第363話 乱入
ある意味では、俺に世界の広さと厳しさを教えたのは、あいつだった。
ズタボロにされ、腕までぶった切られ、そして何度も死にそうになった。
あいつがその気なら、一瞬で俺は死んでいただろう。
こうしてその姿を見るだけでも、あの時を思い出して僅かに震えちまう。
だが、恐れを感じながらも、俺はもう一つの感情が生まれていた。
「ガーハッハッハッハッハッハ! ガーハッハッハッハ!」
強力な力と巨大な刀でカラクリモンスターたちを蹴散らすイーサムの姿に、武者震いと、胸の奥が熱くなる感覚、そして同じ男としての憧れてしまいそうになる、圧倒的な存在感。
「う~~~~、な、何でゴミ父が! ゴミ父が居るんだ!」
「オヤジの奴、ずっと亜人大陸の防衛で隠居しとったくせに、ここに来て表舞台に戻って来おった!」
「やれやれ、参謀であるワシが居ない間に好き勝手にしおって」
「相変わらずだゾウ。再び戦場に舞い戻ったか、武神イーサム!」
「マヂありえねーし! なに、あのライオンジーサン!」
そういや、ジャックとユズリハの実の親ってのをすっかり忘れていた。
まあ、亜人であればみんな驚くわな。
それは、同じ亜人に留まらない。
「ヒュ~~~~~~、グレートだ、マイフレンド・イーサム」
「グラアアア、あれが世界最強生物のイーサムだってのか?」
「この僕が、寒気? ………紛れもなく本物のようだね」
「おい、ヴェルト……あいつだ……あの、変態ジジイだ!」
魔族の王族も……
「あんなデタラメな力が、この地上に存在したというのですか?」
天空の皇女も……
「ワタクシも、初めて見ましたわ」
「ええ。あれが……伝説の武神……四獅天亜人にして、世界最強と呼ばれた……イーサム・コンドゥ」
人間の王族も含め、その度肝を抜かれていた。
「ガーハッハッハッハ、なんじゃい、こやつら。さっきから豆鉄砲ばかり撃ちおって」
いや、弾丸! 弾丸! 弾丸当たってるのに、何で平然としてんだよ、あのジジイは!
なんか「痒い」みたいに体を掻いて……
「局長。前に出すぎだと思う。自分たちならまだしも、エロスヴィッチ軍残党たちではついてこれない」
「そうですね~、っていうか、局長が全力で突っ込んだら僕たちでも後を追えませんよ」
はしゃぐイーサムの真後ろにピタリと付き、共にその鋭い剣術と身体能力でカラクリモンスターたちの攻撃をかいくぐる奴らも、俺は知っている。
「あっ、なあ、ヴェルト! あいつら、二年前のフットサル大会に出てた!」
「ああ。シンセン組副長のトウシ・ヒルジガタ。シンセン組一番隊組長のソルシ・オウキだな」
「そういえば、ヴェルト君たちは知っておったのう」
この二人もまた懐かしい。
ソルシとは初めてイーサムと出会ったときにムサシの上官として言葉を交わし、そしてトウシとは、何かガチフットサルで遊んだっけ?
「オラオラオラオラオラオラ!」
「シンセン組のお通りだ!」
「ガラクタども、道開けろコラアアアアア!」
他の連中も、顔は見たことなくても、誰もが青い羽織袴を着て、その背中には「誠」の文字。
「死ね死ね死ねー! ムサシお姉の分まで、私がお前たちを死なす!」
「絶対負けないだよ! ラブ・アンド・ピース、決着を付けるだよ!」
「これまで蹂躙された亜人たちの、そして世界を騙した罪を、今、償わせるなの!」
おお、あの娘っ子たちも、随分と立派になったもんだ。
覚えているよ。ムサシを慕っていたチビジャリたち。
二年前までは、まだまだガキだったのに、今じゃそれなりに精悍に育ってやがる。
ジューベイ、ウシワカ、ベンケイの三人娘が、隊の先頭に立って突き進んでいる。
「ピピピピピピ、迎撃迎撃。迎撃態勢ニ移行……」
「やかましいわおんどりゃー!」
そしてやはり、その先頭を駆け抜けるイーサムは別格。
俺との戦いの時は素手の全裸だったが、今では鎧と羽織を纏い、その手には人間の大きさぐらいはあると思われる太刀。
その太刀はひと振りすれば、カラクリモンスターの列を吹き飛ばし、敵にぶつければ一瞬で両断する。
「ツエー………………」
思わず、そう呟いてしまうほどの力だった。
「っ、ヴェルト! ワタクシたちも今のうちですわ! 今ならこの混乱に乗じて、ワタクシたちだけでも先に!」
「ええ、そうよ、ヴェルト君! こんな嬉しい誤算はないわ。恐らく、ランドのラブ・アンド・ピースも、武神イーサムの登場に慌てているはずよ!」
ああ、そうだな。フォルナとアルーシャの言うとおりだ。
マッキーやマニーも、こんなデタラメな破壊力を振り回すイーサムらシンセン組は誤算だったはずだ。
ならば、コスモスを助けるには…………
「は~~~~~~~~…………なのに、どうしてこうなっちゃうのかね~、俺は」
「ヴェルト? どうしましたの?」
俺は深々と溜息を吐きながら、気づけば警棒を両手に握っていた。
「ヴェルト様、彼らが戦われている間に、潜入されるのでは?」
「ああ。当初の予定ではそうだったな。だがな……こうなると話が変わる」
そう。正直、亜人の残存兵ではカラクリモンスターの軍勢には敵わないだろうと思っていた。だが、今こういう状況を見せられると、自分自身が「情けない」と思っちまう。
そういう計算してこれまで戦ってきたわけじゃねえだろ? と。
「あいつら全員ぶっ倒した方が、敵の戦力も大幅に下げられ、都合がいい」
いや、それは建前だ。
これは、男にしか分からない感覚かもしれない。
目の前でこれだけの戦いを繰り広げられ、自分たちはコソコソ潜入?
