第413話 カオスの時間⑩

「ガハハハハハハハ、そりゃ逃げるよな。そして………そんな逃げる獲物を狩るのは、俺の仕事………まずは昔馴染みのよしみは後回しに………俺の故郷を襲撃した、あの独眼王子を始末するか」


 ロービン・フードが姿を消した。

 ちっ、あの野郎、ハンティングのつもりかよ、ウザってえな。

 だが、どうする? ハッキリ言って、大慌てで逃げちまったが、逆に逃げてないのは?


「ふん、逃げないのは、さすがだわね……イーサム、エロスヴィッチ、チロタン、……アルテアはショックで動けないだけだわね」

「ガハハハハハハ、ワシは両方いける口でのう」

「あ゛? 知るか、ブチ殺すッ!」

「この場にカイザーがおったら、わらわもカイザー抱えて逃亡していたのだ」


 残っているのは……まあ、あの三人が居るなら………

 とにかく、俺は、俺の意思には関係なく、絶賛逃亡中だった。

 その時………


「まあ、しかし、敵として始末するならまだしも、操られておる戦友を気遣いながら戦うとなると、おまけにあの女が空間魔法の特性を使ってワシらにハンデを与えるとなると……ワシも厳しいのう。じゃから……エロスヴィッチ」

「ん? なんなのだ?」


 イーサムとエロスヴィッチがボソボソと誰にも聞こえないように耳打ちした作戦が………



「ここは、ワシと爆弾魔人でテキトーに相手しておる。じゃから、おぬしは、そこのアルテア姫をヴェルトの所へ連れてゆけ」


「……どういうことなのだ?」


「邪悪魔法を破るには、術者を始末するか、それを超える邪悪魔法で相殺すること。しかし、今のアルテア姫には無理じゃ。なら、アルテア姫により強力な邪悪魔法を身につけさせるしかないじゃろ」


「デイヂを殺したほうが手っ取り早いのだ。わらわたちが多少なりとも協力すれば、ここが奴の空間内とはいえ、どうにでもなると思うのだ」


「分からんかの~……だって、その方が面白そうなのじゃ! あわよくばワシのユズリハも~とかのう」


「……は~~~~、やれやれなのだ」


「デイヂの言うとおり、邪悪魔法は闇に落ちれば、そして身も心も汚れれば汚れるほど強くなる。つまりじゃ、どれほど才能あっても………血に汚れたこともなければ、身も心も綺麗な純潔の処女では力を発揮できんからの~♪」


 この時の二人の作戦が、更なるカオスというか、もうなんかとんでもない展開を生み出すことになるとは、誰も気づいてなかった。







 で、


「あ~……もう、この辺でよくね?」


 ワッショイワッショイと、五人の女たちに担がれた俺。

 しかし、俺を担いだ五人は、まるで超VIPを警護するボディーガードのごとき迫力で周囲を鋭い眼で何度も警戒している。


「いいですわね、皆さん。これまで幾度となくぶつかりましたが、今この瞬間だけは協力しますわよ」

「当然だ、フォルナ。十歳の頃からヴェルトに抱いてもらえるようにアプローチしてきたこの私が、あんな怪人に奪われる等、あってたまるか!」

「美奈でもなければ、フォルナでもなく、あんな人に私の前世からの恋を穢されるなんて、許さないわ!」

「ヴェルト様、ご安心下さい。この身に変えてもお守りします」

「婿は渡さない婿は渡さない婿は渡さないぞ!」


 とても素敵で頼もしいことだ。フォルナ、ウラ、アルーシャ、エルジェラ、ユズリハの鉄壁のガード。

 男冥利に尽きるってもんだな。


「しかし、逃げすぎたな。一応、イーサム、エロスヴィッチ、チーちゃんが残っているのは見えたが、それでも相手はママン……大丈夫かな?」

「いえいえ、心配要りませんわ、ヴェルト。いかに、ユーバメンシュがパワーアップしようとも、四獅天亜人二人に七大魔王が相手」

「そうだぞ。大体、あのエロジジイが負けるとも思えないしな。お前はそんなことよりも自分の尻を心配をしろ」

「ええ。その体を汚すようなマネ、絶対にさせないでよね?」

「私だって、ヴェルト様に抱かれる日を一日千秋の思いで待ち続けているのに、それを殿方に無理やりだなんて、許せません!」

「婿、今だけは私がお前を守ってやる」


 要約すると、テメエは心配なんかしてないで、ここで大人しく私たちに守られていろというところだろう。

 まあ、確かにイーサムたちなら心配いらないだろうけど、何だかマヌケな展開になっちまったな。



「いやいやいや、そんなことないのだ。リミッター解除のユーバメンシュに、邪悪魔法の横槍。イーサムたちでも厳しいのだ」


「おおおい、ちょ、離せって! あたしもママンと戦うっての!」



 その時、遠くまで逃げてきた俺たちを追いかけるように誰かが走ってきた。

 それはエロスヴィッチ。そしてエロスヴィッチの尻尾の一つにグルグル巻きにされて連れてこられた、アルテアだ。


「アルテア……エロスヴィッチ……」

「全く、逃げすぎなのだ。追うのが手間だったのだ」


 おいおいおいおい、ただでさえ強敵なのに、何でお前までこっちに来てんだよ。

 余計にピンチになるだけじゃねえかよ……


「お前たちに言っておくことがあるのだ。ハッキリ言って、今の状況を打開するには、デイヂを倒すか、ユーバメンシュを殺すか、ソレシカナイノダー」


 ん? なんだ? なんか棒読みに聞こえるというか、言葉の割にはあまり真剣味が感じられなくねーか?

