第365話 大宴会

 相手を壊滅させたとはいえ、所詮はカラクリモンスター。相手の主要な奴が倒れたわけでもない。

 逆に亜人軍はエロスヴィッチ残党もシンセン組も含めてそれなりの死傷者を出している。

 決して軽くない犠牲に、本来であれば次の手を色々と考えるところなんだろうが……



「ぷっは~~~~~~! めでたいのう! 婿に娘に、そして戦友とまでドサクサの再会! 戦には百の別れもあれば、百の出会いもある。その出会いと別れが時代を作り上げる。たまらんのう。だから戦はやめられぬ!」



 なんか、優勝した力士が飲むような、でっかい器に注がれた酒をがぶ飲みして、イーサムは豪快に笑った。

 そしてそれはイーサム一人が特別なのではなく、大勢の仲間を失ったであろう亜人の兵たちも、火を囲んで地べたに座り込み、所々で輪になって酒を飲んでは笑顔が零れていた。


「キシンも二年ぶり、そしてカイザーに至っては……ぷぷ、ぐわはははははは、そもそも生きていたとはのう! まさか、バルや婿、そしてジャックたちと合流しているとはのう!」

「イエス。ユーのキッズには、エブリデイ楽しませてもらっている」

「時代は変わっているようで、まるで変わっていない奴も居て驚きだゾウ」


 嬉しそうにキシンやカー君たちと酒を交わすイーサムは、まるで居酒屋の酔っ払いだ。

 戦場の空気を感じさせず、まるで久々にダチとの再会を喜んでいるかのように、はしゃいでいた。


「魔族の娘っ子~、ウラ姫だったか? お前も元気そうじゃのう。結婚式は笑わせてもらったぞ」

「……ッ……ふん」

「しかし、……ぐわははははは! おぬし、まだ処女じゃな! まだ小僧に抱かれとらんのか!」

「しょっ! っ、お、大きなお世話だ、この変態ジジイめ!」


 そして、この人のことなど気にしないオープンセクハラも相変わらず。

 真っ赤になって殴りかかりそうなウラがとても哀れだ。

 そんな光景に怯えながら、エルジェラたちが俺に擦り寄ってきた。


「あの、ヴェルト様、あの方、何者なのですか?」

「君が、四獅天亜人のイーサムと戦ったっていうのは聞いたけど、随分と打ち解けているわね」

「あまり、品は宜しくありませんわね」


 ちょっとビクビクがちの、エルジェラ、アルーシャ、フォルナ。

 すると、そんな様子を見たイーサムの瞳がキラリと光った。


「ほほう。デカパイの天空族に、光の十勇者二人……ふむ、つまりウラ姫入れて四人。ワシのユズリハちゃんを加えて五人か」


 やけにニヤニヤした顔で、イーサムは俺を嘲笑った。


「なんじゃ~、小僧あれから二年も経っておるのに、まだ五人しか嫁がおらんのか」

「………おい……」

「しかもじゃ! ワシのユズリハちゃん含めて全員処女のようじゃし……ぐわははははははは! なんじゃ~、小僧、まだ童貞か! や~いや~い、へたれ~!」

「テメエは中学生か! つうか、なんか色々とズレてるだろうが!」


 嫁が五人しか居ないとか、そんな嘲笑を受けるとは思わなかった。

 っていうか、一応こいつら嫁に見えるのか……


「そんな、五人でも足りないと……しかし、ヴェルト様でしたら、その気になればもっと……」

「いや、待て待て待て! 増やす必要は無い! 余計なことを言うな、変態ジジイ!」


 まあ、エルジェラとウラはいいとして……


「嫁……あら、私ったら、他の人からはお嫁さんに見えるのね♪ さすがは四獅天亜人の洞察力は鋭いわ!」

「ワタクシが……ヴェルトの……う、ううう、昔なら、当然と即答したのに、今ではこれほどツライ……」

「私の婿か……ゴミ……ゴミヴェルト……ゴミ婿……婿……………えへへ」


 テンションが上がりだしたアルーシャ、凹んでるフォルナ、そして小刻みに体を揺らしてるユズリハ。