キシンも、ジャックも、チーちゃんも、表情には好戦的な笑みが浮かんでいる。
そうだ……
「あんなの見せられて、燃えねえわけねえだろうが!」
その時、俺の掛け声に対して二つの反応が返ってきた。
「「「「「おうっ!」」」」」
「「「ちょっ、待ちなさい!」」」
男と女で綺麗に分かれ、シンセン組の熱気に影響された俺たちは飛び出していた。
「おい、敵は横並びで迎え撃ってる。俺たちはその側面からブチ破るぞ!」
「了解だゾウ。横陣を引き裂くゾウ!」
ジャックの背に乗り、広く横並びしているカラクリモンスターの真横につけ、俺たちはそれをドミノ倒しでもするかのように、一気にブチかました。
「ふわふわ極大レーザーッ!」
「森羅万象!」
「ロックンロールクラーッシュ!」
「グルアアアア、ボンバーエンド!」
「やれやれ、……影響を受けやすいお兄ちゃんだ!」
「ほほほ。気分が良いじゃろう?」
「オルアアアアアア、オヤジに負けてられんわ!」
これまでの鬱憤を全て晴らすかのように、俺たちはブチ抜いてやった。
それは、感情無きカラクリモンスターたちにとって、混乱や衝撃を与えるものではないが、代わりに戦場で荒ぶる亜人たちには伝わった。
「なんだ、一体なにがあった!」
「右翼から援軍です! 数は分かりませんが、凄いです! 圧倒的な力で突き進んでおります!」
まあ、その味方は数える程度の人数しかいないけど、一人一人が一騎当千と考えれば、一万近くの援軍とも言えるわけだ。
「……局長……獅子竜がいます」
「なんじゃと~? ちゅうことは、ジャックか!」
「うわ~、本当ですよ。あれ、王子じゃないですか?」
「あやつめ、家出したと思ったら、何故こんなとこに……いや、ジャックはどうでもよい! 他にはおらんか? ワシの、可愛い可愛いユズリハは一緒におらんのか!」
さすがに、イーサムたちも俺たちの出現に驚いているようだ。
くははははは、懐かしい!
「ちょっと、ヴェルト君たち、先行しすぎよ!」
「仕方ありませんわね。こうなってしまえば、もう後戻りできませんわ」
「あ~~~もう、何で、あたしらチームの男はバカばっかなん?」
「コスモスを救うための前哨戦というところですね」
すると、勝手に飛び出して暴れる俺たちの後方から、竜化したユズリハの背に乗って、フォルナたちも追いついてきた。
「なはははは、ユズリハ、おどれもオヤジにいいとこ見せたいんか?」
「……ふん……おい、兄……ゴミ共はお前が運べ」
「……はっ?」
するとユズリハは、ジャックと並走するように飛び、あろうことか体を斜めにして背に乗ったフォルナたちを、ジャックの背に落とした。
ん? どうしたんだ? と思った瞬間、ユズリハは俺を見た。
「ゴミヴェルト、乗っていいぞ」
「…………はっ?」
「乗っていいと言っているだろ、ゴミヴェルト! ゴミは、私の言うことを聞いてればいいんだ! アレだ! 合体だ! また合体する約束を忘れたか!」
なんか急に要領を得ずに捲くし立てるユズリハだが、その「合体」という提案は、先日披露した「騎獣一体」のことか?
ユズリハの奴、自分からアレを披露しようってのか?
だが、確かに、アレをやると相当なパワーアップになるし……
「仕方ねえ、やるか!」
「ん!」
俺はこのとき、特に深く考えずにそれを了承した。
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