 そんな印象をエロスヴィッチから感じながらも、その言葉はアルテアにはただ事ではないものだった。


「ちょっ、ママン殺すとか、マジダメ! ほんとダメ! お願い、それだけはやめて! 何とかしてよ、お願いだから!」


 殺して止める。それだけは絶対にさせてはならない。絶対にしないでくれと、必死に懇願するアルテア。

 当たり前だ。だが、そうなると……


「そうなると、デイヂを倒す方法しかありませんわね……」

「それも無理なのだ」

「無理? どうしてですの!」

「この空間はデイヂが作り出したもの。広さも無限にあれば、自分に攻撃が届かないように捻じ曲げることも可能。時間をかければどうにかできなくもないが、ユーバメンシュの対応をしながらだと、それも無理なのだ」

「でも、それしか方法が……」

「だからこそ……考えられる最後の手しかないのだ」


 デイヂをソッコーで始末することも、ママンを殺すこともできない。なら、どうする?



「目には目を。邪悪魔法には邪悪魔法なのだ。アルテア姫の邪悪魔法で、この空間をアルテア姫の空間に書き換えるのだ………」



 エロスヴィッチが提示した手は、なんてことのない、力技。

 だが、そんなこと出来んのか?

 俺たちは思わずアルテアを見ると、アルテア自身、呆けた顔で固まっちまった。


「無論、空間魔法を破るには尋常ではない力と魔力が必要となるのだ。それこそ、魔王キシンや魔王ヴェンバイ級のな……イーサムには不向き……いや、できなくはないだろうけどボソボソボソボソ」


 最後のほうは小声で聞き取れなかったが、あのキシンやヴェンバイみたいな規格外の魔力をアルテアが?

 

「無理だろ、そんなの」

「「「「「「うんうん」」」」」」


 いくら、アルテアが天才肌とはいえ、比べる相手が規格外すぎる。

 それは俺のみならず、フォルナたちや、アルテア本人も頷いた。

 だが……



「確かに、今のままでは無理なのだ。だからこそ、アルテアの邪悪魔法をより強力にする。そのために、お前がアルテアと交尾すれば問題ないのだ」



 …………………?


「はあああああああああああああああああああっ?」

「ちょちょちょちょちょー! まて、なんで? ちょ、なんで? なんで、あたしがヴェルトとスルんだよ!」

「邪悪魔法の真価は、恨みやら怒りやらの負の感情を爆発させるか、身も心も他人にメチャクチャに犯されまくって汚れるか……まあ、そんなところなのだ」


 おかしい。言っている意味が全然分からねえ。



「つまり、体内に自分以外の生物の体液を入れるとか、それが一番手っ取り早いのだ。別に、あの地底族の小僧でも独眼王子でも良いのだ。それは、アルテアに任せるが、イーサムの話によれば、ヴェルト・ジーハが相手した方が面白……アルテア姫の気持ちも楽だろうと……」


「「「「「却下!」」」」」



 エロスヴィッチがつらつらと意味不明な言葉を続けるが、五人の娘たちが即断却下。

 バッサリと切り捨てた。かなり真剣な顔で怒っている。


「そのような不浄な行為で手にした力では、何の意味もありませんわ!」

「ふざけるなよ? なぜ、ヴェルトを汚さねばならん」

「ええ。そんなことをするぐらいなら、デイヂを倒した方が効果的よ」

「アルテアさんも不憫です。心の伴わない肌の重ねあいなど、愛への冒涜です」

「あんな怪人死んでもいい。婿は渡さん」


 だよな。そうだよな。まあ、あまりにもすっとんきょん過ぎるエロスヴィッチの提案は、フォルナたちが断固として譲らぬ態度で突き放そうとする。そして、アルテアも苦笑しながらも頷いた。


「だよな……あはは、その、あたしもやっぱそれは……いやっつーか……終わった後、あたしが殺されそうだしな。嫁たちに」


 ちょっと照れ笑いを交えているが、やはりその提案は受け入れられないと、アルテアも頷いた。

 すると、エロスヴィッチも、「やっぱりな」と何だか俺たちを呆れたように笑った。


「まあ、そうなのだ。お前たちは随分と貞操を大事にするのだ。所詮お前たちの覚悟も仲間も家族も絆とやらも、貞操より劣るものなのだ」


 分かり安すぎる挑発。



「「「「「それでもダメッ!」」」」」



 しかし、絶対に揺るがぬ態勢でフォルナたちは再び突き放す。

 すると、エロスヴィッチは……



「まあ、アルテア姫を犯すといっても、やはり肝心のヴェルト・ジーハも身奇麗だからの。意外と純情な童貞の体液では、仮に摂取できたとしても効果も薄いのだ……イーサムのように大量の女と交尾して汚れまくったイチモツとは違うのだ」