 イーサムの野郎、余計なことを……


「しっかし、ママンから噂は聞いてたけど、やっぱすげーのな、ジャックとユズッちの父ちゃん。何もしてなけりゃ、セクハラジジイだけどさ」

「それはそうだよ、アルテア。武神イーサムは、僕たち魔族の世界でも知らないものは居ない、世界最強候補の一人……はっきり言って、次元の違う相手だからね」


 まあ、アルテアがそう思うのは無理も無い。

 俺たちなんか初対面がアレだしな。女とヤリ終わった後の全裸登場だしな。


「ん? なんじゃ、ダークエルフの娘もおるんか。アレも嫁か?」

「テメエは女と男が居たら、何でもそういう関係になっちまうのか? あれは、ママン……いや、テメエと同じ四獅天亜人のユーバメンシュの娘だよ」

「………ほっ?」


 すると、イーサムは俺の言葉に少し反応を見せて、アルテアをジーッと見つめる。

 俺が言った、ママンの娘という言葉に反応してか………


「ミニスカートと、なかなかエロいカッコしとるが、あれは男に免疫無いのに背伸びするタイプじゃな。恋愛絡みになると慌てるタイプじゃ」


 がっかりだよ! 俺たちは、思わずつんのめって、頭を地面に打ち付けた。

 さすがにふざけ過ぎだと、頭抱えたフォルナが口を開いた。


「とんでもない方ですわね。先ほどから下品な話ばかり。今後の作戦など、まるで話しませんの?」

「なんじゃ~、ファンレッドの娘よ。戦の経験はあっても、男との経験がないと、考えが小っこいの~」

「んなっ!」


 フォルナの苦言に対し、まるで意に介さずに開き直るイーサム。

 しかしその態度にも言葉にも、絶対的な自信が漲っている。


「あんな奴らに作戦もクソもあるまい。どうせ考えたって、次々と見たこと無い兵器持ってくるんじゃ。意味ないじゃろ!」


 …………否定できねえ……


「重要なのは、奴らの主要な者たちを叩くことじゃ。数日前の噂では、地底族やら深海族までラブ・アンド・ピースと結託しているという。おまけに、ヴェンバイ、ユーバメンシュ、そしてロアの三人は洗脳されているとも聞いておる。そんなもの、作戦でどうにかなるものでもあるまい」


 ………まあ……そうだけど……


「つまり話は簡単じゃ。どうせ考えても分からぬなら、単純なままで戦えばいい。最強のワシを使って力の限り暴れることこそが、現在の亜人族における最強の作戦じゃ」


 一度ぐらいはここまで自信満々に自惚れてみたいもんだな。


「しかし、相手は今あなたが仰ったように、世界最強の五人と呼ばれてあなたと肩を並べる、弩級魔王ヴェンバイ、狂獣怪人ユーバメンシュが居ますわ! それに、我らの真勇者ロア様も」

「ふふん、世界最強の五人か。ちゅうても、ヴェンバイとユーバメンシュは敵の手に落ち、カイレばーさんも既にロートルな以上、未だ現役絶好調のワシかキシンが最強ということじゃないかの~? いや、何があったかは知らんが、キシンも姪っ子のキロロに政権奪われとる時点で、ワシには及ばぬかのう? ということは、やはりワシが最強ということになるのう。グワハハハハハハハ!」


 なんだか、スゲーバカみたいな作戦なのに、非常に説得力あるのが困る。

 しかし、だからこその世界最強なのかもしれないと、思わされた。

 ここまで自信満々に言われては、さすがにフォルナも言葉を失ってしまったようだ。


「まあ、アンタが最強なのは分かった。ただ、アンタは何でここに居るんだ? 神族大陸の争いに興味無かったんじゃねえのか?」

「ん?」

「まさか行方不明中のエロスヴィッチの仇ってわけでもねえだろ?」


 それは、素朴な疑問であり、みんなが思っていたことでもある。

 神族大陸の争いにも興味を無くし、世界同盟にも乗り気ではなかったと聞く。

 それなのに、どうして今、ここに居る?

