第372話 瞬雷殺

「………で、ニート。結局こいつはなんだったんだ?」

「俺も知らない」


 もう、何だか色々と可哀想になってきた。

 こいつら、自信満々だったり、人を見下したりするわでムカつくんだが、そのほとんどが今のところ大したことなくねーか?


「まあ、いいさ。ニート、さっきも言ったように、俺は愛する娘のために行かなくちゃならないんでな。かなり手荒に地上へ戻らせてもらうが、邪魔するんじゃねえぞ?」

「勝手にしたらいいんで。その代わり、俺の名前とか一切出さないでね、見逃したとか」

「安心しろ。お前が二度と邪魔しねえ限りはな」


 つまり、邪魔するなら容赦しねえってことだ。たとえ、お前が紋章眼を持っていようともな。

 すると、ニートは呆れたようにため息ついて、そのまま壁に体を預けて肩の力を抜いた。


「あのさ………最後にちょっと聞きたいんすけど………」

「なんだ?」

「あんたさ………信じた人が嘘付いたり、裏切ったりとか………そうなったら、友達多そうなあんたならどうする?」


 それはどこか俺を試したかのような質問だ。

 どうしてそんな質問を? さっきのトラウマみたいのが、相当ショックだったのか?

 まあ、それはさておき、嘘つかれたり裏切られたり………はは………


「それはタイムリー過ぎる話だ」

「なに?」

「ついこの間まで、幼馴染に殺されそうになったり………仲間に裏切られたりしたしな」


 フォルナがその言葉を聞いて顔を伏せ、そして俺はマッキーを思い出していた。

 そして、そんな俺はどうするのか………



「テメェの望む答えかどうかは分からねえけど、別にいいんじゃねえか? 友達だからとか、嫁だからとか、別に何でもかんでも話さなきゃいけないわけじゃねーし、意見が違うこともあるさ。だから、この世には絶交と離婚が耐えねーんだよ」


「……それで、あんたの気は済むのか? 割り切るのか? 意外だな。色々頭悪い言葉をこねくり回して、真の友情がどうとか、愛がどうのこうのとか言うと思ったのに」


「テメエは不良をなんだと思ってるんだ。ただ、問題なのは、それをどこまで許容できるか、そんなことをされてもそいつを嫌いになれないか………そんなとこじゃねえの? 俺の場合、裏切られたりしてムカつくから、泣かせて仕返ししてやりたいぐらいに思うが……まあ、そんくらいまでだな」


「そんなんで、相手を許すのか?」


「許すかどうかなんて、そりゃ、相手によるさ。でも………それでもそいつのことを、俺が憎むことも切り離すこともできねえなら………自分の気持ちはもう答え出てるってことだからな」


 