「「「「「当たり前だ!」」」」」


「そう、つまり最初からこの作戦は実にならなかったのだ。それこそ……『ヴェルト・ジーハ』が『複数の女』と『ヤリまくって汚れた体』でアルテア姫と行為に及ばなければ、意味が無かったのだ」


「「「「「そんなのダメに……ッ!」」」」」



 ん? ちょ、ちょっと待てよ……お前ら、そのエクスクラメーションマークは何だ?

 今までどおり、「そんなのダメ」と言っておけば……


「ふざけんなってーの! なんで、あたしが、ワザワザエロエロ大王になったヴェルトに、あたしの初めてやんなきゃいけねーってんだよ! そ、そういうのはさ……しょ、将来誓い合って、結婚した後とかに……いや、責任とってくれるっつーなら別に……だけど……」


 いつも人をからかいまくるアルテアが、珍しく話の矛先が自分に向いたことで、ウジウジモジモジテレテレしながら、頭から煙を噴いてる。

 まあ、無理もねえよな。あまりにもアホ過ぎるエロスヴィッチの作戦は…………ん?



「……ヴェルトが……となると、アルテア姫と体を重ねる前に……それこそ、この場に居る誰よりも早く、しかも今度は現実世界でヴェルトとの……」


「まったく馬鹿げている。馬鹿にしすぎだ……でも……このままだったら、いつ他の女にヴェルトが……それなら、いっそここで……いやいや、私は何を……」


「冗談じゃないわ。前世も現世も通して守り続けてきた初めてよ? それをこんな所で……ロマンチックの欠片もないじゃない。……でも、フォルナが復活して、このままでは私だけ……」


「……もし、ヴェルト様が今私を求めてくださるのであれば、たとえこのような場所でも私は………」



 いや、何を迷ってんだよ、お前ら。なんつーか、考えてることが駄々漏れだぞ? でもツッコミ入れないからな?

 しかし、微妙な展開になり、エロスヴィッチの言葉に一瞬揺らぎを見せたフォルナたちだが、それをぶち壊す女がこの場には居た


「おい、ゴミエロ」

「ぐぬ? な、そ、それはわらわのことかなのだ。イーサムの娘、どうしたのだ?」

「……よく分からんぞ? つまり、黒ゴミと婿が交尾するには、婿が他の女とスルとかどういう意味だ?」

「つまり、アルテア姫とヴェルトが交尾してアルテア姫がパワーアップするには、ヴェルトがアルテア以外の女と事前に交尾しまくっとけば、より強力になるということなのだ」


 ダメだ。何度聞いても意味不明すぎるその理論。

 だが、ユズリハも俺たち同様、あまり意味は分かっていないはずだったのだが、ポイントだけかいつまんで、そしてついに火に油にニトログリセリンを放り込んだ。



「ん~~~~~~? まあいい。それなら、婿、交尾しよう!」



「「「「「「ちょおおっ!」」」」」」



「他の女はやらないんだから、丁度いい! 私は交尾したい! 婿、交尾しよ!」



 そのユズリハの発言は、俺たちを驚愕させると同時に、これまで揺らいでいたこの場に居る女たちに、一つの覚悟と答えを与えてしまった。



「おっ……おまちなさい! ちょっ、その、あれですわ! アルテア姫がパワーアップしてこの状況を打開するのが得策なのだとしたら、この際、ワタクシがまずはヴェルトのお相手をしますわ!」


「ふざけるなっ! そんなこと誰がさせるものか! もういい、私がやる! 私がする! 私がやる!」


「いい加減にしなさい、あなたたち! この期に及んで何を暴走しているのよ! ここは………あ~~~もう! いいわよ、私がするわよ!」


「そんな………そんなの……ヴェルト様が他の女性と行為に及ぶところを黙って見ていろと? そんな生殺しは耐えられません!」



 女たちの心に生まれた覚悟。それは。「後先考えるな。もう、ヤッちまえ!」という後先考えない暴走だった。

 そして、エロスヴィっちは……


「既に異空間のここから外へ脱出はできないが……時空間術式!」


 この亜空間の中に、更に渦巻く時空間のようなものを作り出し……



「この中に入れば外の世界と時間の流れが変わる……こっちの一分でだいたい6時間程度……本来わらわが戦争の合間にオナゴとチョメチョメするためだけにしか使わなかったが……6時間あれば若いし全員ヤレるはずなのだ! イッて来いなのだ」


「「「「「はぅ!!??」」」」」



 そう言ってサムズアップするエロスヴィッチ。いやいや、あの親指へし折りたいんだけど?

 っていうか、こいつ外へ脱出はできないとか嘘じゃねえのか?

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