第465話 お前との再会からも長いこと長いこと

「ひはははははは! パナーーーーーーっ! なんか、色々とパナーーーーっ!」

「にはははははは! いや~~~~~、もう、おでれーたおでれーた……やっぱ、すげーですな~、ヴェルトくん♪ 再会に、長いこと時間かけた甲斐があったってことですねな~」


 もう、爆笑するしかないとばかりに涙流して笑うマッキー、そしてクロニア。

 クロニアは「最高の気分」とばかりに傷だらけの体をスキップさせながら、俺の肩に手を回した。



「いや~、最高ですな~、ヴェルトくん。こりゃ~、保護だけじゃなく、ヴェルトくんのお嫁さんになっちゃったほうが吉ですかな?」


「……えっ?」


「「「「「「あ゛?」」」」」」


「なーんつって! うそうそ、私にヴェルトくんの作る国のお姫様なんて無理だよね~、せーぜい、妾?」


「あっ、いや、えっと、あ~、その、なんだ……」


「「「「「「………………………………………………………………」」」」」」



 クロニアは冗談のつもりなんだろうけど、思わず一瞬、ドキッとなっちまった。

 いや、確かにこいつ、面構えが昔と違って綺麗だし、スタイルも………



「嫁同盟戦闘準備ですわッ!」


「作戦は夫の死守ッ!」


「敵は強敵よッ!」


「絶対に渡しませんッ!」


「あはははは、おもろ~」


「婿は私のだッ!」



 と、なんか俺がドキッとしていた瞬間に、突如俺を死守するようなフォーメーションで、六人の姫たちがクロニアに構えた。



「クロニア姫ッ! 残念ですが、あなたの保護は認めても、あなたを身内として迎えることは許しませんわッ!」


「度重なる修羅場を乗り越えて、ようやく私たちはこの六人で一つとなったのだ!」


「だから、それが例えあなたとはいえ、これ以上の増員はお断りよッ!」


「私たちは既に身も心もヴェルト様と繋がっているのです!」


「あははは、だってさ~、どする?」


「やだ~! 婿は取らないで! ムコは私のだもん……ひっぐ、ううっ、やだ~!」



 まるで、魔神を相手にするかのような戦闘モードで気合を入れた六人。その想いの重さに思わず後ずさりしそうになると、クロニアは更に笑った。



「いや~はっはっはっはっは! たのしーねー、ヴェルトくん。こりゃ~、ヴェルトくんの国の存続は、各種族の長の意思じゃなく、嫁さんの機嫌次第だね♪」


「ったく、洒落になんねーから、茶化すのはやめろってんだよ。ウザイことしやがって」


「はっはー、そうなのだ! 私はウザイのだ! ウザくてなんぼだぜい!」


「ぶっとばすぞ、こらあ!」


「もう、今日は特別にこれぐらい許すのだ! ヴェルトくんも、せっかくなんだから激おこぷんぷん丸じゃなくて、ニッコニッコプリーズ!」



 ああ、このやりとりも、あの時と、確か体育祭の時も……。

 意識して言ったんだろう。クロニアもウインクしながら笑ってる。

 だから俺も気づけば笑って……うぐっ!



「ヴェルト! 何を二人で分かり合っているかのような雰囲気を出していますの!」


「ヴェルト~~~~っ! 許さないからな! それだけは許さないぞ!」


「ヴェルトくん、昔を懐かしむのはやめなさい。その代わり、これからの未来を幸せにしてあげるから、過去の女は忘れなさいッ!」


「ヴェルト様ッ! 私の胸を、私の胸をどうかお好きなように! あの女性よりも、私の胸を見てください!」


「ヴェルト~、あんた、ほんっと、女の敵っての?」


「婿の馬鹿ッ! がぶううううううううううっ!」



 一斉に襲いかかられ、既に重傷な俺に致命傷を……いや、確かに……クロニアの言うとおり、俺の掲げる国の存続は嫁の気分次第かもしれねえ……



「まったく、太古より続く異種族同士の戦乱の歴史が、このような形を迎えるとは、誰が予想しただろうな?」



 呆れたように呟きながら、神族大陸の空を見上げるヴォルド。

 その隣でクロニアも笑っている。



「にははは、そうだよね、ヴォルド。こんなの、ミシェルも予想していなかった。でもね、彼には当たり前なんだよ、こういうのは」


「クロニア姫?」


「喧嘩が終われば仲直り。仲直りすればそこに敵も味方もなく、みんな仲間。彼自身は、そういう安っぽいことは決して口にしないけど、不良っていうのはそういう種族なのかもしれない」



