第450話 それを後悔と呼ぶ
「コスモス強いもん。お友達つれてく悪い子に負けないもん!」
「コスモスちゃん、オイラに新しい武器を作ってっす!」
「うん! お姉ちゃんに教えてもらったのが、いーっぱいあるもん! えっと……れ、れ~ざ~いんりょく―――――」
外では派手にやっているようだ。
『コスモスちゃん、それ、反則! 反則だから! パナイ反則だから!』
このバカでかいゴッドジラア。口の中は大量の金属やら鋼鉄やら、見たこともない物質が張り巡らされ、今にも俺を取り込もうとしている。
確かマッキーの話だと、ナノマシンだったか、改造手術してねーとダメらしいが、知ったことか。
取り込まれる前に、内部から破壊する。
「ふわふわランダムレーザー」
手のひらの上で火薬を爆発しても、表面が焼けどするだけ。
こういうのは、内部から爆発させてこそ意味がある。
『ッ! あらら……パナ……』
『う~~~! マッキー! ダニが私たちのマイホームに入ったよ! 今すぐ駆除して!』
ご立腹なお姫様。ゴッドジラアのセキュリティシステムかなんかが作動したのか、パイプと物質の壁ばかりの体内に警報音のようなものが鳴り響く。
だが、既に手遅れだ。
外ではドラ&コスモスの最強タッグ。そして中からは、凶暴なお父さん。
既にこの戦いは………
「ふわふわ世界革命!」
既に戦いは、俺たちの流れだ。
迫り来る金属の触手が俺を捉えようとするも、今の俺を捕らえることは出来ねえ。
俺の魔道兵装。そして無尽蔵に放つレーザ。そして、ビーム警棒で手当たり次第に叩き壊す。
俺への警戒に力を注げば、外からは、ドラがドギツイ一撃をブチかます。
『機内異常事態発生異常事態発生。セキュリティシステムレベルMAX。タダチニバグヲ除去シマス』
「無駄だ。不治の病クラスのウイルスだ。除去できるはずねえだろうが」
無機質な機械音。この命令をこの巨大ゴッドジラアのどこから発している? コア? もしくは、操縦席のようなものがあるはずだ。
そこに行けば……
『ひはははは………これまでだね……』
その時、スピーカー越しにマッキーが肩の力を抜いた声が聞こえてきた。
『どうしたの! 何をやっているの、マッキー! ……なんで、ラブ!?』
すると、どうだろうか。次々と迫り来ていた触手やセキュリティシステムが急に大人しくなり、体内で一本道のようなものができた。
これは、マニーの意志じゃない。
マッキーの独断なんだろう。
「あそこか」
マニーの声からも、かなり切羽詰った様子を感じられる。
さすがに、いつまでも狂っていられる状況じゃねえと気づいたようだ。
そして俺は、お言葉に甘えて一本道の通路を奥へと進み、一つの扉の前に立つ。
その扉は、こちらが手を掛けて開けるまでもなく、まるで自動ドアのように勝手に開いた。
そこに居たのは………
「ッ! あーあ、何しに来たの! 何しに来たの、このォッ!」
「ひっぐ、うう、ひっぐ、こ、コスモスちゃんのおとさん………」
そこは、一部屋ぐらいの大きさのコクピット。
それぞれが専用の椅子に座り、その肉体には鉄のコードのような触手が無数に人体を貫ぬかれ、まるでカラクリモンスターと同化しているように見える。
そして気になるのは、それぞれの席の目の前に置かれている、ハンドルのようなもの。っていうか、ハンドルだよな。
「まるで、車みてーだな」
率直な感想を述べると、そこに居た「あいつ」もゆっくり振り返って頷いた。
「実際、パナイそうだと思う。アクセル、ブレーキ、ハンドル、レバー、多分、車をモデルにしたんだろうね。といっても、俺も免許持ってなかったし、運転したことないから実際のところわからないけどね」
この場にある席は四席。
鉄のコードに人体を貫かれ、思わず目を逸らしたくなるような奇形な姿へと成り果てた、マッキー、マニー、ピース、そして、ロア………
「確か、ナノマシンとかいうのがねえと運転できねーんだろ? 運転そのものはロアがやってるみてーだが、ロアも改造したのか?」
