第470話 いきなり一触即発
俺は、半年振りにガチツッコミを入れた気がした。
「なに? 僕の妹が嫌なの? 何様のつもり? 殺しちゃうよ?」
「いや、受け入れようもんなら俺が各方面から殺される。つうか、どうしてそんなことになってんだよ」
「いいじゃない。今更一人二人増えても変わらないでしょ?」
「結婚てそういうもんなのかよ! 何でこれ以上、余計な戦争の火種を増やそうとするんだよ。つうか、今の嫁六人に知られた時点で戦争始まるしよ」
そう、嫁六人という特殊な状況下ゆえ、なんか知らんが今の嫁たちは団結力が凄いのだ。
お互い独占欲を剥き出しにしたり、嫉妬したりという状況もかつてはあったが、今では一致団結している。
例えば、今後の正式な結婚式のスケジュールやら手配やら、自分たちの子作りのローテーション等の生々しいものまで全部だ。
すると、
「大雑把に六百以上」
……はっ? いきなり何だ? クールに一言呟いたハウは、そのまま続けた。
「ヴェルト、この数、何だか分かるかい? 半年前から、このエルファーシア王国宛に届けられた、あんたへの縁談の話しだよ」
「……なにいっ?」
「たまに、あんたの作った国からも経由して届けられている。どれも、各国の王族から貴族、亜人の部族の長の娘とか、数限りなくらしいよ?」
「……初耳なんだけど、どうしてそんなことになってんだ?」
「フォルナ姫たちで情報を止めてんのさ。ただ、あまりにも有益だったり、無下に断ったりすると後で面倒事になりそうなのには、あんたの秘書の元マッキーラビットことラブ・キューティーを交えて対応について検討中だってさ」
いや、そんなこと聞いてねえよ。
どうしてそんなことになってんだ?
「それだけ、あんたの存在は重要視されてるってことさ。半年前、無理やり神族大陸に国を作り、各種族の主要人物に承認されたあんたと繋がりを持つことは、これからの世界で非常に重要な意味を持つとされているのさ」
俺がラーメン作ってる間に、そんなことになってたとは………
「そういうことだから、分かるよね? 僕たちヤヴァイ魔王国も、君と繋がりがないのは嫌なわけで、逆を言えば君だってヤヴァイ魔王国とつながりがないのは、あまりよろしくないんじゃない?」
「よろしいよ。何でテメエらと仲良くしなくちゃいけねーんだよ」
「そうかい? クロニアは、ヤヴァイ魔王国と君の国がそういう繋がりを持ってもらわないとって、言ってたよ?」
なに? クロニアが?
半年前、俺の最終決戦の相手であり、前世のクラスメートであり、そして俺がかつて惚れていた女。
今は、ヤヴァイ魔王国で世話になってるって噂だが、そのあいつが?
ちょっと待て、あいつがそんなこと言ったのか?
「お、おい、あの女はその……なんだ? 俺に嫁増やせて的なことを言ったのか?」
「今更何人増えてもいいだろって言ってたよ?」
地味にショックだ……仮にも、普通に惚れていた女にそういうことを言われるとか……傷つく……
「ただ、妹の件は置いておいて、クロニアはクロニアで君に少しお願いがあるみたいだよ?」
「お願い?」
「そして、僕がワザワザここまで来たのも、それが理由さ」
何だか猛烈に嫌な予感がするんだけど。
ジャレンガほどの超大物が、ワザワザここに来る理由?
「君のお嫁さんにするはずの僕の妹なんだけど、実は今、行方不明なんだよね、困るでしょ?」
「はっ? って、そういえば、半年前の最終決戦にも居なかったしな……ひょっとして、あの戦いで消息不明とか?」
「ううん。それ以前に、クロニアの自由ぶりに感化されて、世界を探検中なんだよね、どう? ムカつくでしょ?」
「おいおいおいおい、そんな問題児を人に押し付けんなよな。つか、そういうのはせめて見つかってからしろよ。いや、仮に見つかったとしてもお断りだがよ」
「あ~、それなんだけどね、噂では人類大陸のどこかに居るらしいんだ。でも、僕は人類大陸に詳しくないし、歩き回ると大騒ぎになるし、旧人類大連合軍からは嫌われてるし、友達も居ないから困ってるんだ。実際ここに来るのも大変だったしね」
人類大陸をうろつくと大騒ぎになる? 当たり前だ。かつての戦争では、人類の勇者を始め、数多くの被害を人類に与えた超危険人物。
仮に戦争が休戦状態とはいえ、こいつ自らが人類大陸を自由に歩き回る等、いつ爆発するかもしれない爆弾を無差別に設置するようなもんだ。
んで、それは分かったけど、何で俺を見る?
「んで?」
「だからヴェルト君、僕と一緒に妹を探しに行ってくれるよね?」
行ってくれないか? じゃなくて、行ってくれるよね? なにそれ。何で俺が行くことが前向きになってんだよ。
「っざけんな! 人がせっかく、女房のストレスから解放されて、娘と妹とムサシに癒されて日々幸せなところに、何でテメエと旅行に行かなくちゃいけねーんだよ!」
「チェーンマイル王国に居るっぽいんだけどさ、僕、全然詳しくないんだ」
「聞いてねーし! つか、行かねーし!」
「はっ? なにそれ? 人がこれだけ下に出ているのに、そういう態度を取るの? ムカつくね? 殺しちゃうよ?」
「あっ? その態度のどこか下に出てんだ? つか、やるならやるぞ?」
冗談じゃねえ。こんな奴と行動するとか、息がつまる。つうか、単純に行方不明の妹を探すの手伝えならまだしも、俺と結婚させるために見つけるだ?
んな理由で旅に出てみろ。落雷落とされて、蹴りくらわされて、氷付けにされて、邪悪な魔法をくらって、鋭い歯で噛み付かれて、最後は天使の力をぶつけられる。
その情景がリアルに想像できるだけに、ジャレンガの話しは、文字通りお話にならないってもんだ。
「その通りだぜ」
「そうね。これ以上、ヴェルト君に余計なことをさせないで下さい」
すると、俺の幼馴染たちも、力量では圧倒的に劣るものの、ジャレンガの前に立って俺をガードするように身構えた。
だが……
「やめねえかコラァァァァァ!」
一触即発の空気をぶち壊すかのように、ずっと黙っていた先生がついにブチキレて大声を張り上げた。
思わず俺たち全員がビクッとしちまった。
「喧嘩やりたきゃ外でやれ。しかも外ってのは、ただ店の外ってわけじゃねえ。誰にも迷惑かけねえ広野でだ! そして、メシ食い終ってからにしろ! 注文したばっかのメシを放り出して喧嘩するからにゃ、タダで済むと思うんじゃねえぞ! 分かったかッ!」
………ふ~~~~……
「あ~……わーったよ。とりあえず、ジャレンガ、まずはテメエも冷やし中華食ってからにしろ。話はその後だ」
「………誰? ただの飲食店の店主が偉そうじゃない?」
「そう言うな。世界を征服した俺が、この世で唯一頭の上がらねえ男だ」
「へ~、奥さんたちに尻に引かれているだけじゃないんだ」
「誰がうまいこと言えって言った!」
先生の怒号は、ジャレンガのような短気な奴にはイラッとするもんだったかもしれねーが、先生の迫力や俺の態度に気分が失せたのか、溜息はいて珍しく黙った。
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