 しかし、その様子はどこか、背負っていた荷物の一つが降りたかのように、どこか爽やかな声に聞こえた。



「ふっ、戦争を終わらせようと戦い続けた英雄たちではなく。世界を支配しようとした男が結果的に世界と友になったか。確かに、征服されてしまったな。この世は」



 結局、そのあとはもう、なんやかんやで隠滅だとかトップシークレットだとか、誤魔化しだとか、色々とあった。




 ラブ・アンド・ピース社長のマッキーラビットは死んだことになった。



 そして、張本人のマッキー自身は、既に広がった素顔をどうにかするようだ。前世に執着していた時代、生前の『加賀美』を真似て整形した顔を、どうやら元の顔に戻し、そして本名のラブ・キューティーとしてこれから名乗って生きていくそうだ。その本当の顔を俺が見るのは、少し先のことになる。



 その後、ランドは俺が掲げる国の王都として使用されるとかで、ラブは異様に張り切ってる。その傍らで、マニー・キューティーと名乗る妻と、ピース・キューティーと名乗る幼い娘が寄り添っていた。



 行方不明の幹部、ブラックダックたちは消息不明のまま。その警戒をする意味でも、ラブの監視の意味も込めて、カー君とピイト、そしてピイトが連れているたくさんの孤児を面倒見るということで、チーちゃんが積極的に協力を申し出て残ることになった。


 

 そして、俺が保護すると言って、大人しくしていたはずのクロニアは、気づいたらハットリとドラとマー君と一緒にその姿を消していた。驚くよりも、「やっぱりな」という気持ちの方が大きかった。たった一枚の書置きだけが残っていた。 



 書置きで残されたクロニアのメッセージには、



――ありがとうちゃん! また、すぐに会おう!



 と書かれていた。その言葉の通り、俺たちは、今度こそすぐに再会することになるだろうと確信していた。



 戦いの後、俺の結婚式だ、調印式だ、色々とイベントを提案されたが、まずは戦後で荒れたそれぞれの国へ戻ることとなった。



 嫁たちも、ダチも、兄弟たちも。



 そして、国を設立すると決めた俺も、今はまだ、故郷に戻ることにした。



 だから、ここでひとまず俺も一つの旅を終えることにした。



 あいつとの再会まで長いことかかったが、再会からもまた長いことになることは分かりきっていたからだ。



 だから、一先ずは……………………

 


「……………………あっ!」


「あれはっ! 姫! フォルナ姫だッ!」


「ファルガ王子も居るぞッ! よかった、みんなご無事だッ!」


「おい、それに、見てみろ! フォルナ姫の隣に!」


「ああ……ああっ! あいつだ! あいつが帰ってきたんだ!」


「おい、今すぐ国民全員集めろッ! 俺たちの姫様が! 王子が! そして、俺たちの息子が帰ってきたんだ!」



 まるで、怒涛の日々だった。

 ついこの間まで、記憶を失って俺の存在を忘れていた者たち。

 しかし、今では昔のように、温かい眼差し、そして涙を流しながら俺の名を呼び、声援を送ってくれる。

 王都のど真ん中、大量の紙吹雪と歓迎の音楽が鳴り響く中、凱旋パレードする俺は、何だか照れくさくて、でも一応手だけ振ってやった。

 そして、の先には、宮殿へと続く道。国王と女王は既に門の前で俺たちを待ち構えている。

 でも、俺は…………



「あっ…………」



 大勢の人ごみの中、ようやく見つけた人たちに足を止めた。

 俺が笑顔を向けた瞬間、彼らは人ごみから飛び出してきた。



「にーちゃーーーーーんっ! ねーちゃーーーーんっ!」


「ヴェルくーーーーーーん! ウラちゃーーーーーんっ!」



 今度こそ、俺のことを覚えている。

 溢れそうになる涙を堪えながら、俺とウラに飛び込んできた二人を力強く抱きしめて、俺は頷いた。


 そうだ。俺の一つの旅は終わった。


 そして、俺はようやくここに帰ってきたんだと。


 だから………………



「随分と、長かったな………………」



 ラーメン屋の衣装のまま、この場に駆けつけてきたであろう、いつもと変わらぬ姿の先生。



「ああ。長かったよ」


「そうだな。よくやったよ、お前は……」



 たったそれだけで、先生は俺のことを理解してくれているかのように、俺の肩に力強く手を置き、そして言ってくれた。



「ヴェルト、これから先、お前は人とは違う人生を歩むんだろうな。でもな、俺は何も変わらねえ。そして、ここはいつだってお前の家なんだ。だから……」



 あの言葉を…………



「おかえり。ヴェルト」



 だから俺も、今度こそ、本当の意味を込めて答えた。




「ただいまっ!」






――あとがき――

お世話になっております。長かったこの章もようやく終わりました。


そして、次回からは再会を終えた後の世界を……



最終回じゃないぞよ? もうちっとだけ続くんじゃ(まだ100万字ほどストックあります。マジでwww)



また今後ともよろしくお願いします!

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