第387話 モンスターハント
よく、体のデカイ奴を見たら、「何食ったらこんなデカくなる?」と聞くが、この場合は、「何食ったらこんな風になっちまう?」だ。
「うひゃひゃあああああああっはっはっはっはっは!」
これが人間だと誰が信じる?
「ほほう。猫の真似事をするか。にゃーとは鳴かんのかのう?」
可愛らしい犬の着ぐるみは完全に破け、中から飛び出したのは、羊の胴体、獅子の頭部、そして巨大な蛇の尻尾。
そして特徴的なのは、顔は獅子であるが、その鬣一本一本がドリルという、もはや完全ごちゃまぜの異形種。
「あれは、キマイラ……ではありませんの?」
「マジかよ。こりゃまた、図鑑でも幻扱いされるような珍種だな。しかも、ドリル付きは、世界初だな」
「キマイラというかキメラというか、見てて気持ち悪いんでどうにかならないんすか?」
「う、ひ、ひいい、ぐ、グーファ常務に、こんな能力があったなんて」
「……婿……何で気持ち悪いのばっかなんだ?」
四足歩行で高さは五mほどか? 尻尾の大蛇の長さまで入れると、長さがまるで分からん。
「うひゃ、うひゃひゃひゃ! 喰う喰う喰ううううう! 元々、命令を聞かなければ俺が紋章眼喰っちゃう予定だったし、丁度いいよ! 喰っちゃう喰っちゃう!」
そして、腹をすかせた、最も危険状態の怪物は、全身を輝くエネルギーで身を纏い、それを発散した。
「うぎゃっはあああああああああああ!」
巨大な大蛇の尻尾が、何十、いや、何百mと伸び、まるで鞭のようにしなり、ハンマーのように周囲の建造物を薙ぎ倒した。
「ちょっ! お、おい!」
「シャ、シャレにならないんで………」
縦に長く天井に向かって伸びた建造物に亀裂が走り、それは多くの住民が住んでいる王都中心に薙ぎ倒され、巨大な音と世界に充満するほどの粉塵、そして地底族たちの悲鳴が響き渡った。
「やりやがった……こいつ」
「ひどすぎます……こんなの……こんなの、あんまりです!」
戦争は、命同士のぶつかり合い。だだっ広い戦場で行われるからこそ、そこに積み上がるのは屍だけ。
だが、これはひどい。栄華と発達を極めた地底世界の美しい街を、一瞬にして瓦礫の世界へと変えた。
思わず、シロムの光景を思い出させた。
「う、あ、誰か、誰か助けてー!」
「おい、下敷きなってる! この瓦礫を砕くのを手伝ってくれ!」
「うわあああああん、うわあああああん」
「ばけもんだあああ! ばけもんだあああ!」
「逃げろーッ! 螺旋五槍も食われちまった! もう、おしまいだ!」
こんな光景と被害に対する反応は、種族が違えど違いはねえ。
「いやっひゃあああああ! 美しいデコレーションのケーキにフォークを入れる感覚に似てる! そうだよそうだよ、どんなに美しいものも食べるには形を壊さなきゃいけないんだ! 外から形を壊して、口の中に入れて、更に歯と舌で原型なくなるほどグッチャグチャにするのが、生物の本能だ~! いやひゃ! いただきますいただきます!」
だというのに、こんなことをやらかしたバカは、ヨダレダラダラ垂らしてラリってやがる。
「おのれえ、それまでだ化物!」
「螺旋五槍の仇だ!」
「今すぐ死刑だ! 今すぐ死ねいッ!」
なのに、なんで来るんだよ!
「やめろ、テメェらッ!」
武装した地底族たちが次々と集結してきやがった。
自分たちの世界をたった今、無慈悲な暴力で破壊した化物を倒すために。
だが、分かる。
こいつらじゃ、勝てねえ。
「螺旋弩弓を構えよッ!」
「螺旋十指、奴を取り囲むぞ!」
「残りの者は救助にあたれ!」
「この化物、許さんぞ! 我らの国を汚した駄作めっ!」
各々のドリルを構え、そして戦車のような車輪付き巨大弩弓の刃先にはドリルが装着されている。
地底世界の兵器、兵力、そして力を持って、怪物に一斉攻撃を仕掛けようとする。
だが………
「地底族は、ニート君以外はもういらないから、いいや」
一閃!