「いいや。してないよ。ちなみに、アナログに動かすだけならば、肉体にかかる負荷が大きいだけで動かせないわけじゃないよ。まあ、膨大な魔力の消費と、細胞の破壊が繰り返され、並の人間ならすぐに死んじゃうけど、そこら辺は勇者様だよね。これだけ動かしても、まあ、まだ生きてるっぽい」
「じゃあ、テメェらが改造した意味は?」
「それが最終手段さ。このまま、自分の肉体と精神を、カラクリモンスターと融合させることにより、肉体を捨て、ゴッドジラアとして生まれ変わることができる。まあ、それやっちゃったら、もう元には戻れないだろうけどね」
「なら、やめときな。それをやったって、もう俺たちには勝てねーよ」
「……だね……本当パナイよ。こっちが奥の手使ったら、ドリームチームやら巨大化やら、ほんとキリないよ………」
なんとなくだが、空気で伝わってくる。マッキーはもう、何かを企んでいる様子ではないことを。
俺の言葉を否定するわけでも、見苦しくも抗おうとするわけでもない。ただ、静かに肩の力を抜いて、コクピットのシートに背中を寄りかからせていた。
「ふざけないでよー! ラブ、まだ終わってないんだから! ヴェルトくんを、殺しちゃえば問題ないよ! それに、コスモスちゃんを殺せば、まだこっちが有利になるんだから! ロアくん、今すぐ、コスモスちゃんを殺しちゃって!」
させねえよ。
「ふわふわ解体・回収」
マッキーやマニーはゴッドジラアの運転はできねえ。洗脳されたロアが、真理の紋章眼で運転の仕方を解析して運転しているだけにすぎねえ。
なら、ロアを取り上げちまえばいい。
俺はロアをコクピットから浮かせて、繋がっていたコードのようなものを無理やり引き剥がし、そのへんに放り投げといた。
「ッ! ヴぇ、ヴェルトくんッ、ぅ~~~~~~!」
「睨むなよ、マニー。何でもかんでも、思い通りにならねえのが、人生だよ」
殺意に満ちたマニーの瞳にも、もう俺が乱されることはない。
そして………
『いっくよーっ、ドラちゃん!』
『おうっすよ、コスモスちゃん!』
『捕まえちゃえー!』
『コスモスちゃん即興の、捕獲アイアンハンドっすーーーーーっ!』
炸裂する、ドラとコスモスのコンビネーション。
「なにっ? なんなの! なんでよーっ! なにをしたの!」
「ひはははは………お父さんがパナイと、娘もパナイね~」
コクピットのスクリーンから映し出されたのは、ドラの胸部より巨大なアームが無数に伸び、ゴッドジラアの胴体、首、両手足をガッチリと掴んでいた。
「この……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス! あの、クソガキ、殺すんだからッ!」
発狂して叫びながら、マニーが目の前のハンドルを無理やり動かそうとするも、ビクともしない。
「うっ、この、どうやって! どうやって、動かすの、ッ、ラブッ! 手伝って! あのガキ殺すんだから! ラブッ!」
「……無理だよ、マニーちゃん………仕様がオートマ車と似た形状ならまだしも、これ、マニュアル車だよ。クラッチ操作が全然分かんない」
「それでも殺すんだから!」
マニーが、ハンドルやレバー、そしてアクセルなどをメチャクチャに操作しようとするも、すでにガッチリと固定されているゴッドジラアは身動き取れない。
なら、どうする? マニーは………
「なら、ゴッドジラアと完全融合して、私が自ら全員殺してあげるんだから! 世界も、人間も、全部全部全部ッ!」
後戻りのできない道を選ぼうとする。
俺は、もういい加減にしろと溜息はいた。
「それやると、元に戻れねーんだろ?」
「だから? マニーはいつだって、戻れたことなんてなかったんだから! 戻りたくても戻れなかったんだから!」
しかし、それでもマニーの心は変わらなかった。