 自分でも言いたいことは上手く言えたかどうかは分からない。でも、ニートはもう何も言っては来なかった。

 気づいたら俺とフォルナとユズリハの三人はそのまま扉を出て走り出した。

 俺たちを見送ったまま動かない、ニートと妖精には一切振り返らずに。


「しばらく、洞窟みたいな一本道が続いてるな」

「でも、空気や風の流れが複雑ですわ」

「壊すか?」


 さて、とりあえず出たものの、どうやって地上に戻るか? 俺やフォルナの感知でも、地上の気配をあまり感じない。

 つまり、相当奥深く、そして地上との距離が離れてるということになる。

 だが、地底族たちはドリルを持ってるとはいえ、結構簡単に地上に飛び出した以上、どこか外へと通ずる道や穴があるはずだ。

 それを探せば………


「待てい! 待て待て待てい! 止まれい、貴様ら!」

「お前らか、駄作の侵入者ってのは!」

「地上の奴らが帰ってこないから何があったかと思えば、ドサクサに紛れて侵入してたな」


 道の先で俺たちを待ち構えていたかのように、量産型地底族の連中。


「ヴェルト」

「構わねえ。このまま行くぞ」


 無視だ。強行突破する。


「あ! あいつら、止まらねえ! ナメやがって!」

「ふん、地上に出た奴らとの戦いで、ひょっとして地底族の力を把握した気になっているのでは?」

「はっはっはっは! それは、愚かで哀れな。あんなもの、ラブ・アンド・ピースに唆されて、功を焦った雑魚どもの集まりだったと理解していないと見える」

「そう。しかし、我らは違う。あんな裏街のチンピラ集団と違い、王国螺旋兵として練磨を重ねてきた、我らの螺旋を思い知れ!」


 とりあえず、パッと見てみて、地上に飛び出してきた連中と大して変わらん。

 あえて言うなら、地上に飛び出してきた奴らは工事現場のシャツとニッカポッカと足袋を履いたガテン系タイプ。

 しかし、今現れてるのは、全員お揃いの青いツナギを来た工場内のエンジニアタイプに見える。以上。


「ふわふわモーセ」

「「「「「ぎゃあああああああああ!」」」」」


 壁のように立ちはだかっていたが、俺の力で壁を両断して真っ二つに割る。

 何の前触れもなく体を浮かされ、両端の壁に押し付けられた地底族。


「がはっ! な、なにがっ、あったんだ!」

「くそ、待て、お前ら!」

「追いかけろ、絶対に逃がすな! こんなこと、螺旋五槍に知られたら大変なことになる」


 無視無視。後ろから何人か追いかけてくるが、そんなの構っている場合じゃねえ。

 さて、この道はどこまで続いているのやら………



「ふん、騒がしいな。相手の力量も見極めずに戦おうとするからそうなるのだよ」



 誰かいる。その道の先に俺たちを待っていたかのように腕を組んで待ち構える男。

 細身でツナギを着て、おまけにメガネをかけている。スラッとした感じのタイプ。


「おおお、あ、あの方は!」

「ねじまき部隊隊長のドライバ様!」

「はっはっはっは、不運な奴め。あらゆる地質の脆い部分を的確に見抜く、データ螺旋の異名を持つドライバ様の螺旋戦術」

「地上の駄作どもには勿体無い力、特と味わうが良い」


 後ろから慌てて走って追いかけてくる雑魚たちが、丁寧な解説をしてくれた。

 それと同時に、メガネをくいっと上げた男が人差し指を一本俺たちに向けて構える。

 なんと、手足などが仰々しいドリルだと思っていたのに対し、この男は指一本だけの細いドリル。

 戦場で、大剣や槍が交じり合う中で、一人だけ小さなナイフを武器にするような感じだ。



「螺旋に大きさも無駄な破壊力も必要ない。重要なのは、的確な場所に誤差もなく螺旋をねじ込むこと。一撃突貫の力を――――――」


「疾風迅雷ッ!」



 まあ、的確に急所を一ミリのズレもなくとか、相手が動けば難しいわな。しかも、相手は雷速という人智を超えた速度なんだから。

 フォルナがガチで動けば、そりゃ反応できずに気絶しちゃうわな。


「なにいい! ドライバ様が一瞬で!」

「なんだ、何が起こったんだ! 何も見えなかったぞ!」

「こいつら、一体、何者なんだ!」

「いや、待て待て待て! お前ら、それ以上先を行くな!」


 道はまだ一本だな。まあ、返って迷わなくていいな。


「なあ、ゴミ婿~、いつまで走るんだ」

「まあ、今はまだ真っ直ぐでいいだろ。そのうち、どこかでか………ん?」

「また誰か居ますわね、ヴェルト」


 今度は誰だ? 


「ドライバ、この愚か者め。重要なのは常に弱点だけを突くことではなく、状況に応じて対応することこそが最も大事なことだと忘れたか」


 うおおおおお、リーゼント頭がドリルという、なんか無駄に漢臭漂う兄ちゃんだ!

 顔も濃ゆくて、いかにも絶滅したツッパリって感じがするぞ!


「おおお、なな、なんてこった! ついにあの方が!」

「たかが駄作に、あの方が自ら出るとは! だが、これでもうお前たちも終わりだ!」

「そう、あの方こそ、『螺旋五槍』たちが最も信頼の置く、『十指の螺子』と呼ばれた選ばれし十人の地底族! ウズマ様だ!」

「その強烈なスパイラルヘアースタイルで、手足を一切動かさずにあらゆるものを突貫するお方だ!」


 後ろの解説地底族たちが言うように、ウズマと呼ばれた戦艦ヘッドの男は腕を組んだまま一歩も動かず、ただ俺たちを一点に見つめる。


「見せてやろう。己の信念を貫く証! 道を突き進み、そして掴む! これが俺の、『渦巻き突貫道』!」


 戦艦ヘッドの頭が伸びて、回転しながら俺たちに向かって突き進んでくるが……


「サンダースクリューナックル!」

「ッ、な、なんだとッ!」


 俺たちの前に立ったフォルナが、突き進んでくるドリルリーゼントの先端めがけて、思いっきりパンチした。

 ドリルにパンチをぶつけるなんて、正気の沙汰じゃないと俺でも思えるだけに、こんな所業をしたフォルナに、地底族が驚愕するのも無理はない。

 だが、フォルナのパンチは、コークスクリュー気味にひねりを加えて威力が増したのか、その貫通力は、なんとドリルリーゼントは粉々に砕いた。


「ちょ、うそだろおおおおおお!」

「バカな! 俺たちは幻を見ているのか? あの、ウズマ様の必殺、渦巻き突貫道を!」


 ああ、俺も普通に驚いたよ。

 フォルナ。お前、ドリルを殴って砕くとか、どんだけ男前なんだよ。


「ばかな、お、俺の、螺旋を、駄作の女ごときが……」


 威風堂々と待ち構えてたくせに、急に怯えたように震えて後ずさりする、ウズマという男。

 対してフォルナは少し怒ったように、ドリルを破壊した右拳をウズマに向けた。


「手足を使わず、突貫する? 何をおっしゃいますの」

「ひ、ひいいっ!」

「道を歩くのは、この足! 掴むのはこの手! それすらも知らずに不動のまま手に入れられるものなど、たかが知れていますわ!」


 一瞬で、相手の懐に飛び込み、アッパーを繰り出すフォルナ。

 その威力はウズマを天井まで打ち上げ、天井に背中を強打させてウズマは受身も取れずに落下して、意識を絶たれていた。

 だが、その表情はどこか「……ほ、れ……た」みたいな言葉を無意識に漏らしていた。


「まあ、ワタクシも偉そうなことを言っていながら、この足も二年前から前に進まず、掴んでいた大事なものを零してしまったものですが……」


 どこか切なそうに微笑みながら振り返るフォルナの表情、いや、瞳には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。





――あとがき――

お世話になっとります。年末忙しいっす。ま、ボチボチマイペースでやりますが、明日からしばらく一日一話更新にしたく。ストック切れてないっす。ただ、朝と夜の分の文章チェックして投稿するの、なかなか大変で……他の作品もやってる以上、どこかで狂ってしまい……


というわけで、今日以降の朝投稿は少しおやすみにして、今日の夜投稿からしばらく毎日夜20:02時ごろに投稿することにしますので、よろしくお願いします。


さて、そんな忙しいけど『第七回カクヨムWeb小説コンテスト』に下記作品で参加しようと思います。


『天敵無双の改造人間~俺のマスターは魔王の娘』

https://kakuyomu.jp/works/16816700429316347335


まだ始めたばかりですので、こちらの作品も是非に何卒よろしくお願い申し上げます。

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