第431話 ティーパーティー
「俺たちの娘がこんなにカワイイよ~、エルジェラ~!」
「そうです! だって、私とヴェルト様の子供ですもの! 世界一です!」
「落ち着け、ヴェルト! エルジェラ! これ以上、心を乱されないとか、なにが飛び出してきてもいいようにとか言ってたのを数秒で破るとはどういうことだ、この親バカどもめ! って、ムサシーーーーっ!」
「えへ、あ、えへへへへ、お、おじょ、おじょうしゃま~かわい~にゃ~」
「いけないわ、ウラちゃん。ムサシちゃん、鼻血出し過ぎて今にも天に召されそうなほど幸せそうな顔で!」
「……まあ、クソ元気そうじゃねえか」
あ~、クソ、なんて可愛いんだよ、ヤバ、もう、あっ! 俺たちに気づいた! 手を振ってる!
「あ~~~~! パッパーッ! マッマーッ!」
嬉しそうに翼をパタパタさせて飛んでくるコスモス! いや、もうなに、この天使!
「えへへへ、きゃっほ~~~~い!」
俺の胸にダイブしてくるコスモス! うん、きゃっほーいだ!
「コスモス、お前、何その可愛いの! 何その可愛いの! 何その可愛いの! 世界一大切なことだから四回目も聞くけど、何その可愛いの!」
「えへへへへへ、白うさぎのホワイトラビちゃんだよ?」
「そうか~、ラビちゃんか~!」
「うん、ラビちゃんだぴょ~ん♪」
「ぴょんか~!」
「えへへ、もう、パッパ、くすぐったい~!」
もう頬を何度もすり寄せてグリグリグリグリしていた。ロリコン? 俺の娘だから! 俺の娘だから!
「コスモス、良い子にしてた?」
「うん、してたよー、マッマ。あのね、お友達いっぱいできたの?」
なんか色々とどうでもよくなって、エルジェラも心の底から幸せそうにコスモスに頬を寄せて頬に軽いキス。
コスモスも、ニコッと笑って、俺とエルジェラの頬に軽くキスしてきた。
そして、コスモスはすぐに俺たちの後ろにも気づいた。
「あ~! ウラちゃん、それにファルおじちゃん! クレランおばちゃん! あーーーーー、ムサシだーーー! わーい、ムサシだーっ!」
どこも怪我もなにもなさそうだし……って、そうだった、攫われてたことすら忘れていた。
なんか普通に、子供の学芸会に来たような心境で興奮しちまったけど。
「ふん、まあ、クソ無事そうで良かったな」
「も~、コスモスちゃん! おばちゃんじゃなくて~……オ姉チャンデショ?」
「えへ、えへへへへへへ、おじょうしゃまが~~~、お嬢しゃまが~~~」
「いや~~~、大きくなったっすね、コスモスちゃん。オイラが最後に見たのはまだ赤ちゃんだったっすからね~。ご主人様も、コスモスちゃんすごい可愛いって言ってて、ずっと会いたかったっすから」
すると、コスモスはピョンと俺の胸から飛び降りて、鼻血ブーで昇天しそうなムサシに駆け寄った。
「ねえ、ムサシ、どうしたの?」
「えへ、えへへへ、お嬢しゃまが可愛しゅぎて、拙者はもう………」
「も~、こんなところでおねんねしたら、風邪ひくよ? ほんと、ムサシはおばかさん」
「もう、馬鹿でいいでごじゃる~~」
気持ちは分かる、ムサシ。なんか、俺ももうバカでいいやと思えてきた。
すると、そんな時だった。
「コスモスちゃん、どうしたの?」
「どーしたんだよ、コスモス」
「その人たち、コスモスちゃんの?」
なんだ?
「ふにゃああああああああああああ、ほ、他にも可愛い子達でござる!」
なんか、ゾロゾロと出てきた。トランプのコスプレをしてたり、薔薇の花の被り物してたり、なんか本当にお遊戯会みたいなんだけど?
すると、コスモスが駆け出して、その中の一人の手を引いて連れてきた。
これもまた、可愛い。水色を基調とした白いフリルの付いたエプロンドレス。頭と胸元には水色の大きなリボン。
薄いアッシュの長い髪で、どこかオドオドしたように見せる姿は、どこか守ってあげたくなる気にさせられる。
「あのね、パッパ、お友達だよ!」
「へう、あ、あの、えっと、あの、コスモスちゃんのお友達の、『ピース』です。よろしくお願いします」
ペコリと礼儀正しく頭を下げるピースという名前の子に、俺とエルジェラも普通に気をつけしていた。
「あ、こ、これはご丁寧に……」
「あら、コスモスと仲良くなってくれたのですね。ありがとう。これからも仲良くしてあげてくださいね」
こ、これは、ご両親にも挨拶するパターンか? ヤバイな、娘の友達の親に会うとか初めてだな………
「あのね、ピースちゃんはね、主役なんだよ♪ この服も可愛いよね!」
「でも、あの、コスモスちゃん、やっぱり主役はコスモスちゃんがいいよ~、コスモスちゃんの方が可愛いもん」
「コスモスはラビちゃんやりたいもん! コスモス、ラビちゃんがいいもん!」
これこれ、仲良くやりなさいよ、お前たち。
しかし、なんなんだ、この子達は。
「へ~、コスモスのパパか。カッコいいや。でも、僕らの『兄ちゃん』だって負けないぐらいかっこいいよ!」
「キンニクこ~~~~んなにあるんだよ?」
「そうだよ。私たちのお兄ちゃんは、力持ちなんだもん! まっするなんだもん」
ん? まっする? マッスル? 負けじと自分たちの兄を自慢するトランプやら花のコスプレをする子供達。
「コスモスのパッパがカッコイイもん!」
「あう、へう~~、あの、ピ、ピースのおとさんも、か、か、かっこいいのです!」
もう、僅かなやり取りだけでも鼻血が止まらないムサシは、ここを桃源郷と見たのか、既に我が人生に一片も悔いなし的な笑顔なんだが……
しかし、改めてこの子供達、そしてここは一体……
「ひはははははははは、ほらほら、劇の練習の邪魔になっちゃうから、父兄の皆様方は後ろに下がったら?」
「親バカだよね~、ヴェルトくんって、バカで親バカで、バカ親バカ? でも、そういう気持ち、マニーも分かっちゃうかな~」
その時、聞きなれた声がした。
俺たちが一斉に振り返ると、森の開けたスペースの端っこで、丸いテーブルに腰掛けて、ティーカップを手にしている、マッキー。
そしてその隣には、初めて見る一人の女。
「マッキー。それに、テメエは………」
俺やウラと同じ歳ぐらいだろう。
ふわふわっとした灰色の髪、傷一つ無い透き通る白い肌に華奢な体を、淡いブルーのドレスに包まれていた。
まさかこいつ………
すると、マッキーはティーカップを持って俺にウインクしてきた。
「どうだい? ちょっと、ティーパーティーでもしないかい?」
そして俺たちは、ようやくもう一度再会した。
着ぐるみなんか被らず、素顔のままで。
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