 と、告げるピンクと会場の視線で、俺たちは納得した。ああ、そういうことか……



「違うよ~、ティナおばちゃんは、コスモスのおばちゃん♪」


「えっ?」


「コスモスのマッマはお仕事が忙しいの。だから、コスモスはパッパと一緒なんだよ?」



 その発言に、会場全体が「?」に包まれたのが目に見えて分かった。

 そして、ピンクを始め、色々な奴らが混乱していることも。


「え、えと、あ、あなた、エンジェルタイプで、その、エンジェルタイプに父親は……」

「事実だよ」

「えっ!」

「こいつは、俺の子供だよ。俺と天空族の女との間のな」


 だから、俺も事実は事実だとコスモスを抱きかかえながら言ってやった。

 まあ、当然、信じられないと反応が出るけどな。


「そんな馬鹿な!」

「エンジェルタイプは女性型で単独で子を産むはず! いや、確かに交配による出産も可能だったような気もするが」

「にゃっは嘘! そんなの嘘って昼間も言った!」

「大体、あの人、どう見ても二十歳以下にしか見えないし!」


 と、姫も政治家も含めたザワめきが起こる中、リガンティナが立ち上がって凛とした声を発した。



「事実だ」



――――――――――ッ!



「その男、ヴェルト・ジーハは、我が天空族の住む天空皇国ホライエンドが称えし天地友好者の称号を持ち、我らが皇族の一人であるエルジェラと結ばれ、そして二人の間に生まれたのが、そのコスモスだ。だから、私の義弟にもあたる」



 会場が一瞬で静寂に包まれたのが分かった。だが、その数秒後…………



「「「「「ええええええええええええええええっ!!??」」」」」



 会場中から爆発が起こったかのような驚きの声が上がった。


「馬鹿な! ヒューマンが、エンジェルタイプと結ばれて子を成した?」

「しかも、王族だと! あんな、チンピラみたいな男が?」

「まて、二十歳には見えないが、いや、そうか、向こうの世界には結婚許可制度がないから」

「あらあらまあまあ!」

「そ、そんな、ななななな、なんてやらしい!」

「えっ、素敵じゃない?」


 なんか微妙に聞き捨てならない声も聞こえた気がするが、会場の驚きはそれだけではなかった。



「ちょっと~、天空族だけじゃないでしょ? ヴェルトくんは、僕たち魔族最強国家のヤヴァイ魔王国の王族である僕の妹とも結婚するんだし? あっ、ウラ姫もそうだったけど?」


「「「「はっ? ま、魔族もっ? って、何で複数っ!」」」」」


「これこれ、魔族だけじゃないのだ。ヴェルトは亜人大陸の誇る最強の四人、新四獅天亜人の一人にして最後のダークエルフのアルテア姫とも結婚しているのだ」


「史上最強の亜人、武神イーサム様のご息女でもあるユズリハ姫もでござる! 我が殿はそれだけ我ら亜人においてもとても尊い御方でござる! …………ボソッ、そして、拙者の……えへへへへ~♡」


「「「「なんで亜人まで!」」」」


「そ、それだけじゃないです! ヴェルトくんは、五歳のころから、私たちの故郷、エルファーシア王国のフォルナ姫と結婚することが決まっているんですから!」


「人類大陸最大国家、アークライン帝国姫のアルーシャ姫もそうだな」


「「「「いいいいいいっ!!??」」」」


「まっ、要するに世界を征服した、リア充ヤンキーなんで」



 次々とみんながブチ込む発言に、つか、何で張り合ってるかのように言ってるかは分からないが、とにかくそれはもはや会場を絶句させるには十分だったようだ。

 やがて、誰もが今みんなが言った言葉に頭を混乱させながらも、たった一つだけ同じことを誰もが思ったことを、俺は理解した。




「「「「「引き込むなら、あれが一番のアタリだったのか!」」」」」




 誰が、アタリだよ。アタリとかハズレとか、不愉快な奴らだ。

 そんな空気の中、少し不愉快な気持ちのまま、俺はピンクとかいう女の居る、パリジェン王国の席に座ることになった。

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