 その問いかけに、イーサムは酒を飲む手を止めて、俺たちに正面を向いた。


「な~に、単純なことじゃ。攻め込まれる前にこっちから攻める。それだけじゃ」

「攻め込まれる前に?」

「考えてみよ。生きてはいるが、カイザーは既に四獅天亜人の一角としては崩れており、ユーバメンシュもエロスヴィッチも崩壊させられた。そうなるとじゃ、もはや亜人の軍を率いて戦えるのはワシだけじゃ。ラブ・アンド・ピースは、まず世界に討って出るなら、亜人を先に滅ぼすのが楽じゃろう」


 確かに、魔族大陸にはまだ魔王も存在するし、人類には光の十勇者も残っている。

 しかし、世界三大称号である四獅天亜人に関しては、イーサムしか存在しない。

 既に軍を率いる立場じゃないカー君、敵の手に落ちたママン、行方不明のエロスヴィッチ。そう考えると、今、亜人の社会は混乱中であり、それをまとめられるのはイーサム一人しか居ない。


「ワシ一人を討ち取れば、亜人は崩壊したも同然。じゃから、奴らが亜人大陸に攻め込む前に、ワシの方から出向いてやったまでじゃ」


 そういうことか。

 確かに、亜人が強力とはいえ、それを率いる者が居なければ、ただの烏合の衆。

 下手に体制を立て直される前に、亜人を滅ぼそうというのは、考えられなくも無い。

 だがしかし、それを読んだイーサムは、先手を打ったというわけか。


「それにしてもじゃ、小僧」

「ん?」

「ユズリハちゃんは、お前にやるつもりだったから別に良い。ただ、二年前のことを覚えているか?」


 少しだけまじめな顔をして、急になんだ? 二年前? つうか、忘れるわけねえだろうが。



「ファルガ王子、ウラ姫、ムサシ。あの時、お前は世界同盟が発足されるよりも前に、異なる種族と絆を結び、そしてワシをしびれさせた。それが今はなんじゃ? ……パワーアップしとるではないか! なんじゃ、このメンツは! どれだけしびれさせれるつもりじゃ!」



 マジメな顔をしたかと思えば、急に豪快に笑い出し、そして再びマジメな顔に戻った。


「二年前、あの時のままのお前で世界を渡り、変わらずに居ろと言ったワシとの約束は、守ってるようじゃな」

「いや、別にその誓いそのものは気にしちゃいなかったけど……まあ……こうなった」

「ぐわはははははは、結構結構!」


 なんか、イーサムはスゲー嬉しそうだ。子供のように笑って、俺の背中をバシバシ叩いてくるが、その度に俺の胸の奥が熱くなる感覚がした。

 こいつの期待に応えていた? よくわからないが、もしそうだとしたら、何か嬉しい気分だった。

 すると、少し落ち着いてきたタイミングを見計らって、バルナンドが歩み寄ってきた。


「イーサム……」

「お~、バル~、ワシに黙ってスモーキーアイランド行ったきり行方不明と聞いたが、ずるいぞ? 一人だけこんな楽しそうな連中と遊んでおったとは」

「いや、遊んではおらんよ。まあ、楽しかったのは否定せんが……ではなくじゃ。イーサム、実はワシらもワシらでそれぞれラブ・アンド・ピースに用があってこの地に来た」

「ほほ~う………訳ありのようじゃの~」

「うむ。参謀としてあまり個人的なことを組織に持ち込みたくなかったが、世界もこういう状況じゃ。イーサム、ここは協力せんか?」

「ん? いいぞ~」


 …………?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る