振り抜かれた巨大なキマイラの右腕の爪によって、奴らは体の原型が分からぬほど粉々にされた。
「な………ち、ちっくしょう!」
「恐れるな! 撃て撃てッ!」
そして、デジャブ。
「おやめなさい! 逃げるのです!」
「ちっ、このクソバケモンが!」
今度は右腕でなく、巨大な左腕が、その一面をなぎ払うように振り抜かれ、巨大な弩弓ごと次々と地底族が吹き飛ばされていく。
「い、いや、いやああ! グーファ常務、もうやめてください! もう、これ以上はやめてください! このままでは、この世界が!」
「あひゃひゃひゃひゃ! いいじゃんいいじゃん! っていうより、もう、いらないじゃん、この世界! 祠もカラクリ兵器も紋章眼も揃ったから、いらないじゃん! 喰っちゃうか、廃棄しちゃおうよ!」
妖精の泣き叫ぶ声が聞こえながらも、一切思いとどまることがねえ。
ただの、腹をすかせた肉食動物の方がまだ可愛げがある。
食に狂い、溺れ、我を忘れてひたすら欲望に走るその姿は、かつての『あいつ』の目を思い出させた。
だが、
「けっ、俺の姉さんの方が……美人で素敵だったぜ。まあ、食が絡むと品がないのは同じだが、クレランは許せる。でも、テメエはダメだ!」
「うひゃひゃ? ひゃっ?」
「害獣は処分してやるよ! 見てて気持ちワリーんだよ、テメェは。ふっとんでろ!」
こんなイカれたもんに、イチイチ付き合ってられるか。
「ふわふわレーザー!」
一瞬で終わらせてやる。空間の魔力を凝縮させて、放つ!
しかし………
「トランスフォーメーション・月光眼!」
「なにいっ!」
獣の瞳が満月に変わった。地についていた足が一瞬で浮かび、見えない力に後ろから引っ張られるように俺たちは飛ばされた。
「これは、月光眼ですわ!」
「うわ、なに、あの中二病丸出しの目は? なんとか神眼?」
「ニート君だって紋章眼とか……で、でも、なんなんですか、この力は!」
ちっ、そういや、ヴァンパイアを喰ったとか言ってたな。
そうなると、能力を取り込んでても不思議じゃねえか。
「ち、めんどいな。しかも、首吹っ飛んでも死なない不死身の肉体だし………」
「ほほう、月光眼を取り込むとは、なかなかやるの~」
斥力の力。これがある限り、魔族大陸での再現になっちまうな。
だが、あん時は何だかんだでこの力についても色々と見た。
ならば、対策だって立てられる。
「ふわふわ空気爆弾」
「ひゃ? ひゃぐわああああああああああ! めめめ、目がッ!」
目に見えない空気の爆弾を、巨大キマイラと化したグーファの瞳の目の前で爆発させてやった。
たとえ再生できても、この一瞬は目を閉じる。この間は、月光眼を発動できねえ!
「うひゃがあああああああ! この野郎ッ! ら、螺旋弾ッ!」
次の瞬間、ドリルと化した鬣が、ミサイルのように次々と放たれる。
周囲に放たれたドリルは、無差別に周囲を破壊することになる。
だが、俺には通じねえ。
「丁度いい。そいつ、利用させてもらうぜ」
「ひゃがっ?」
「ふわふわ
撃ちまくられたドリルがどうした。
俺がかつて何と呼ばれていたか知らねえのか?
リモコンだぞ?
ドリルを全て俺の魔力と空気で包み込み、無差別に放たれたドリルをまとめてコントロールし、そしてグーファにまとめてお返ししてやる。
「ふわふわ突貫ッ!」
「うひゃがあああああああああああああああああああ!」
「くはははははは、捕獲完了だな。そして………」
紋章眼も発動できず、全身にデカイ釘のようなもので抉られ、貫かれ、悲鳴を上げるグーファ。
その巨体から、人間と同じ真っ赤な血が吹き出し、地底を鮮血に染める。
だが、容赦しねえ。
「ええ。不死身の肉体なのでしたら、身動き取れなくし、意識を断てば終わりですわ」
おっと。俺が何かをしようとする前に、既にフォルナが動いていた。
「人体が脳から電気信号を出して肉体に命令をして体を動かすということを知っていますか? この技は、その信号を強制的に遮断させる技。つまり何も考えられず、肉体を動かすことすらできず、相手を封じる技ですわ」
両腕を前に構え、光り輝く魔法陣の中で練り上げられた金色の彗星のごとく、グーファに飛び、輝く聖拳を叩きつける。
「封雷世界!」
その力を見るのは二年ぶり。
かつて、俺の浮気……いや、浮気じゃねえか、俺の女関係に発狂乱したフォルナが新開発した技。
一度はあれに封印されそうになったんだが、改めて見るとゾッとする技だ。
全身を痙攣させ、身動きどころか、声すらも発することができないグーファ。
その、数分にも満たない時間を作り上げた俺とフォルナは言葉を発せずとも、お互い笑みを浮かべて頷いていた。
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