「ようやくここまで来んだ! ラブと、ピースちゃん、そしてこの力も手に入った! もう少しで世界を壊せるんだ! もう少しで望み叶うんだから! この世界は私に何をしてくれたの? マニーから全てを奪ったんだ! 存在も、記憶も、居場所も、全部全部全部全部全部ッ! 死ねばいいんだ! 全員死ねばいいんだ! 君も死ねッ!」
圧倒的な憎悪。これをもう変えることはできないと分かっていたからこそ、マッキーはこいつと寄り添うことを選んだ。
マッキーにすら出来なかったこいつの心を救うことを、俺が出来るはずがねえ。
「断る。お前らが死ね」
「ッ!」
「家族ごっこのママゴトの続きは、地獄でやれよ」
マニー自身ではなく、マニーの肉体を貫いているコードを全て空気爆弾で破壊する。
その瞬間、ゴッドジラアとマニーの接続は途切れ、マニーは爆発の余波でコクピットの壁まで弾かれた。
「マニーちゃんっ!」
「ううっ、あ、お、おかさんっ! う、あ、うあああああああん」
子供が泣くからか。それとも、マッキーの気持ちを理解しちまっているからか。
「どうした、マニー。テレポートで逃げねえのか? それとも、魔力が尽きてできねえのか?」
「ッ~~~~~!」
殺したいほど嫌いなマニーを痛めつけても、俺の心が締め付けられるばかり。
これが、「誰かを殺す」ということなのかもしれねえな。
「つう、よくも、よくもよくもっ! 元々、君さえいなければっ! 君さえいなければこんなことにならなかったんだ!」
「ああ。運が悪かったな」
「ッ! あああああああ! あの時、もっと早く殺してれば! そう、魔族大陸で君をさっさと殺しとけば! ううん、監獄にいた時から! 二年前から、もっと早く殺しておけば!」
「そうさ。あの時、ああすれば良かったと、やらなかったことを後になって嘆くことを、後悔と呼ぶんだぜ」
マニーの魔法無効化がある限り、俺の魔法で殺すことはできねえ。
殺すなら物理的に、警棒や打撃でやるしかねえ。
それでも、やっぱり俺もこんな状況なのに、一秒でも早くこいつらを殺すべきなのに、足が前へと進まねえ。
極力、俺の迷いを悟られねえように、自分なりに凶暴な笑みをニヤリと浮かべているものの、そろそろ動かねえとマッキーには気づかれる。
コスモスやみんなにだって危険が………
「……ヴェルトくん」
その時、穏やかな声と共に俺に飛びかかってきたマッキー。
俺は反射的にカウンターでマッキーの頭部を警棒で砕いた。
「ッ! テメェ……」
「ひははは……やっぱ、最後は……肉体のコミュニケーションで終わらないとね……」
手応えはあった。だが、ナノマシンってやつの仕業か。傷口がみるみるうちに塞がり、修復されている。
だが、やりようはいくらでもある。もちろん、マッキーだってそれも理解しているはず。
しかしそれでも、最後は家族を守る父親として、勝てないまでも体を張って戦う。そんなところか。
――あとがき――
お世話になっております。
最近、カクヨムのシステムに新しい機能が加わったようで……「カクヨムサポーターズパスポート」というものです。
実はこのシステム、正直私もまだよく分かっていないのです。ただ、言えるのは別に私の活動は何も変わらんですし、この小説自体はこれからも無料で読めるので、そこはご安心いただけたらと思います。
とはいえ、それでも有料でサポーターになってくださった方に対して何もしないというのも失礼ですので、ちょっとした短編を限定で載せたりしますが、あくまで短編であり、本編の本筋を大きく狂わせたりするような長編だったりしませんし、見なくても問題ないちょっとしたものですので、そこもご安心いただけたらと思います。
ただ、それでもサポーターになっていただける……そんな方々には心からの大感謝です。
とりあずサポーター様限定で読めるコンテンツに今後この作品の短編も何か……と思っていますが、何かご要望がありましたら教えてください。
ちなみに、「極めて上品な作品」は規約的にアウトなので、それ以外で……
では、これからもよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます