第462話 集合

 目を開ければ、そこは巨大な穴ボコの底で空を見上げていた。

 

「にひひひ、お目覚めしましたかね、ヴェルト姫♪」


 となりを見れば、せっかく転生して手に入れた美貌をボコボコに腫らしながらも、前世と変わらねえ満面の笑みを向けたクロニアが、俺の隣で一緒に並んで寝ていた。


「はは、随分と深い穴に落っこっちまったな。どーやったら、こんな状態になるんだ?」

「さあ? わからんちーのですな」


 体を起こそうとしてもうまく起き上がれねえ。

 まいったな。本当に力を使い切った気がする。



「やれやれ。当初のシナリオと全然違う展開になったから焦ったさー。やっぱ、朝倉居ると面白いさー」



 その時、俺たちの傍らで渦のようなものが巻き上がり、その渦の中から忍者の格好をしたあの男が出てきた。


「テメエは、ハットリ……」

「やあやあ、龍善寺くん、めんごめんご」


 リュウゼンジ? ハットリの本名か?



「こんな状態でなんだけど、改めて自己紹介さー、朝倉。いや、ヴェルト・ジーハ。俺の前世の名前は『龍善寺翔太』さー。覚えている?」


「……う~む……おう、ヒサシブリ」


「お、覚えてないか……地味にショックさ~」



 居たような居なかったような。その程度の記憶。

 マスクの上からでも分かるような苦笑を浮かべながら、ハットリは俺たちに手をかざした。


「忍法・治癒忍術」


 腫れた体、砕かれた骨、血にまみれた体に温かい光が注がれる。

 癒しの力……


「あと、ついでにこいつらも『転移忍術』で連れてきたさー」


 そう言いながら、何もない空間を顎で指すハットリ。

 すると次の瞬間、この穴ボコの底に、この世界のVIPとして生まれ変わったクラスメートたちが一斉に飛び出してきた。



「ヴェルトくん! 美奈ッ!」


「うっはー、マヂボコられてんじゃん! 神乃、マヂでかした!」


「ひゅ~、少し見ない間に、ハンサムになったな、ヴェルト」


「んで、神乃はベッピンになっとるな」


「本当に心配したのじゃぞ?」


「みーなちゃ~~~~~ん! 超元気ですかーッ!」


「あ~……ドモ、覚えてないかもしれないけど、俺も一応クラスメートなんで」



 綾瀬ことアルーシャ。

 備山ことアルテア。

 ミルコことキシン

 十郎丸ことジャック

 バルナンドこと宮本

 鳴神ことフィアリ。

 ドカイシオンくんことニート。

 そして……



「ひははははは、ほんと……久しぶり」



 既に放心状態のマニーと、不安げな表情で後ろに隠れているピースを連れて、マッキーこと加賀美がそこに居た。


「みんな、本当に久しぶりだね♪ それに、加賀美くんも、なんか色々あったみたいだね……」

「うん、美奈ちゃん……それに、ヴェルトくんも皆も、今回は本当に……」


 珍しく殊勝な顔をするマッキー。

 すると、クロニアはそれを制した。



「加賀美くん。それともマッキーくん? ラブくん? どれがお望みかはアレだけど……でもね……君に、どうしても一言言わなくちゃいけない……」


「えっ?」



 突如真剣な顔でマッキーに語りかけるクロニア。

 その真剣な表情。何を言われるのか? どんな罵詈雑言を受けるのか? 一瞬マッキーがビクッとして表情が強ばった。

 そして、クロニアは……




「私のことは、お義姉ちゃんでしょ♪」


「「「「「やっぱ、こいつ、何も変わってないっ!」」」」」 




 一斉に寸分のズレもなく、世界のVIPたちからのツッコミを受けるクロニア。

 だが、それが何だか面白くて、懐かしくて、俺たちはまた気づけば笑っていた。


「お姉ちゃん……」

「むふっ♪ 出産おめでとうもろこし、マニー。旦那さんとピースちゃんと、これからも仲良くね♪」

「ッ、どうして……ッ、マニーを殺さないの……マニーが何をしたかわかってるくせにッ!」

「そうだね~、マニーをキズモノにしたラブくんはぶっ飛ばしたい気もするけど、にはははは、そ~いえば、ラブくんはマニーが何歳の時に抱いちゃったのかね?」


 世界を揺るがし、多くのものを犠牲にした事件を起こしたマニー。

 それは、到底償いきれるものでもないし、流すこともできない事実だ。

 だが、それでも今は、ただの姉として笑顔を向けるクロニアに、マニーももはや言葉が無かった。

 そして、クロニアも色々な懐かしさを感じながら、一人一人に話しかけていく。



「にはははは、綾瀬ちゃ~ん、何やら嬉しいことがあったみたいだね~」

「ええ、そうね。ようやく、意地っ張りな彼氏に抱いて貰えたから。もう、ラブラブで仕方ないから、余計な事してはダメよ? もう、私たちだけの彼だから♥」



「ビーちゃーん、いえーい、アゲアゲーっ?」

「へっへ~、マジアゲアゲじゃんっ!」



「村田君、セーックス、ドラーッグ、エ~ンド?」

「イエス・ロックンロールッ!」



「木村くん、もうかりまっか?」

「なはははは。ぼちぼちでんな~」



「宮本くん、おじーちゃんになったの~う」

「じゃが、心は若返った気分じゃよ」



「恵那ちゃ~ん、なんでこんどは、ちっこくて可愛くなってんの?」

「そーなんですよー、生まれ変わっても可愛いとか反感買いますよね~、彼氏も私にメロメロですし」



「土海く~ん、ちゃんと覚えてるよ! あっ、そういや、前世で借りたエロゲー『ロリボのいけない調教日記・奉仕も怪獣退治もお兄ちゃんのためだよ』を借りパクしちゃってメンゴ。特撮を極めた私もPCゲーム初挑戦と思ったけど、いや~、確かにロリッ子ロボ娘こと通称ロリボは可愛かったし、怪獣対戦のCGも見事だったけど、えっちぃシーンがなんともアブノーマルで―――」

「それは覚えてなくていいんでっ! いや、おい、フィアリ、おま、なに、その顔怖いんで、いや、ああああああああああああっ!」



 さすがは、神乃。

 あのクラスの中心に居ただけあって、全員のことをよく覚えてやがる。いらん記憶まで覚えているようだが。

 だが、本当にこうしていると、制服着て教室で話をしているような感覚に襲われる。

 本当に懐かしい。



「ひはははははは……なんか、俺たち……本当に再会しちゃったね。パナイよ」


「マッキー……」


「ヴェルトくんと再会してから本当によく思うよ。もっと早く、君と再会出来ていたら……って」



 確かにそうかもしれねえ。でも、こうも言えた。



「どうだろうな。長いことかかっちまったからこそ、色んなものを見て、そして力になれる強さとダチを手に入れられたってのもあるぜ? 少なくとも、旅の始まりで即行再会していたら、俺は何の力にもなれなかったよ」



 長かった。

 だが、長かったからこそ、その分、俺たちはここまで来れた。

 小さなことから、そして世界の全てを敵に回すことになろうとも、今なら反発できるし、受け止められる。


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